第6話:陽菜とハルの年齢。

陽菜の気持ちは、とりあえずハルには伝わった。

でも、ハルからイエスの言葉は聞けなかった。


ハルが 「もし自分が人間なら陽菜をほうっておかない」って言った。

それは嬉しい言葉だったけど なおさら陽菜からすれば、なんで?って

思ってしまう。


私のこと嫌ってるわけじゃないのに・・・。

ふたりの間に何がネックになってるのか陽菜は知りたかった。


季節は冬になり、ハルはやたらと陽菜にくっついてくるようになった。

普通の猫と一緒で寒さに弱いみたいだ。

陽菜が家にいる時は、いつでもどこでも陽菜のそばから離れなくなった。

夜になって寝る時まで陽菜のベッドに潜り込んできた。

ハルがそばにいると心がとても暖かかくて、それはそれで陽菜は嬉しかった。

切なくもあったが・・・。


ハルに出て行く気配がなさそうだったので陽菜は安心した。

ハルの陽菜に対する態度もいつもと変わらなかった。

優しく接してくれた。

そしてふたりの距離が縮まらないまま一年が過ぎて陽菜は高校を卒業した。


「陽菜、卒業おめでとう」


慶彦さんと麻美さんは祝ってくれた。

夕方家族四人で食べに行こうかとなったけど、ハルは 「行かない」って言った。

だから近所のお寿司屋さんで出前を取ることになった。


その夜・・・


「陽菜、卒業おめでとう」


「ありがとうハル」


「あのさ、言っておきたいことがあるからベランダに来て」


陽菜はハルに誘われるまま二階のベランダに上がった。


「言っておきたいことって?・・・なに?」


陽菜は内心ドキドキしていた。


「前に陽菜、僕のことを好きだって言ってくれただろ?」

「その気持ちって今も変わらない?」


「今でもずっとハルに片思いのままだよ」

「なに?どうしたの・・・私をフッたんでしょ」


「フった訳じゃなくて、待って欲しかったんだ」

「あれから君の気持ちをずっと考えてた」

「このままほうっておけないなって思って・・・」

「僕なりに僕の考えも少しは変わったし・・・」

「人間と猫だって愛し合ったっていいんじゃないかって・・・」


「最初はないって思ってた」

「でも・・・今は違う」

「でも、もし僕たちが付き合うことになったとするよね」

「その先はどうなる?」


「どうなるって・・・その先は・・それはつまり結婚?」


「だよね・・・もし、そうなったとして・・・」

「いい?一番の問題は僕と陽菜の年齢差なんだ」

「君が35歳くらいになった時、僕の歳はもう80歳くらいだよ」

「君と僕の歳の差は開くばかりだ・・・」


「君はまだまだ若いけど、僕は確実に君より先に死ぬ」

「30代で君は未亡人になるかもしれない」

「そうなってもいいの?」


「そんなこと考えないでハルに告白したって思ってた?」

「ちゃんと考えたよ」

「考えた上で告白したの」

「その覚悟は出来てる、その時は悲しくてもハルと一緒にいられるならひとりに

なったって平気」


「そうなんだ・・・覚悟できてるんだ・・・」


「どういうこと?」

「そんなこと言って私にハルを諦めさせようとしいてる?」


「違うよ、ただそうなったら歳取っても陽菜を守って あげられないと

思って・・・」

「でも陽菜がその真実をちゃんと受け止めてるなら僕もちゃんとしなきゃ

いけないのかな・・・」


「何言ってるの?・・・」


「陽菜の気持ちに応えられるようにならないと、いけないと思って」


「私には今のままのハルで充分だよ」

「ハルになにが足りないの・・・?」


「なんて言えばいいのかな・・・」

「今のままじゃ陽菜を支えていけない・・・」


「え?生活の問題を言ってるの?」


「僕にとっても陽菜にとっても、さっきの歳のことに次いで 僕が自立できてない

ことが二番の問題」


(若いくせに意外としっかりしてるんだ・・・)


「陽菜・・・この話また今度にしよう・・・」

「やっぱり、このままじゃ陽菜の想いには応えられない・・・」

「ごめんね・・・・期待持たせて・・・」

「でも、これだけは言っておきたいんだけど・・・」

「このまましばらく待っててほしいんだ・・・きっと陽菜の思いに応えられる答えを出すから・・・」


(なんなのよ・・・もう・・・訳、分かんないんですけど・・・)


ハルはそれ以上なにも言わずベランダから降りて行った。

陽菜にはハルの真意がまったく分からなかった。


そして陽菜もハルもまだ気づいていなかった。

ハルはもう陽菜と同じ年数で歳を取っていることを・・・。

もしふたりが結婚しても陽菜は30代で未亡人になることはもうないのだ。


つづく。

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