マッドサイエンティストの継承者!退屈は大っ嫌い‼

ナイム

第1話 退屈の終わり

 その日は夏の真っ盛りでどの学校も夏休みへと入っていた。

 もちろん今年が中学生最後の俺『里村さとむら こう』も夏休みを堪能中だ。

 一応受験生だから試験勉強もしているが、別に難しい超難関校を受けるわけでもないので適当にやっても受かる程度には成績は良い。


 なので夏休み中くらいは遊ぼうと思っていたのだが、最初はプールや海にバーベキューなどを家族と一緒に楽しんだりもした。

 だが常に頭の何処かで湧いてくる『退屈』の二文字。


 別に楽しくないわけでもない、興味がないわけでもないが…どうしても何をしても退屈に感じてしまった。

 最初のころは『自分の本気で好きになれるものがあるはずだ!』と思い、本当にいろいろな事に挑戦してみた事もあった。


 それでもスポーツも、勉強も、芸術関係の事にも手を出したがどうしても長続きしなかった。

 別に下手だったというわけではない。

 こういうと嫌味にも聞こえるかもしれないが、大抵の事は2~3回習えば人並みにはできた。


 ただ人並み以上にできるようになるには他の人以上の努力が必要だったが、それをやる前に一月ほどすると一気に退屈に感じてしまう。要するに熱意や好奇心という物が持続しないんだ。

 今の世の中は知りたい事は調べれば未公開の技術とかでもなければ学ぶことができ、お金と時間さえ惜しまなければ技術を習得する事も出来てしまうのだ。


 これも決して悪い事ではない…悪い事ではないが、やはり刺激がない。苦労がない。達成感がない。感動がない。喜びがない。


 少し大袈裟かもしれないが俺にとっては現実としてこうなのだ。

 なにも感じることがなく、続けることができない。


 人に言えば俺の問題と言われて終わりだが、それだけに俺にしか理解も解決もできない『退屈な世界から脱したい』と言う強い願い。

 他人から理解されないと理解しているからこそ、誰かと接するときは気取られないよう周囲に馴染めるように努力し生きてきた。


 もっとも無理に合わせた生き方が長続きするわけもないので、今回の夏休みでは息抜きもかねて人のいない…つまりは田舎も田舎、ド田舎と呼ばれるほどの場所に祖父母の家があるので顔見せも兼ねて久しぶりに訪れていた。

 ここは内陸の山奥でバスも日に1本しかないような場所だ。

 

「甲よ。今日も探検に行くのかい?」


「うん、都会に住んでいると森って新鮮だからさ!」


「そうかいそうかい、怪我と熊には気を付けるんだよ?」


「わかってるよ~!」


 ここへ来てからすでに一週間近く経つが、出かける度にこの会話をして俺は近くの山へと向かっている。

 なんで毎日飽きもせず同じことを話さないといけないのか?とは思わないでもないけど、心配してくれているのはわかっているので気にしないことにした。


 そうして毎回同じ道だと飽きるので今日は複数ある道から昨日とは違う場所を選んで山を登る。

 じりじりと焼かれるような夏の日差しを受けながら都会では見ることのない鳥や植物を観察した。


 ただ、別に俺も超人と言うわけではないので普通に脱水症や熱中症にはなるので最大限対策はしている。首に巻く冷えるやつとか、凍らせた飲み物も三本持ち歩いている。

 それでも温暖化の影響もあるのか気温はバカ高いし、山登りは登山と言うほどではない高さでも体力を大量に消費する。


 なので初日に見つけた動物が近づいた形跡もなく、毒性のあるキノコやカビがないかも一応だけどスマホで調べて確認した。

 結果として特に問題もなかったから簡単に獣除けをして使っている。ちなみに獣除けの道具は普通に来る前にネットで買ったやつだ。


 今日も2時間ほど探索していい感じに汗を掻いて熱中症にならないあたりで休憩に来ていた。


「ふぅ…いい運動にはなるけど、やっぱり景色に慣れてきて最初程の感動はないな…」


 そして落ち着いたことで俺の口から出てきたのは素直な気持ちだった。

 初めのころは都会にはない大自然に感動も興奮もしたけど、やっぱり1週間も過ぎると慣れて飽きてくる。


「なにか他にやれることでも探すか…」


 こうして飽きが来ることにも慣れてきている自分に少し微妙な気分になるけど気にしても疲れるだけで意味はない。ってようやく割り切れるようになってきたところだ。


「ただ探すって言っても、やれることはほとんどやっちまったしな~どっかの格闘技でも習ってみるかな」


 ほとんどお金を使わずに出来ることはやりつくしてしまったから、次にやるとしたら少し手間だけどお金を使って何かを習うくらいしか選択肢が残ってないんだよな。

 とは言っても、懐も別に潤っているわけではないから最初は体験とかからって形にはなるだろうけど、帰ったら真剣に考えてみるかな。


 なんてのんきに持ち込んでいたブルーシートの上に寝転んでいると地面がかすかに揺れてる。


「地震…か?」


 起き上がって周囲を見回してみるけど、洞窟の外にある木々は特に揺れているように見えなかった。


「出たほうがいいな」


 さすがに危険な気がしたから荷物を手早く持って洞窟を出ることにした。

 そして荷物全部持って洞窟を出るまであと一歩のところで揺れが強く激しくなり、足を取られ転んでしまった。

 次の瞬間、洞窟が崩落したのか真っ暗な闇に包まれ自身の死を覚悟した。


「……あれ?死なない…」


 覚悟したけどいつまでたっても体の感覚もあるし、意識もあって死んでなかった。

 それに振動で気が付かなかったがわずかな浮遊感と下がるような感覚があった。


「これ、下がってる?」


 現代では誰もが経験したことがあるであろうエレベーターに乗っているときのような感じで、下に下がっていることはわかった。

 けど俺がいたのは近代的なビルでもない、完全に自然の洞窟の中だったはず。

 不思議な現状に立ち上がって周囲を調べるために荷物の中から手探りでペンライトを取りだした。


 周囲を照らして見るけど周囲は洞窟の岩肌にしか見えなかった。

 念のため触って確認してもどうやっても土、手にもしっかりと砂粒が付いている。


「洞窟なのは間違いない。けど入り口はなくて下がっている感覚…どうなってんだこれ?」


 人よりも頭が少しはいいけどこんな状況では役に立たないし、もう何かできるような状態でもないから冷静ではいられるけど…それだけだ。

 このまま死ぬかもしれないという恐怖は当然あるけど気にしても解決する問題でもないしな。


 そうして何かできるわけでもなくとにかく明かりを確保して水分補給しながら状況が変わるのを待つことにした。

 今感じている下がるような浮遊感が間違いでないのなら、ほどなく何処かに着くはずだから。


 なんて思い大人しく待つこと体感20分ほど経つと、浮遊感は弱くなって完全になくなると地響きのような音を出しながら入り口が開いた。


 そして開いた先にあったのは現代では創作物の中でしか見ないような金属のようなもので作られた広い空間だった。

 もう何が何だか分からないが、こんな状況で今までの常識だの考えてもしょうがないので楽しむことにした。


「さ~って、この先には何があるのか…」


 見た感じ警備システムのような物は見当たらないけど警戒だけはしながら一歩踏み出した。


『ようこそ!遥か未来の少年よ!』


「⁉」


 入った瞬間、どこからか声が反響するように聞こえてきた。

 さすがに出たほうがいいかと後ろを確認すると、出てきたはずの場所はすでに閉じていて引き返すことはできなくなっていた。

 なにより、ここまで来たら引き返したら


 そうして光る通路を奥へと進むと一際大きな扉が俺をスキャンすると自動で開く。


「入れってことだよな…」


 腰は少し引けるけど、それ以上に期待があった。

 この状況に陥れば通常の人ならば恐怖を強く感じるのだろうけど、やっぱり俺は普通とはずれてるんだろう。

 今の状況に俺が感じているのは


 ここに来てから日常的に感じていた渇きが癒えてきている。

 だからこそ扉の先にあるであろう何かに心が躍る。


 ゆえに足踏みする理由もなく俺は扉の先へと進んだ。

 その先にある非日常、退屈な今を終わらせてくれる何かを求めて…

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