そんな悍ましいことを言わないでちょうだいっ!?

 公爵令嬢視点。2

__________


「なっ、なにを言っているのだ公爵令嬢!」

「我が家は、貴族派筆頭公爵家。故に、我が家が忠誠を誓うのは、王家にあらず。国そのものへと忠誠を誓っているのです。つまり、我が家は王家との縁を必要とはしていないのですよ。国王陛下」

「そうです。我が家としては、娘に王家の子を生んでほしいとは全く思っていません」


 わたくしとお父様の言葉に、驚愕の表情を浮かべる陛下と妃殿下、侯爵様。


「それに、両陛下も、他の皆様も広くご存知の通り。わたくし、昔から殿下に嫌われておりますもの。とは言え、我が家も無用な争乱は望みはしません。故に、白い婚姻と、そして周辺諸国の情勢の安定をもっての、離縁の許可を頂きたく存じますわ?」

「ええ。それに、貴族派を取り込みたいと仰るのであれば、殿下が婚約を望むという侯爵家の三女でも宜しいかと」

「!」


 わたくしとお父様の言葉に、お顔を青くする侯爵様。大丈夫かしら?


 まぁ、ぶっちゃけ、国を守るために不要だと判断したら、現王家の交代を望むと伝えておりますからね。驚くのも無理はないのかもしれません。


「こ、侯爵家では、そなたらの家よりも、政治的な求心力に劣る」


 苦い、絞り出すような声が言いました。


「王家としても、国が割れるをしとはしない。公爵令嬢と、息子との……白い婚姻を、認める」

「ありがとうございます。嬉しいですわ」


 にっこりと微笑むと、


「公爵令嬢は……息子のことが、嫌いですか?」


 今まで黙っていた王妃殿下が、わたくしに聞きました。


「我が娘が、どれ程殿下に貶められているかは、王室へご報告したと思いますので、よくご存知のはずでは?」


 お父様の、怒りを押し殺した低い声。


「愚問……でしたね。忘れてください」

「ふふっ……いいえ? わたくし、昔程には・・・・殿下のことを怒ったり、嫌ったりはしていませんのよ?」

「そう、なのですか?」

「で、では、なぜ白い婚姻などと言い出したのだっ? 公爵令嬢!」


 驚きに目を丸くする妃殿下と、なぜとわたくしへ問う陛下。


「そうですわね……両陛下が、わたくしに仰ったのですよ? わたくしが王子殿下に散々嫌がらせを受け、王子殿下との婚約を解消してほしいと泣いて頼んだときに。『国のために堪えてくれ』と。そして、『そなたの方が年上だろう』と。なので、わたくしは我慢しました。我慢して、どうにか殿下を愛そうと努力をして・・・」


 けれど、嫌で嫌で堪らなかった。


 いっそのこと、貴族令嬢でなくなってもいいとさえ考える程に追い詰められて――――


 わたくしを心配した侍女から、一冊の育児本バイブルと、魔法の言葉を授かったのです!


「わたくしに嫌がらせをするあのクソガ……いえ、第一王子殿下を、三歳児だと思うことにしたのです」


「「は?」」


 わたくしの言葉に、ぽかんと口を開ける両陛下。あら? 侯爵様もぽかんとしていますね? うんうんと頷いているのはお父様だけですわ。


 お父様も、よく王太子殿下をクソガキ呼ばわりしておりますものね。


「すると、あのクソ腹の立つ嫌がらせの数々が、『所詮は三歳児の考えること』だと、微笑ましく感じられ、然程さほど王太子殿下のことに感情を波立てることがなくなりましたの」


 親戚の三歳児や、孤児院の子供達と実際に触れ合ったことも大きいですわ。子供とは、非常に不合理で不条理。絶対に、自分の思い通りには動いてくれない、ときに腹立たしく、ときに愛おしく感じる生き物なのです。


 まぁ、実際の三歳児(親戚の男の子)の方が、図体のでかい殿下クソガキよりも紳士的ではありましたけれど。


「さ、三歳、児?」

「ええ。というワケで、長年王太子のことを三歳児だと思って過ごして来たわたくしには、王太子殿下のことを殿方だとは全く思えないのですわ。なので、寝所を共にするのは無理です」

「い、いずれ息子が成長すれば……」


 陛下の言い掛けた言葉を遮り、


「陛下と妃殿下は、王子殿下や王女殿下と寝所を共にしたいと思えますか? 無論、男女として、という意味の質問になりますが」


 質問をします。


「なっ、なにを言うのっ!! そんなおぞましいことを言わないでちょうだいっ!?」

「それは失礼致しました。けれど、わたくしも殿下との婚姻は、まさしくそのような気分になるのです。わかって頂けますでしょうか?」


 ヒステリックに叫んだ妃殿下と、言葉を無くす陛下へ微笑む。


「・・・わかった。公爵令嬢には長年無理をさせてしまい、申し訳なかった。周辺諸国の安定の後、離縁も認める」

「ありがとうございます」

「ああ、陛下。殿下には、しっかりと言い聞かせておいてくださいませ。国を荒らすことのないように、と」


 こうして、わたくしとお父様は、王太子殿下との白い結婚、及び後の離縁の許可を頂きました。


 うふふっ、今から離縁が待ち遠しいですわ♪

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