第31話  エルの日常①

 いつもお日様が顔を出して、しばらく経ってからエルは目が覚める。

 エルの朝は、いつもゆっくりだ。

 どんなに早く寝ても、なかなか目が覚めない。

 ヴィーは、すでに日課の村と周辺の点検から戻り、朝ご飯を作っている。

 台所から、コトカタ音がして良い匂いがしてくる。

 

『…ふぁ… 』

 

 小さなあくびをしながら、エルはベットから起きた。

 この家の居間の天井近くにある、太い梁の上にエルの寝床はある。

 本当はヴィーと一緒に寝たいのだが、体の大きさが違いすぎて危険なので無理だ。

 だからエルの希望を聞き、ヴィーが梁の上にエルの部屋を作ってくれた。

 

 綺麗な淡い黄色の下地に、色とりどりのお花の絵が描いてある木箱を見つけてきてくれ、その中に籠を固定してくれた。

 まるで妖精の花園みたい。

 その中に、ふかふかの綿が詰まったお布団が敷かれている。

 シーツは、エルのお気に入りだった肌触りがいいタオルでヴィーが作ってくれた。

『…ごはん…』

 妖力の少ないこの土地では、妖精とはいえご飯が必要だ。

 妖精の村であれば、不足している妖力は、漂う妖気を身体が勝手に補ってくれるのだが、妖力の濃度が低い土地では食事でそれを補う必要がある。

 なので、エルはごそごそと木箱から出ると、居間のテーブルにふらふら飛んで行き端っこに腰かける。

 

 足をぶらぶらさせながら、朝食を作る大好きなヴィーの後姿をぼ~っと眺める。

 振り返りにっこり笑ったヴィーと、「エルおはよう」『おふぁやう』と挨拶。

 ヴィーが朝ご飯をテーブルに並べてくれるので、エルはそれを大人しく待つ。


 ヴィーのお皿とコップは人種用だから大きい。

 エルだとそんな大きなコップは持てない。

 だからエルの食器は、エル専用。

 ちゃんとヴィーが用意してくれた。

 ユニオンの支部のある村で、お人形用に売ってたらしい。

 もちろんご飯もエル専用。

 全部小さく作ってくれてて、エルでも食べやすい。

 だからエルはヴィーが大好き。

 ちゃんとエルの事を考えてくれるから。

 テーブルに女の子座り? っていう座り方をして、ご飯をもしょもしょと食べる。

 エル用のテーブルと椅子を作ってくれるってヴィーは言ったけど、妖精の村でもこうだったから別にいらない。

 ご飯を食べ終わったら、今日の予定をお話する。


『今日は、何するの~?』

「街道近くの森に、オオカミの群れが出て人を襲うらしい。狩人だときついって、頼まれたよ」

『わかった~。今日は狩りだね~』

「ああ。用意が出来たら行くよ 」

『あい!』

 今日は、狩りだって! 張り切って行きましょう!


 梁の壁際には、ヴィーが作ってくれた棚がある。

 綺麗な布のカーテンで隠しているのは、エルのお着換え。

 今着てるのは苺柄のパジャマで、愛情がいっぱい込められた(?)ヴィーのお手製。

 ちょっと不格好だけど、タオル地だから気持ちいい。

 今日は森での狩りだから…緑色のお洋服がいいかな?

 お洋服は、この村のお姉さんが作ってくれた。

 それも色々な色でいっぱい作ってくれた。

 お洋服を選んで着れるなんて、とっても嬉しい。

 妖精の村では、ずっと同じ服を着てたから。


 パジャマをスポンと頭から抜くと、緑色のワンピースに着替える。

 ヴィーが壁に付けてくれた小さな姿見で、今日の自分をチェック!

 うん、今日も羽が綺麗な虹色! じゃなかった…お洋服ばっちり!

 お姉さんが作ってくれた、膝よりちょっと上まである靴下みたいなのも履く。

 ストッキング? っていうらしい。

 森の木々の間とか飛び回る私の足が傷つかないようにって、作ってくれた。

 妖精の村の皆は、いっつも素足なんだけどなあ。

 たまに妖精の村に戻った時に見せびらかすと、すっごく羨ましがられる。

 そうだ! 今日の髪の毛は、三つ編みにしよう。

 小さなエル用専用のナイフも腰に付けて、

『うん、準備完了!』

 

 玄関で私の準備を待ってくれてたヴィーの左肩に飛び乗って座ると、ヴィーはにっこり笑って扉を閉めた

 やっぱり、ヴィーの肩の上が一番落ち着く。

 エルの身体を、ヴィーの髪がさらさら撫でる。

 ヴィーの匂いがいっぱいする。

 この前、ヴィーの汗の匂いが好きって言ったら、すごい勢いでお風呂に行かれちゃった。

 石鹸の匂いも好きなんだけど、ヴィーの方が良い匂いだと思うんだけどなぁ。


 ヴィーと一緒に村の端っこに向かって行くと、村の人達が挨拶してくれる。

『おはよ~』

 この村の人種は、とっても優しい。

 妖精の村にいた時は、人種はとっても怖い種族だって聞いてた。

 妖精を狩って、石にするって。

 だから人種に出あったら、逃げなさいって教わった。

 でもこの国は、すごく良い人種が多い。

 1人でお遣いに別の村に行っても、みんな親切。

 お菓子とかくれる。

 誰にもいじめられたことは無い。

 この国の王様の所に、何回か妖精女王様のお遣いにも行った。

 全然、偉そうじゃなかった。

 あと王妃様のお胸がすごかった。

 だから、エルはこの国が好き。

 そんな人達が困ってるんだから、森に入ったらしっかりお仕事しなくちゃ!


『ん~?』

 森の中の気配を探ってみる。 

『ヴィー、近くにいないみたい』

 お仕事モードにはまだ早い。

「それじゃ、ちょっと移動しようか 」

『うん』

 ヴィーが森の中を走り出す時は、しっかり掴まっておく。

 自分で飛んでも良いんだけど、ヴィーと一緒の方が良い。

 あっという間に、森の中を移動。

『あ…、マスター! 右前方に森オオカミと思われる個体が5』

 見つけた見つけた!

 さあ、お仕事開始だ!

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