第7話 入学式

 真夜中に痴女が俺の部屋にやって来た日から数日が経ち。

 今日は高校の入学式だ。

 正直、めちゃくちゃ楽しみ。俺と優々は一応同じクラスになったが、他に知ってる人は誰もいない。

 特別コミュ力が高いわけじゃないので、まずは友達作りから始めないといけないのは大変だけども。


 それもまた青春!


 あ〜……どうなるんだろう。


「理央くん、すごいウキウキしてるね」


「いや優々の方が倍ウキウキしてるでしょ」


 学校への登校中。

 隣を歩いてる優々は若干スキップ気味。


 家を出る前、制服姿で鏡の前に立ち。

 くるくる回ったり、ぶりっ子のポーズをしてみたり、決め顔をしたりしてたのを覗いてたから、なんとなく察しがつく。


「制服似合ってるよ」


「えへへっ。ここの高校、制服可愛いんだよね」


 俺には普通のセーラー服に見えるけど、これって可愛いんだ。


「理央くんもちゃんと格好良くなってるよ」


「そうかな。普通でしょ」


「まぁでも、私的にはいつも家で着てるラフな白ティーの方が好き」


「だよなぁ〜」



 ◆◆



「新入生の皆さんには……」


 同級生と喋るタイミングがなく、入学式が始まってしまった。

 理想は数人の同級生とアイコンタクトをとるくらい仲良くなる、だったけど。  

 なんという絶望的な状況だ……。

 

 どうすれば一切知らない相手と仲良くなれるのか考えていると。

 いつの間にか入学式は終盤に差し掛かっていた。

 

「では次に。新入生代表挨拶。一年一組、柏原優々さん」


「はいっ」


「え?」


 同じタイミングで声が漏れた。


 どうやら俺の聞き間違いじゃなかったらしく、優々が壇上に登ってるのが見える。


 新入生代表挨拶なんてするの、知らなかったんだけど。


 俺が絶句してる中、優々は口を開いた。


「暖かな風に誘われ桜の蕾も開き始め、私達も無事に入学式を迎えることが出来ました。本日は、このような素晴らしい入学式を開いていただきありがとうございました」


 透き通った声を発し。礼儀正しくペコリと頭を下げ。

 

「初めての登校に緊張しながらくぐった門でしたが、 先輩や先生方の励ましの言葉に緊張よりも期待が大きくなりました」


 キラキラした瞳で全体を見渡してる。


 ……なんなんだあの壇上にいる人は。

 俺が知ってる優々とは大違いだ。

 

 すごい良いこと言ってるのはわかってるんだけど、ネットで検索した例文を完コピしてるみたいに聞こえちゃう。


「この高校生活で壁にぶつかるときが来るかもしれません。そんなときは自分の信じるものを信じ、先生方、保護者様など様々な人の手を借り努力しようと思います。特別な人のためなら私はなんだってやります!!」


「「「「………………」」」」


 優々が突然声を荒げ、空気が凍りついた。


 途中まで完璧だっただろうに。間違えじゃなかったら、俺と目があった瞬間声を荒らげたんだけど。


 俺は何もしてないから悪くないはず、なのに。

 優々の見てる方向で感づいた同級生とちらほら目が合う。


「校長先生をはじめ、先生方、先輩方、いかなる時も努力をしていきますので、どうぞよろしくお願い致します。新入生代表、柏原優々」


 あぁ。なんか、俺の方を見てた人が隣の人と小声で喋ってるんだけど。

 変な噂話が生まれる瞬間じゃないこれ?

 大丈夫なのかな。

 ただでさえ、知らない人と喋るの得意じゃないのに。

 このままじゃ、ぼっちになっちゃうじゃん。

 

 優々が得意げな顔を向けてきてるけど……無視しよ。

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