無理でした
「美子……?」
目の前には白い壁の様な何かがあった。よく見るとへこんだり膨らんだりしてるし、まさか?
「それ……私じゃないよ。ドラゴンだし」
「あ」
頭上を見上げると、確かに牙があり、琥珀色をした半月の様な瞳があった。その顔までの
距離だけでざっと5mはある
このフロアには存在しない筈のドラゴンだ
「離れて!雷降らせちゃうから!」
「ま、待て!ドラゴンは……」
俺の忠告も虚しく、
「グリュ?」
ドラゴンには傷は疎か、鱗一枚剥がせて無い
「ふぇ?!全く効いてないじゃん!嘘でしょ!!」
「だから言ったのに……」
地団駄を踏む美子だったが、べしりとドラゴンが手(足?)で払い除けてどこかへ飛ばされていった。アイツマジで弱っっわ!
で、俺はどうすっかなあ。逃げるのもアレだし、もしかしたら以外と大人しい種類かもしれないしこのままじっとしてるか?
「グルル……」
だが、判断が遅かった。ドラゴンは俺の頭に向けてその筋骨隆々な腕を振り上げたのだ。
終わった……マジでそう思ったのだが
耳を何かくすぐる様な感覚を覚え、閉じた目を開けてみるとそこには象牙色をした何かが
見えた。曲線を描くそれはどうやら爪らしい
のだが、大きさは80cmはある。今は俺の耳をくすぐっている様だが、少しズレれば俺の目を一突きに出来そうだ。いや、一突きにでもしてゲームオーバーにしてくれた方がマシかも……ほんと……くすぐったい…
「グ?」
やっべ、笑っちまった。ど、どうにかドラゴンを笑ったわけじゃ無い事を伝えなければ
よし、こうしよう。俺は手を頭に置いて
「にゃにゃ〜ん!実は僕、猫さんだったにや〜ん!でもおみみはくすぐったいから触らないでほしいのにゃ〜ん」
と、高めの声で言ってみた
すると、ドラゴンは一歩身体を退いて、口を
小刻みに震わせていた。まさか食うのか?
が、そんな心配は的外れでドラゴンは突如、
腹を抱えて笑いだしたのだった。それはそれは凄い笑い声だった。手を地面に叩きつけれ
ば周囲一帯が震えるし、涙を流せばその落ちた場所に一人入れるぐらいの穴が空く。
どうやら俺は……助かったらしいのだが
「※文字に出来ない様なドラゴンの笑い声」
何だろう、すんげー腹立ってきた。このやたら触り心地の良さそうな白い腹かそれともあの人間を舐めきった様な顔つきか……いや
「俺を馬鹿にしやがった事それだけだ」
俺はドラゴンの大きな腹を真横に斬った。すると、糸の様に細い傷から紫の血が滴る
「グ、グオアアアアッ?!」
さっきの笑いから一転、ドラゴンは傷口を
押さえながらその場を悶え回る。俺はそれ
を見ながら「ざまあみろ」と言ってやった
はずなんだけど……何で
もしかして……怒ってらっしゃる?あはは
「逃げるか!!もう終わりだぁ!」
「グルアアアアアアアアア!!!!」
俺は走った、とにかく走った。もう、猫耳が
めちゃくちゃ揺れるぐらいに。しかし、ドラゴンって案外走るのが遅いんだな。これなら
※地響き ……いや、リーチが長いから奴に掴まれたら終わりだ!くっそー!誰かー!
「え?どうしたのめっちゃ走ってるけど」
「み、美子……!助けてくれぇ!」
「って!さっきのドラゴンじゃないの!あんた何したのー!!」
「腹を斬っただけだ!がああああああ!!」
二人と一匹のドラゴンによる鬼ごっこは数十分続いた
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