第7話 再会

 俺は古くからあるA級ダンジョンに潜っていた。


 配信をしながらダンジョンの特徴を視聴者に説明する。


「ダンジョンは成長するのが特徴なんです。放っておけばどんどん成長して広くなる」


 これはダンジョンの常識なんだけど、知らない視聴者は結構多いんだよな。

 案の定。


『へぇ。そうなんだ』

『ダンジョンって生きてるの?』

『勝手に広がるとか怖』

『博識ーー』

『知らなかった』

『勉強になります』


 ふむ。

 説明を続けよう。


「ダンジョンが広がる理屈は詳しくは不明です。ただ、異世界からの魔力が干渉しているのは確からしい。ダンジョンの攻略が滞れば地下迷宮は広がってしまう。だから、俺たち探索者は、定期的にダンジョンに潜ってダンジョンボスを倒す必要があります。ボスを倒せば新しく成長した分のダンジョンは消滅する。つまり、ダンジョンの拡張を防げるというわけですね」


 さてと。

 そんなわけでダンジョンに潜ったわけだが、参ったな。


「広い」


 随分と成長が進んでいるぞ。

 ネットにアップしてあるダンジョンの地図では、もうダンジョンボスの階層なのにさ。

 その気配すらない。

 

「このダンジョンは昇級するパターンかもしれませんね。S級認定を受けるかもしれない」


 これは時間がかかりそうだ。

 1日での攻略は無理だな。

 とりあえず、寝床のキープをしようか。


「一旦、配信は終了します」


 広い場所。あと湧水のある場所が欲しいな。


 と探している時だった。


「いい加減にしないか! おまえみたいな無能を養う身にもなってくれ」


 なんだなんだ?


 岩場の陰から様子を窺う。


 それは5人組の探索者パーティーだった。


 声だかに胸を張っているのは男。おそらくリーダーだろう。

 他の4人は女の人だな。

 男リーダーに女のメンバーとはなんとも羨ましいパーティーだ。


衣怜いれ。おまえの能力は物を収納するスキルくらいだ。それじゃあ戦えないよな?」


 おいおい。

 収納スキルなんてめちゃくちゃ重宝するやつじゃないか。


「他のメンバーは戦闘スキルを所持している。それなのにおまえは非戦闘員。物を収納するだけじゃな。それじゃあ無能と言われても仕方ないだろう」


 そんなことないと思うが……。


 あれ?

 あの男、どっかで見たことあるぞ?


 そうだ!

 この前、街で女の子をホテルに誘おうとしてた奴だ。

 俺が掌底で吹っ飛ばした。


 ってことは?


 あ、やっぱり!

 金髪の巨乳美少女!

 アニメ声の超絶可愛い女の子だ!


「いい加減に観念したらどうだ? なぁに安心しろよ。一夜だけさ。俺と一緒に夜を過ごすだけ。グフフ」


 と、男はテントを指差す。

 テントは2つあった。

 おそらく、女子3人のテントとリーダー専用のテントだろう。

 そのテントで一緒に寝ろだと?

 つまり、体を要求してるってことだな。

 この前のことから推測するに、2人は同じパーティーだったんだ。

 それで、リーダーが仲間の女の子に体を要求してるわけだな。

 あの子は嫌がってるのにさ。けしからんな。


 とりあえず、コウモリカメラを起動して録画だけはしておくか。


「い、嫌です! あなたと一夜を過ごすくらいなら、このパーティーを辞めます!」

「そうかそうか。じゃあ、そうしてもらおうかな。無能は出ていってくれたまえ」

「うう……」

「当たり前だが、アイテムは全部置いてってくれよ。俺のパーティーが取得した物なんだからな」

「は、はい……」


 彼女は収納スキルを使って亜空間からたくさんのアイテムを出した。


「こ、これで全部ですよね?」

「おっと、まだ俺の物はあるんだ」

「他に何かありましたか?」

「服だよ」

「え!?」

「おまえの装備は俺のパーティーで得た物だろう。だったら脱いで置いていくのが筋ってもんだぁあ」

「そ、そんなことできません! それにこの装備は私が自分で買った物です!」

「バーーカ。その金はパーティーで稼いだもんだろうが。つまりは俺の物なんだよぉおお!」


 やれやれ。

 めちゃくちゃな理論だな。


 男は女の子の服を剥がそうとした。


「脱げぇえええ!! ガハハハ!!」

「いやぁあああ!!」


 見てられん。


 俺は男の手首を握った。


「やめなよ」


「なんだおまえはぁあああ!?」


 やれやれ。暴れんなよな。


「よいしょ」


 俺は男を投げ飛ばした。


「ぎゃああ!」


「あーー。お取り込み中、悪いんですけどね。ちょっと見てられてなかったのでね」


「……あぐぐ。お、おまえは!? この前の奴じゃないか!!」


「どーーも」


「こ、こんなことをしてただで済むと思っているのか?」


「いや。あなたがやっていることの方が問題あるでしょう?」


「部外者が他のパーティーの内情にしゃしゃり出てくるんじゃない!!」


「それはそうですけどね。暴力はよくないですよ」


「ふ、ふざけるなよ! 人を投げ飛ばしておいて……」


 と、彼は剣を抜いた。


「へへへ。知っているか? 正当防衛なら人を殺めてもいいんだぞ? それにここはダンジョンの中だしな。人が死んだって誰も騒ぎゃしないさ。ククク」


 あの構え。

 剣技に自信があるんだな。


「俺はA級冒険者。寺開じあく 晴生はるおだ。おまえは何者だ? 名前だけは聞いといてやるよ」


 名乗るほどの者でもないがな。

 相手が名乗ったのなら仕方ない。


「片井  真王まおだ」


「片井〜〜? 聞いたこともない探索者だな? 配信してないだろ? それともどっかのパーティーに所属してるのか?」


 配信はしてるんだがな。

 説明するのは面倒だ。


「俺なんて無名の探索者だよ」


「ハハハ! おまえは本当にバカな奴だな。無名の探索者が俺に勝てるわけがないじゃないか。この前は酔っていて不覚を取ったが今日はそうはいかんぞ」


「喧嘩をするつもりはないがな」


「人を放り投げておいてそれはないだろうが。グフフ」


「だったらどうするつもりなんだ?」


「ガハハ! 簡単だよ。うっかり正当防衛だぁあああああ!!」


 と、斬りかかって来た。


 やれやれ。


攻撃アタック 防御ディフェンス


 彼は魔法壁にぶつかって吹っ飛んだ。


「あぎゃあっ!」


 A級の冒険者にしてはしょぼい攻撃だなぁ。


「俺も正当防衛だからな。これでおあいこだよな」


「ふ、ふ、ふざけるなぁああ!! は、鼻の骨が折れたぞぉおお!!」


「そんなのは回復魔法で治るだろう」


 寺開はコウモリカメラの電源を入れた。


「見てくれ! 鼻の骨が折れたぁああ!! あの男がやったんだぁあああ!!」


 おいおい。

 なんのための録画だよ。


「自分の情けない姿を映してどうするんだ?」


「ははは! バーーカ! 証拠だよ。おまえが俺に暴力を振ったというな」


 はい?


「ククク。いい気になるなよ無能くん。俺は法律には詳しいのさ。ダンジョンを出たら逮捕されるように動いてやるからな!」


「はぁ?」


「おまえは俺の頬を殴り、そして鼻の骨を折った!! この事実は揺るがないんだよぉおお!!」


「いや……。それは、まぁそうだが」


「無差別な暴力が許されると思っているのか? ハハハ! バーーカ!! 被害届けを出せば逮捕だぞ。地獄に送ってやるぅ!!」


「しかしだな」


「ハハハ! いいわけは見苦しいんだよぉお! 若造がぁああ!! 日本は法治国家なんだ! 貴様の無法が通るもんか。一方的な暴力。俺は貴様の暴力によって鼻の骨を折った。明らかに傷害罪の成立だぁ! 大人を舐めるとこうなることを思い知れガキがぁ!! ギャハハ!!」


 思い知れと言われてもだなぁ……。

 俺はポリポリと頭を掻いた。


「ギャハハハ! もう土下座しかないぞ!! 土下座だ土下座ぁあああ!! ギャハハハハ!!」


 寺開の高笑いがダンジョンに響く中、俺のコウモリカメラのRECランプは真っ赤に輝いていた。

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