1ー④

─翌朝

 勇は登校のため、バスを待っていた。不思議な事に、昨晩の記憶が曖昧である。昨晩深夜、寝ている両親を起こさぬ様に家から1km離れたコンビニへ散歩がてら出かけたはずなのだが、気が付いたら自室のベッドで寝ていた。おまけに靴をはいたまま……そして、体に少し違和感がある。体が軽いのだ。まるで全てのパーツが新品に交換されたかのように。


「「あっ」」


 バス停に現れたのは紗良であった。


「おはよう」


「……おはよ」


 二人は家も近く、小学校中学年まではよく一緒に登下校していたものだった。


「あんた、いつもはこの時間じゃないわよね?」


「珍しく早起きしちゃったから、いつもより早いバスに乗ろうと思ってね」


 自ら早起きを “珍しく”などと言う勇に、半ば呆れる妙良。すると、程なくしてバスが停留所に止まる。

 バスの中は席がちょうど二席、隣り合わせに空いていた。


「どうぞ」


「……ありがと」


 男が促すと、紗良は一言礼を言い窓側に座る。そしてもう一つの空席である紗良の隣に勇は座った。


「えっ、あんたも座るの!?」


「座っちゃいけないの?」


 いけない……という事は無い為、紗良は答えずスマートフォンを取り出し。視線を勇から画面へと移す。


「何見てんの?ハイスタ?」


 紗良が見ていたのは、ハイスタグラムというSNSだった。


「そうよ。っていうか、盗み見しないでよ!」


「見えちゃったんだから、しょうがないじゃん……」


 邪険に扱われた勇は、鞄から冊子を取り出す。せれは昨日、駐在の源治郎からもらった福井県警の採用案内パンフレット。


「えっ!?あんた、警察になるの?」


「……盗み見してんじゃあないよ」


 勇は、紗良に言われた事をそのまま返す。悔しげな彼女の顔をよそに、勇は答える。


「昨日、ゲンさんにばったり会って、進路の話になったからくれたんだよ」


「ふーん。…高卒採用でも初任給約20万円?しかも警察学校の時から毎月もらえるの!?」


 SNSそっちのけで勇の持つパンフレットの内容を読む紗良。


「うん。 でも、父さんがよく言うんだ。給料や安定を理由に公務員になんてなるもんじゃないって。他人の生活を左右するかもしれない事に責任が持てないと、務まらないんだってさ」


 市役所の職員である勇の父も、市民の戸籍管理や市内の環境整備などに携わって来ただけにその言葉に説得力があった。


「じゃあ、あんたには向いてないわね」


「やっぱりそう思う?」


 幼なじみの紗良をしても、マイペースでフワフワとした彼に警察官という仕事は絶対に務まらぬであろう事は明らかだった。そして、紗良のスマホ画面には、ニュースの見出しが表示されていた。


“福井県立博物館に強盗!展示品3点が盗難される!!”

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