第26話

終局的誤差は、どんなに優れたプログラムでも必ず存在する。というのも、現実を模倣している限り、モデルはあくまでもモデルに過ぎない。どんなに複雑に見えても、何らかの単純化が行われている。


仮に、Aという入力が終局的誤差であると判明したとする。まず、問題になるのは、すでにこれが明らかになった段階で、モデルの製作は大半が終了している点だ。


だってそうだろう。モデルが組まれたからこそ、終局的誤差が生まれたのだ。


だから、Aをほぼほぼ完成間近のモデルに組み込むことになるのだが、これがとてつもなく時間と手間がかかる。


そして、厄介なことにAをモデルに認識させたところで、それで終局的誤差が無くなる訳ではない。別のBという入力が終局的誤差になるかもしれない。


なぜならば、アルゴリズムの変更は、異なる手順で現実を単純化することを意味するからだ。現実を単純化すると、どうしても終局的誤差からは逃れられない。


いや、Bが生まれるだけならまだマシといえる。過去、一つの終局的誤差をモデルに認識させたことで、その百倍にもあたる数の終局的誤差が新たに生まれたこともある。


だから、終局的誤差は無視するしかない。つまり、Aを入力しない前提で、モデルを組むのだ。


当然、再現度は下がる。現実では、シミュレーションの事情など考慮されないから、単なる誤差だろうが終局的誤差であろうが、日々様々な変数(つまり、環境因子のこと)が生まれ、世界に影響を与える。


しかし、再現度を無闇むやみに高めようとすれば、とたんに袋小路に追いやられる。最善の道は、出来うる限り終局的誤差を小さくして、それを除外してモデルを組むこと、それしかない。


説明が長くなった。クゼとの会話に戻る。

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