戦いは数だろうぉぅ!?

sachiha

CH1 「ナイトメア」

蒼白い光の冷たい色で塗られた病院の一室である。


今この瞬間、一つの命が生まれ落ちた。






 俺は普通の男子高校生だ。…いや、だったか。


 現に目覚めて「ここは…」と考えるもなく視界は赤黒い光で包まれて、何も見えない(腹の中にいたから)。


 まるで神が降臨したような光で視界が埋め尽くされて生まられた。…生ま「られた」って表現なかなかないと思う。


 おー!転生か!?って思ったら俺を抱えてきた人が今世の母じゃなくて、しばらくしたらサングラスの黒スーツのイカつい男にそのままどっかへ連れて行かれた。こわい。


 もしかして転生じゃなかった?…うわぁ恥ずかし



 俺は泣いた。心の中で。だってこの人怖いし


 いい年こいで人に抱きかかえられてるっていう理由で


 そして仮に転生としても、転生ガチャは外れたという事実。


 外れたどころか大外れ。



 こいつは普通の転生ものじゃなくて、ダークというやべぇなやつだと認識したからだ。



 学校遅刻しそうだからチャリを特急で漕いでたら小石を轢いて、バランスを崩れ、そのまま隣のトラックの下敷き。…ハンバーグになってないことを祈ろう。グロい。



 神が存在しているなら本気マジで殺しにかかってきてると思う。


 なんかよくある転生のシチュエーションは、トラックに撥ねられそうになった人を突き飛ばして、その代わりに自分が犠牲になるというが、一般高校生にそれはちょっとキツイと思うんだよね。



 というかマジどうしよ。この状況なら転生確定だと思う。転生確定ってなんだよ。えー生まれてきた感覚があったからな。頭が窮屈になって…言わせんな恥ずかしい。


 そしてこの場合だと研究室で実験体コースかも。一切母らしき声を聞かないし、この物々しい雰囲気からしてそう判断した。


 そうなれば難易度クッソ高い系の転生かな?もちろん神とは会ってない。誰か俺を救ってくれ。


 今でも入れる保険ってあります?




 っていうか今なんもできない。そりゃまだ赤ちゃんだし、体が成長してないから、ぶっちゃけとてつもなく弱い。


 動いたら首折って死ぬかもしれない。まさか家庭科の知識がここで役に立つとは…というか家庭科赤点だからもっと勉強すればよかったわ。


 転生前の知識で初めて役に立ったのが家庭科とか…


 ところでどこに連れて行かれるんでしょう、黒服さんや。


 「あうぅ」


 赤ちゃん語やーい。というかほぼ生まれて直ぐだったのに泣き声じゃなく声を出せたのか。異世界人すげー


 「■■」


 「」


 ひっ


 こわっ


 こっわっ!


 いま目の下が痙攣したぞ?やばくね?


 でもやっぱ言葉通じないかよ。ラノベで無視しがちだけど、ちゃんと考えるともう一つの言語を学んだ主人公さんがすごい。


 っていうか目的地に辿り着く前に殺されるかもしれん。この黒服にキレられたらまさに命の危機。…やっぱ黙ったままの方がいいや。なんで俺声かけようとしたんだろ…



 おっそらーはー明るくなったりー暗くなったりー


 まだ着きませんか?黒服さんや


 っは!?精神的に異常を起こったかもしれん。


 と、ここで黒服がこんこんとドアをノックした。


 目的地に到達したかもしれない。


 それよりまさかこんなに丁寧にノック出来るとは…絶対ドアを開けそう(物理)な体つきなのに。…うん?物理的にドア開けるの当り前じゃない?




 「■■■■■■■」


 「■■■」


 なんっもわかんねぇ


 「⚫︎⚫︎⚫︎■■、■■■■■■■■■■■」


 おや?固有名詞らしきものが…?


 微妙に口調な変化から意味を推測する…一般高校生に酷過ぎまーす。…人生の返品交換はできますか?え、人生のクーリングオフは非対応だって?


 そんな…


 あ、帰っても肉体がハンバーグだったわ(泣)




 「■■■、■■■■■■■■■」


 っていうかベラベラ喋るだけで、なんもわかんねぇよ。異世界人もわかるようにジェスチャーをください。…ジェスチャーの重要さがわかってきた気がする。


 なんかこの人白衣を纏いで、メガネを掛けてるから、研究者らしいということがわかった。でも幼児を実験体として使うから絶対まともじゃない。こいつマッドの方だね。


 っていうか目が怖い。キラキラというかギラギラしてるし、光が宿る目でも絶対宿す光の種類が違ってるよあれ。


 ん?なんか一気に黒服のやつ頼もしくなってきた感じがする。ちょっえ?黒服、俺をここに放置っすか?この人の目を見なかったか?お前の心が無いんか???


 まてー!!置いてくなー!!!


 「ふっふっふ…」


 うわー!!絶対内心で悪巧みしながら笑ってる…!!!やっと餌がやってきた肉食獣のように笑ってる…!!!言語わかんなくてもわかるやつだけど、こんなんやめてー!!!


 キラン


メガネのガラスが光を反射した。


 うわっ黒服が退場したらなんか研究者(多分)が刃物のようなものを取り出した…!?解剖っすか…


 あぁ…(絶望)






 …?



 痛くない?


 まて、これは…電極かよ…心配して損したー


 って電極!?コイツ何がしたいんだ


 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!?!?」


 なんかめっちゃ興奮していらっしゃる。


 っていうか既にその右手を握ってるのは…解剖用のナイフ!しかもめっちゃ震えてるし。いかにも、今すぐ解剖したくて我慢できない!って感じになってるじゃん。



 理性がんばれー!負けるなー!っていうか理性が負けたら今すぐ解剖される。


 うぅ…


 右手が下ろされてく…よかったぁ…!!


 はぁぁ…



 張り詰めた意識の糸が今にも切れそうだけど、こんな危険なところに寝てしまっては自殺行為だ。…意識保ててもなんもできないけどな。


 次に目覚めたらサイコロステーキにされかねない。ハンバーグの次はステーキか?


 やだなあ…


 極度の緊張からの開放と、あまりにも幼い体が掛け合わせて、少しずつ、意識が沈んていく。

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