第14話 人魚姫とマーシャル島

 ノースポートの港の入口。

 ここには白い人魚像、人魚姫マーメイドが立っていた。

 その昔、人魚が出てこの地の漁村の一人の男性と恋の落ちたという伝説だ。

 人魚姫は船員の男性に恋をする。

 その男性の船は難破して男性は船から落ちてしまうが意識を失っている男性を人魚姫が助けて陸に送り届ける。人魚姫は海に戻っていった。

 人魚姫は魚の下半身を人間の足に化ける薬を飲んで男性に再び会いに行く。

 しかし薬の代償として人魚姫は声を失っていた。

 男性と再会し恋に落ちたものの、人魚姫が男性を助けた恩人だと気づいてもらうことはできない。

 しばらく楽しい時間を過ごすことができた。しかしそれは長くは続かなかった。

 男性は恩人を別の人だと勘違いしており、人魚姫と別れ、その人と婚約をしてしまう。

 人魚は失意の中、ナイフで男性を刺そうとするものの、できずに終わる。

 男性と恋仲になれなかった人魚は泡となって消えていった。

 というような失恋の話らしい。

 特に女性から悲しい恋物語として人気を博している。


 ●マーメイド

 魔魚。人魚の魔物。または亜人とも。

 人間の上半身を持ち下半身は魚をしている。

 人間になれるというのは空想上の話だろう。

 そもそも目撃例が少なくマーメイドそのものも半ば現代では空想と考えられている。

 物語に登場するマーメイドの多くが女性だが、父親も登場するので男性もいる。


 ちなみに人魚マーメイドに類似する種族としてセイレーンがいる。


 ●セイレーン

 魔魚。人魚の魔物。または亜人とも。

 人間の上半身を持ち下半身は魚をしている。

 古くは魚ではなく翼を持った鳥の形だと考えられていた種族だ。

 ハーピーと混同されるなどしていて情報は錯綜している。

 一般的には海に出没して音楽と歌を歌い船乗りを惑わし難破させるという。

 セイレーンはマーメイドの一種とも考えられているが詳しいことは不明だ。

 北の海は特に冬を中心に荒れることがあり、難破とセイレーンとを関連づけることが多いのだろう。

 セイレーンの伝承も北の海に集中している。


 ということでこちらも申し訳ないのだけど、あまり詳しくは分かっていない。

 ついでにもう一つ。


 ●マーフォーク

 魔魚、亜人。人魚ならぬ魚人とされる。

 マーメイドの多くが女性だがマーフォークといえば男性中心のイメージのものだ。

 人型で特に顔が魚っぽい容姿をしている。

 水中に住んでいてエラ呼吸ができる。

 色はだいたい青系統をしている。


 とまあ人魚関連の種族を紹介した。

 どこまでが空想でどこからが実在種族なのかも曖昧なところがある。

 伝説級の種族がその辺を歩いていた古代と違い、ある程度文明が発達した現代では、空想だと見做される種族も増えてきている。


 ただし水中に住んでいるなどして人間と交流を持たず、ひっそりと生活をしている種族がいないとは限らないというのが私の意見だ。

 火のない所に煙は立たぬ、という諺もあるので、もしかすると実在しているかもしれない。

 実際に近年になってからの目撃例、実在したという話なども少ないものの見聞きすることがある。


「さて、島へ渡るよ」

「マジックバッグだから馬車を置いて行けるんですね」

「そういうこと」


 ということでバルカンと馬車を宿屋にそのまま預けておく。


「船長さん、お願いします」

「はいよ! 船酔いは大丈夫かい?」

「たぶん、大丈夫です」

「わたしは初めてだからわからないです」

「そうかそうか、頑張って」


 ということで中型の帆船で港を出る。


 港町ノースポートの北側には北海が広がっている。

 しかし沖に出てすぐくらいのところにノースアイランド諸島という島々があった。

 今回の一つ目の目的地はその諸島のマーシャル島、シエスタ島に寄ることだった。


 船に揺られて半日。


「ほら見えてきた」

「おぉぉ、思ってたよりずっと大きい」

「だろうぉ」

「ここがマーシャル島」

「そうだ!」


 というこで最初の一番南の島、マーシャル島だ。

 ノースアイランド諸島の一番大きい島でもある。


 ここはエントライオン王国ではなく東隣のミッドランド王国に所属している。

 また海上街道といって船で行く街道に指定されていて、潮騒街道の一部でもある。


「こんにちは」

「こんにちは!」


 上陸して思うのは、みんな身なりがそれなりだということ。

 この島は産業が発達していて、本土より平均値でいうと裕福なくらいなのだ。

 その産業の一つは塩作りだった。


「すごい、一面の白」


 浜辺ではずらっと白い塩田が並んでいる。

 この辺りは標高が低くてというかマイナスで、海水を直接取り入れることができる。

 後は天日干しだ。太陽の光で水を蒸発させるのだ。

 北海は荒れることが少なくない印象とは裏腹に、ここノースアイランド諸島は晴れる日が多い。

 最後の工程では塩をかき集めて鍋で煮る。

 鍋の燃料は昔は薪が多用されたが、現代ではほとんどを魔石を使った魔道具が使われる。

 島で塩作りは薪にできる木がなくなってしまうため、昔は細々と続けていたのだけど、魔道具が使われるようになってから爆発的に塩田が一大産業に拡大したそうだ。


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