24.肝試しは三人で♡

「……しんちゃん」


 名高なだかが不満そうな声で俺を呼ぶ。


「しょうがないだろ。……それに、である事には変わりないんだし」

「そういう問題じゃないーっ!!」


 だって……こうなってもしょうがないだろ。


 しきは今勝手に出歩いた罰で、こっぴどくお叱りを受けているし。


 あぁ……そうそう。


 結局あの後も来ないので、しきの居ないまま俺達は登山して下山までして、先生達が必死に探し回る中、しきはやっと夕方になって旅館の方に帰って来た。


 ごめんなさいとは謝るけれど、誰が聞いても肝心の何をしていたのかの部分はははぐらかして、答えようとしなかったみたいだった。


 だからこんなに問題になっている訳だけれど……その為に一大イベントの肝試しを取り止めする訳にも行かず、こうして執り行われている訳で。


 俺達は四人班だから、しきが居ないとなると三人になる訳で……ただでさえ女子の多いこの学校で、男女ペアになる事も珍しい肝試しでは、三人組となるのが順当と言える訳で。


 ……とにかく俺達は、三人で回る事になったって事だ。


「……」


 そう……俺と名高と、今俺達を冷たい目で振り返っている、この……上城かみしろと、だ。


「次のグループ、どうぞー」


 そんな中……レクリエーション係の人の声で、俺達は森の奥へと進ませられる。


 先頭をぐんぐん進んで行くのが上城、その後ろに俺と、俺の後ろに隠れながら進む名高とで、歪な三角形が出来る。


「名高……大丈夫か?」

「んぇ?……何が?」

「?……怖いから隠れてるんじゃないのか?」

「あっ……!」


 段々森も不気味になってきたので、とりあえず話でもして気を紛らわして貰おうと声を掛けると、そんな風に反応される。


「こ、こわーい……?」


 ……怖くないタイプなのは意外だなとは思ったけれど、そういえば夜に一人で平気で外出する様な奴だったのを思い出して、案外納得がいってしまう。


「……あっ」


 と、そんな事を考えていた時……ふと思い出した。


 昔むかしの、淡い記憶。


 俺と上城と……あともう一人くらいは居たっけか。


 とにかく、どこかの山奥に肝試しに行った時。


『怖いよぉ、しんちゃん……』


 あの頃は……上城の事、あだ名で呼んでたんだっけ。


『大丈夫だよ、あゆ』


 愛己あゆみだから、あゆ。

 いつから呼ばなくなったんだろうな。


 昔の事はあんまり覚えていないというか、こういうふとした時にふわっと頭の中に浮かんで来るものが全てだったから、何となく感傷に浸って居たけれど……そうだ。


 今それを思い出したのは、上城がこの暗い中、一人で先に行ってしまったからだろう。


 ……そう。

 もしかしたら、先に行ったのは俺と離れたかっただけで、本当は凄く……怖いんじゃないだろうか。


 そこまでしても俺と離れる方が重要なのかと思うとちょっと傷付きはするものの、何だか途端に心配になってきた。


「……名高」

「ん、なぁに?」

「ちょっと急いでもいいか?」

「良いけど……どうしたの?」


 嫌われていたって、一応……目の入る所まで近づいて、怖がっていないかだけ確かめるくらいはしたっていいハズだ。


 というか、同じ組み分けになったのにもう既に姿が見えないのが問題なんだ。


「……ちょっとな。あ、暗いんだから足元気を付けろよ」

「はーい♡」


 名高にそう行っておいて、俺達は小走りにルートを進む。


 あくまで森なので、高低差もあって名高には少しキツい事をさせなければいけないから申し訳無かったけれど、無理して転ばせたりしたらいけないのでちゃんと着いてこれる様な速さで行こうと注意しながらだったから、転びそうになる事も無かった……けど。


「……あれ、上城は?」


 ゴールの地点まで来た所に、上城の姿は確認出来なかった。


「わたし達より前に居た……よね?」

「……」


 ……何だか嫌な予感がしてならない。


「ちょっと見てくる」

「えっ……しんちゃん?!」


 そういえばあの時も……何かがあったハズなんだ。


 思い出せないながらに、確実にある嫌な予感に焦りつつも、俺は来た道の方へ向かって走りだした。

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