第3話

「……全然、森から出ねぇ……」


 一時間は歩いたと思うけど……森から出る気配は少しも無い。ここまで広いとは思っていなかったからなぁ……これなら山を登って周囲の景色を見てからの方が良かったか。本当にこういうところで詰めが甘いんだよなぁ。


 とはいえ、文句を言っても意味が無い。

 幸か不幸か、一時間歩いて敵とは出会っていないからね。もしかしたら、ここは誰かの管理のもとで成り立っている可能性も……いや、それは無いか。


 今、明らかに気持ちの悪い声が聞こえた。

 ブヒブヒ……って聞こえるからこれだけだと豚か何かかと思うが……まぁ、ステータスがあって日本じゃないという二点からして魔物の類だろうなぁ。恐らくオーク、時点でゴブリンか。


 果たして……レベル一の俺でも倒せるのかな。倒せるのならレベルアップのためにも戦いたいのだけど……安全策を取るべきか。いやいや、でも、原作と同じであればローブがあれば何とかなるような気がしないでも無い。


 やるか、やらないか……まぁ、チラッと見るくらいならいいんじゃないかな。仮にオークだったとして足を撃ち抜きさえすれば逃げ切る事だって難しくないだろうし。気配を消して近付く事だってできるんだ。


 寧ろ……それらを利用したら簡単に勝てるんじゃないか。幾ら魔物とはいえ、頭部に何発も銃弾を撃ち込んだらさすがに死ぬだろ。もし仮にオークだとしたら倒して夜ご飯にもしたいし……。


 よし、決めた。見るだけ見よう。

 数を確認して……倒せそうだったら不意打ちで殺し切る。野草とかを倉庫に入れれば食べられるか分かるから、夕食の心配はそこまでしていないが肉は食いたい。というか、草なんて食べても胃に溜まりはしないだろ。


 って事で……音に釣られて来てみたが……。

 うーん、来ない方が良かったかもしれない。いや、遅かったら確実に後悔していたかな。近付いてみて分かったけど魔物が人を襲っている最中だった。


「大丈夫だ! 二体倒したら俺達の勝ちだ!」

「無茶言わないでよ! もう魔力切れたわよ!」

「死んで犯されたくないなら戦え! 俺だって意識が飛びそうなんだ!」


 ムキムキのおっさんが鼓舞して、白いローブを着た女性が文句を言っている。その会話の最中でもオークの攻撃を受け流して戦っている青年が一人いるから……この三人がオーク達と戦っていたんだろう。


 うーん、ぶっちゃけ、助けたい。

 だけど、あの三人を信用できるかって聞かれれば首を横に振りたいし。……それこそ、ここで助けるって選択肢を取ってしまうと、俺の嫌いだった主人公と同じで嬉しくないんだよなぁ。


 まぁ、ここから助ける事はできるか。

 中距離から援護をして後は放っておく。オークの肉は欲しいけど面倒事を抱えるよりは間違いなくいいからね。って事で……撃ち込ませてもらおうか。


「ブヒィィィ!」

「ゴンガさん! 来ます!」

「ああ、俺とフィートが前線を張る! マナは魔法の準備をしてくれ!」

「もう! しょうがないわね!」


 お、ゴンガとかいうおっさんが鍔迫り合いに入った。その横でフィートとかいう青年がオークの相手をしているから……行くなら今だな。鍔迫り合いになっている内にゴンガの前にいるオークの頭を撃ち抜かせてもらおう。


「ブ! ギィィィ……!?」

「な!?」


 おー、上手い具合に頭に当たってくれた。

 ゴンガ達は何が起こっているのか分からないって感じだけど……まぁ、無視でいいか。別に関わりたい気持ちは無いし。それよりもフィートと戦っているオークの方を倒したい。


 ここまで弱らせて貰って悪いね。言い方は悪いけど俺のやっている事はラストアタックと何ら変わりない。手柄の横取りをしてしまっているけど死ぬ可能性が減るんだ、許してくれ。


「ブギィィ!」

「あ、やっば……!」


 オークがフィートの腕を掴んだ。

 ここが最大のチャンスだ。ゴンガが少し離れた位置にいる今、数発連射したら確実にオークを殺せる自信がある。だってさ、ゴンガの前にいたオークも一発で、それも頭部に当てて殺せたんだ。二度目も成功するさ。


 おし、成功。撃ち漏らしはゼロだ。

 初めての割には上々だね。それとも俺が知らないだけで何かしらの補正が働いているのかな。うーん、敵が何かに集中していて動いていないっていうのが一番、大きそうではあるけど……まぁ、上手くいったのならどうでもいいや。


「ま、まただ……」

「け、警戒を怠るな! オークを倒した存在が俺達を襲わないとは限らない!」

「だ、だけど、気配すら感じないよ!」


 ふむ、無駄に警戒をさせてしまったな。

 でも、これで俺のしたかった事はできたからね。経験値も貰えたし、魔法拳銃の性能もよく理解できた。これならオーク程度なら対峙しても何とかなりそうだ。……とはいえ、思ったよりも忌避感とかは無いんだな……。


 ま、まぁ、それはオークが相手だからだ。

 豚の顔をしているとはいえ、見た目は確実に化け物でしかない。これが人間相手だったらもっと後悔とかがあったと思う。それこそ、俺の銃弾がそれて三人の誰かに当たっていたら……そう考えると少し自重しないといけないね。気を付けよう。


 ただ割と多くの事を学べた気がする。

 例えば魔法拳銃の有用性だ。かなり魔力を消費するとはいえ、俺でもオークを倒せるだけの一撃を生み出せるってだけで使い勝手がいい。それに人がいるという事は進むべき方向も間違ってはいないのでは無いだろうか。


 だから、ここに来るのは正解だったはずだ。

 既に警戒を解いていたゴルド達を見てから俺はその場を後にした。

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