ランカーズエイジ ~謎の魔物と戦う少年少女たちの物語~

朝倉牧師

第一章 ランカーズ編

第一話 日常的な俺たちの戦闘風景 

 今日は二〇一六年六月十二日で、現在時刻は午後三時二十四分。


 この俺、凰樹おうきあきらは朝から同じ学校に通う仲間と共に【GE】と呼ばれている異形の生物魔物と戦っている。


 その俺達が使っている武器は火薬式の実銃では無いし銃口からビームが飛び出るようなアニメや映画で見るような武器でもない。


 業界最大手の帝都角井をはじめとする、いくつものトイガンメーカーが製造している玩具。それを政府公認の元に特殊改造したエアーガンがGEと呼ばれる魔物に有効な数少ない武器のひとつだったりする。


 同じエアーガンでも狩猟につかうクラスの物は通用しないのはいまだに謎だが。


 GEに通用する武器はこのトイガン以外の他にもいくつかあるが、核兵器や化学兵器も含めて人類が人相手に戦争で使用する兵器は何一つとしてGEに有効でないというのも皮肉なもんだよな。戦車や航空機は移動手段としては使えるが、奴らを倒す攻撃手段にはなりえない。


 そのおかげでどんな強大な力を持つ軍事大国も世界中に乱立する環状石ゲートから湧き出るGEの侵攻を防げず、一九八六年の侵攻開始からわずか三十年で多くの国がこの世界から姿を消した。


 辛うじて残っている国の多くも人口は十分の一程度ときたもんだ。


 日本をはじめとする島国や、島国ではないがアメリカなどは何とかある程度の国力を保っている状況だけどな。


 これにはいくらか事情があってGEが大量出現したタイミングや量にかなりの差があり、意外に日本は環状石ゲートの出現もGEの侵攻も一番遅かった。運がいいのか悪いのかは別として……。


 そんな事より、今はここに陣取っているGEの排除が優先か。さてと……。


「ゴーグルに内蔵されたレーダーの情報通りだが、GEはこの先に集まっているな。向こうにも結構いるようだ……。俺はこの程度はいつもの事だが、あいつらの方は大丈夫か?」


 俺が今いる場所は廃墟と化して数年が経ち、朽ちてひび割れたアスファルトから雑草が生い茂った何処にでもある田舎の団地だ。


 目的の場所はこの奥の公園なんだが、そこに行くまでに邪魔なGEは倒していく必要がある。弾代もタダじゃないんだが、雑魚の小型でも一応討伐報酬は出るしな……。


 この先にいるのは中型GEミドルタイプで、兎と蝙蝠を混ぜたような姿をした魔族合成動物種MIX―Aと呼ばれるタイプで数は四。その他に蜘蛛と蜥蜴を混ぜたような姿のMIX―A、小型GEライトタイプが二十ほどその周りに蠢いている。


 MIX―Aと呼ばれる中型ミドルタイプGEは兎の背中に生えた不釣合いな蝙蝠の翼を広げ、俺の気配に気が付く事も無くキィキィと耳障りな鳴き声をあげながら辺りの様子を伺っていた。今回は気配に敏感な奴が混ざってなくて助かったぜ。


「ん? 通信か。こちら凰樹おうき


「こちら神坂かみざか。予定通り第六ポイントで中型GEミドルタイプ、鼠と蛇のMIX―Aを肉眼で確認。数は二。辺りに他の小型GEライトタイプが十体ほどだ」


 別動隊を率いている神坂かみざか蒼雲そううんから通信が入った。


 別に問題の無い敵の数だが、一応肉眼で確認したから戦闘前の一報って感じだな。


 小型GEライトタイプしかいない時はこんな連絡をよこさないが、中型GEミドルタイプ以上のGEが確認できた場合は念のために知らせて来る。


「その程度ならいつもの事だろ? こっちのGEは俺が処理するから、霧養むかい竹中たけなか窪内くぼうち蒼雲そううんの援護を頼む。蒼雲は三人の準備が整い次第戦闘を開始。どちらか一方がGEを殲滅したら合流して残りを挟撃する」


「はいな~。窪内くぼうちやけど、こっちはいつでも準備できてまっせ。弾も十分やな」


「こちら竹中。指定ポイントに着きました」


「こちら霧養むかい神坂かみざかさんたちと合流完了したっス」


 こっちを担当している俺と違って、あいつらは別チームで動いてるからな。


 戦力的に振り分けるとこうなるのは仕方がないんだけどさ。


「こっちは仕掛けるから蒼雲そううんも任せたぞ」


「了解。中型GEミドルタイプが硬いんだよな……」


 小型GEライトタイプはこの特殊トイガンでも倒せるが、中型GEミドルタイプを倒すのは難しい。


 特殊トイガンで使っている特殊BB弾の核というか、核として使用している魔滅晶カオスクリスタルの純度次第で威力は変わるんだが、あまり高純度の特殊BB弾を使いまくると大赤字になるのでどの部隊もそこそこの純度の特殊BB弾を使ってGEと戦っているのが現状だな。


 GE討伐は登録した学生がバイト代わりにやってたりもするし、上手くいけば一攫千金な事もあるので手を出す奴は多いんだけど、厳しい現実に打ちのめされる奴が多いのも事実だよな……。っと、そんな事よりまずは目の前のあいつらを何とかしないと。


「とりあえず雑魚は削っとくか。小型GEライトタイプはこれで倒せるから楽でいい」


 俺が愛用しているのは帝都角井製M4A1カービンを防衛軍特殊兵装開発部の坂城さかきの爺さんがカスタムしたものだ。小型軽量で取り回しがよく、一番普及している帝都角井製なので弾倉マガジンなどの入手が楽なのもいい。


 多弾倉型のマガジンを使っているからワンマガジンで三百発近く撃てるのもデカい。


 シュパパッ、シュパパッと、エアーガン特有の発射音があたりに響き、薄っすらと光る無数の特殊弾がGEに撃ち込まれ特殊弾がGEに触れた瞬間、特殊弾は激しい閃光と共に花火の様に弾け飛んだ。


 その攻撃で小型GEライトタイプは甲高い悲鳴のような声を上げてオハジキくらいの大きさの魔滅晶カオスクリスタルを残して消滅した。生き残った他のGEは敵を探す為に周囲に視線を巡らせている。……影から撃ったとはいえ、これで気付かないこいつらも大概だよな。


「あの悲鳴を出すって事はGEにも声帯か何かあるんだろうな。割とキィキィうるさいGEもいるし」


 だからと言ってこいつらと意思疎通ができるとは考えてないし、それが可能だとしてもこいつらを許す事も見逃す事もない。


 最初の攻撃で二十匹いた小型GEライトタイプはほぼ壊滅。残った数匹も次の攻撃で一匹残らず消滅した。


 ここまでは予想通りだが、問題はいつもの中型GEあいつらだよな。


「俺が使ってるグレード一の低純度弾じゃそこまでダメージも無しか。これでも普通の奴が使うよりは威力があるんだが……」


 特殊BB弾の純度は十段階ほどあり、一番高純度の十は殆ど防衛軍などでしか使用していない。


 理由は簡単、高いんだは。一度戦闘に突入すれば湯水のように使う特殊BB弾が一発五万円!! あんな値段で売られても、国の予算で動いてる防衛軍位でしか使えないっての。


 首都防衛にあたっている守備隊辺りだとその下辺りの純度の特殊BB弾を使っているが、俺たちみたいな学生AGEが使うのは大体グレード二からグレード三辺りの低純度弾だ。スナイパーの竹中にはグレード五の割とそこそこ威力がある特殊BB弾を渡してあるが、アレだったら中型GEミドルタイプでも倒す事が可能だ。


 俺が使っているのは最低グレードの弾なので、基本的に小型GEライトタイプ位しか倒せない。俺が使えば中型GEミドルタイプにもダメージは入るんだが、トドメを刺すには少しばかり威力が足りないからな。


「いつも通りでやるしかないか」


 俺は特殊トイガンを腰のベルトに固定し、左の腰にぶら下げていた刀身五十九センチの特殊小太刀を引き抜いた。この位置だとギリギリ邪魔にならなくていい。


 この特殊小太刀の刀身はGE用に作られたアルミといろんな金属の合金らしいが、これでGE以外を斬りつけてもあまり切れ味はよくない。下手をすると刀身が曲がる位だ。


 ただ、加工された柄の部分にあるチャージボタンと、柄と刀身に溜め込んだ力を開放するトリガーをうまく使えば中型GEあいつらを倒す事が出来る。これを使いこなしてるのは、俺も含めて本当にごく一部の人間だけだがな。


「さて、いつも通りいくぜ!!」


 薄っすらと刀身の光るそれを右手に構え、アスファルトを力強く蹴って動きの鈍くなった中型GEミドルタイプに肉迫し、地面スレスレの位置からGEを一閃に斬り上げた。


 返す刀で近くにいる中型GEミドルタイプを斬り殺し、わずか数秒の戦闘で周りにいた四体の中型GEミドルタイプは消滅する。このクラスになるとオハジキ大では無く、ビー玉程度の大きさの魔滅晶カオスクリスタルが手に入るんだが、売れば割と高い値段で買い取って貰えるんだよな。


 俺達AGEは基本的に各地にある対GE民間防衛組織AGEの事務局に魔滅晶カオスクリスタルを納入してポイントを得るんだが、魔滅晶カオスクリスタルを企業などに高額で流すAGEも存在する。非推奨行為の上にあまり派手にやれば警察に捕まる危険行為だ。


「今日は朝から割と中型GEミドルタイプと戦ってるし、直接のダメージじゃないけど、生命力ライフゲージは……、五つ減ったか……」


 左手首に着けている銀色のリングに表示された緑色のゲージが九十五本になった。俺くらいになるとGEから攻撃を受ける事なんて本当に稀なんで、特殊小太刀を使った時以外は生命力ライフゲージが減る事は無い。


 このリング自体は二〇〇一年に政府から全国民に支給されて装備を義務付けられた物だが、このゲージの表示は装着した者の生命力とリンクしているらしく、GEに襲われてこのゲージが一本も無くなった時に人はその身が石に変わるという事だ。一応だがある程度までだったら回復可能な薬が存在するが、どれも高価なので懐事情的にあまり使いたくないのはだれもがおなじだろうさ。


 最初のGEが人類の前に姿を現して三十年ほど経つが、GEに襲われて生命力を奪われた人が何故石に変わるのかというそのシステムは未だに解明されちゃいない。その辺りは首都の頭のいい連中がそのうち解明してくれるだろうな。


「この辺りにいるGEは処理したな。向こうはどうなってる事やら」


 去年までの即席メンツと違い、神坂かみざかをはじめ精鋭と呼べる人材が揃っている。億に一つの事態が発生しても逃げ延びる位はするだろう。


 ……通信か。


「こちら凰樹おうき


神坂かみざかだ。そっちにいたGEの反応が消えたんだが、もう討伐完了したのか?」


中型GEミドルタイプ四体程度だとこんな物だよ。今からそっちに向かう」


「はいな~。こっちはその中型GEミドルタイプを四人で囲んで集中砲火中でっせ。流れ弾に当たっても痛いだけやけど、気い付けてや~」


「了解した」


 俺たちは割と頻繁に中型GEミドルタイプを狩っているが、普通は見かけたら即撤退が推奨されているクラスの敵だ。


 赤字覚悟で高純度の特殊弾を大量に使えば倒せなくはないが、そんなに懐に余裕のある奴らはほとんどいない。


 さてと、急いで援軍に向かうとするか。


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