第8話 幽崎先生はセクハラで、
耳を疑う。
今、なんて?
――心霊現象調査部。略して心調部。
「ワタクシはその顧問ね。おや、もしやうちのこと知らない?」
先生の言葉に、僕は頷く。
そんなかっ飛んだ部活があるなんて、聞いたこともない。
「キタコレ。部長、心調部の説明してあげてよ」
先生が国木田さんに話を振ると、彼女はスマホを軽快に数タップ。
すると、明らかに操作量と噛み合わない文章が、スマホから再生され始めた。
――突然ですが、みなさんは見えないはずのものが見えたことはありますか? この東央高校では、創立以来心霊現象や幽霊の目撃証言が多数報告されています。嘘や冗談ではありません。この学校は沢山の霊体が巣食う、お化け屋敷のようなものなのです。そのため感じやすい生徒は心理的に影響を受けてしまったり、ポルターガイストやラップ音など物理的な干渉を受けたりと、実際の被害が発生してしまっています。私たち心霊現象調査部は、それらの被害を無くすため、心霊現象の調査、研究、啓蒙活動などをしている、真面目な団体です。私たちと共に心霊現象と戦ってくれる仲間を探しています。また、もし学生生活の中で、おかしいな、変だな、と感じることがあれば、私たちの部室、特別棟四階左端の空き教室へお越しください。みなさんがこれから送る三年間が、普通で何事もなく終わることを願っています。
スマホの朗読が終わると、特別棟の静けさが帰ってくる。
「部活説明会の原稿のコピぺだね……緊張で誰も読めなかったやつ……」
廊下に、先生の乾いた笑いが響く。
「すいません、つまりどういうことですか……」
内容も、機械音声の抑揚のない読み方も、一度に頭に入れるには困難だった。
「ふむ。実はこの学校はね、お化けが色んな所にウロチョロしてるんだよ。そのせいで、繊細な子が落ち込んじゃったり、引き寄せやすい子が怖い目に遭ったりする。今の陰野くんみたいいに」
「はぁ……」
「だから、ワタクシたち心調部は、放課後にパトロールしたり調査をしたりして、生徒の安全を守ってるんだ」
えっへん。
平然と電波な内容を語る先生と、仏頂面でもそこには疑問を持ってなさそうな国木田さんとに対面していると、なんだか僕の常識の方がおかしい気がしてきた。
本当にクラクラするし、一周回ってイライラする。
さっきから、お化けとか、心霊現象調査とか……
平時であれば信じやしないのに、ただ今は、彼女の言葉をはねつけることができないのが癪だった。
だって、さっき僕の前に現れたのは、明らかにそういう『何か』だったから。
それ以外に、あの実在感や、今でも止まらない冷や汗を、どう説明するのさ……
「……おや?」
唐突に、先生は僕をじろじろと覗きながら階段を上がってきた。
間近に迫る成人女性に僕は仰け反る。
距離が近い。
そして……なんの匂いだろう。甘い薬品みたいな、蠱惑的な匂いがする……
僕の心拍が、さっきとは別の意味で上昇していく中、先生が口を開いた。
「なんかさ……陰野くん、美味しそうだね」
「ひゃい――⁉︎」
「いやなんか、すごく襲いたくなるというか……」
「ひっ……!」
――先生、それセクハラ。
階下から飛んできた冷たい――と言っても機械音声だけど――忠言に、
「おっといけない」
と、先生は階段を下までバックした。
「ごめんね、つい。いやー、陰野くん、いい感じに陰気になったねぇ! 幽霊から見たらかなり美味しそうだと思うよ。こりゃ、階段の奴も本気になっちゃうよなぁ。あいや、悪く思わないで。それ才能だから」
そんな才能は願い下げだ。
先生は急に黙りこくると、一人で、ふむ、と顎に手を当てて、
「……陰野くん、うちの部に入ろうか」
と言った。
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