告白コンプリート!

渡貫とゐち

告白コンプリート!⇒前編

 宮本みやもとみるくは美少女だ。

 誰が見ても認める、容姿端麗、学業優秀――


 加えて、運動神経も抜群で、人の輪に混ざり、その場を盛り上げることも、中心に立って大勢を引っ張ることもできるオールラウンダーだ。


 一見すれば、彼女には欠点が見当たらない。

 欠点がないことが欠点だ、と言う者もいるが、残念ながら彼女には欠点がある。


 外に見えていないだけで、彼女の人格は最低最悪とも言える最大の欠点だ。

 ――欠陥、と言えばいいのか。人としての不足が、彼女にはあった。


 大きな穴として、ぽっかりと。

 大事な部分が抜け落ちてしまっているかのように。



 毎日、美容師に整えてもらっているかのような綺麗な桃色の髪は当然、自分でささっといじったものである。


 美容を意識しているわけではなく、親の指南アドバイスで最低限のお手入れをしているだけで、最高のパフォーマンスを発揮してくれる。

 悪天候でも、彼女は学園でも一際強く輝いて見えるほどに飛び抜けた容姿を維持できていた……、これは技術ではなく天性のものである。


 先天性の容姿なのだ……、だから彼女が学園で、誰もが憧れるアイドルのような立場にいるのは、彼女がこの世界に産まれた段階で決まっていたことなのかもしれない――。


 背中に届く髪は丁寧に編み込まれている。

 敬遠されやすい髪型なのだが、彼女はそれを片手間で作ることができていた。髪ゴムでさっと結ぶように――、出来上がったクオリティを考えれば、そんな手軽にできる髪型でないことは、女子でなくとも分かっていた。

 にもかかわらず。

 喋りながらあっという間に作ってしまえるのは、手が癖になっているからなのか。


「私のも作ってっ」なんてお願いをする女子は少なからずいる。

 彼女の手にかかれば誰だろうと同じ髪型を作ることはできるが……、同じ髪型になるということは、必然的に『比べられる』ということである。

 最高傑作の隣に並べば、自分がいかに下なのかをあらためて実感させられる……、最初こそリクエストが多かったが、一週間もしない内に彼女と同じ髪型を作ることは諦めていた。

 可愛い髪型を真似したからと言って、自分が可愛くなれるわけではない――と、現実を見せられた気分であった。


 合う、合わないももちろんあるが、仮に合ったとしても、彼女がいることで合っていてもマイナスに見えてしまうのだ。それだけ、宮本みるくという少女は飛び抜けていた。


 高嶺の花――ではないのだ、意外と。


 彼女に想いを告げる男子は多い。

 あまりにも差があり過ぎると、話しかけるのも躊躇うし、フラれていないのに、自分から「これは無理な勝負だな……」と諦めて、近づき難い存在になっていることが多いのだが、彼女の場合は、距離感は近いのだ。

 彼女が積極的に人の輪に混ざり、仲間外れを作らない性格だからなのかもしれない。


 分け隔てなく誰とでも仲良くする。

 男子を勘違いさせることにかけては右に出る者はいないだろう。

「もしかしたらワンチャンあるかも?」なんて、あり得ないそれを『あり得るかも?』と近づけさせることができるのも、彼女の立ち振る舞いのおかげだろう。


 彼女を嫌う者はいない……男子はもちろん、女子だって。

 女子に関してはより一層、デリケートにフォローをしているのだから。


 男子は基本、ちょろいが、それでも一定数、恋愛観をこじらせた者だって、ひねくれ者だっているのだが……、そういう厄介な相手もまとめて『惚れさせて』いるのだから――宮本みるくの全方位から好意を受け取る技術は類を見ない。


 天才が感覚だけに頼らず、

 小手先も含め、技術を磨き慢心しなければ、効果は絶大以上に、衰えることもない。


 さらに進化し続ける……、今も、常に。


 宮本みるくは、廊下を歩くだけでも政治家のように手を振っている。


 振り返さない者はいない……

 まあ、いれば詰め寄って、とびきり甘い言葉を囁き、心も体も掴んで離さないのだけど。




「きなこちゃーんっ、元気してたーっ?」


 パソコン部の部員は一人である……、片山かたやまきなこ。

 宮本みるくにしては珍しく、裏も表も見せている、短いけど濃い関係の女の子である。


 マンションの部屋が隣だったことでぐっと距離が縮まった――というのは、数ある中の一つの理由だろう。

 片山きなこは昔、生きることをこじらせていたし、子供ながらに嫌にひねくれていたし、こだわりがあるくせに気分屋で――とにかく面倒くさくて分かりやすく嫌な子だった。


 そんな嫌な子が、宮本みるくと仲良くなるのは、必然だったのだろう……――だって気が合うから。


 常にスポットライトが当たっている宮本みるくの、わだかまっている毒に好んで舌をつけるのは、片山きなこのような、同じく自分の毒で慣れた舌先がなければ難しい。

 彼女きなこでなければ、毒を盛られて心が壊れてしまうだろう……、最低と最高というコンビに見えて、蓋を開けてみれば最低と最悪だったのだ。


 そりゃあ、仲良くなるわけである。



「……扉、静かに開けられないの? アンタのためだけに戸を変えようかしら……シャッターを上げるように――、その時にカエルみたいな足になってくれたら間抜けよね」


「あたしだよ? 間抜けな体勢にならないように上げるに決まってるしぃ」


「なら、こっちはうんと重くして、ブサイクな体勢になるように仕向けてあげるから」


 片山きなこならやりそうだ……。

 冗談が実行されそうな勢いがあるのだ。


 宮本みるくを困らせることにおいて、

 片山きなこの行動力は、単身、海外へいくようなほど大胆である。


 ……しつこい嫌がらせは彼女の愛情表現でもある。

 こうやって分かりづらいのが、『きなこちゃん』の良さであった。


 宮本みるくはそう公言している。


「きなこちゃん、さっき、また告白されちゃったっ」


 ぶい、とピースを向ける。

 片山きなこは一瞥もしなかった。

 しかしちゃんと聞いてはいたようで、起動していたパソコンを操作し、開いていたページを一旦閉じて、デスクトップの隅にあったファイルを開く。


 そこには、多くの名前と、その横には『レ点』のチェックが入っており……

 分かりやすい一覧になっていた。


 なんの?

 全校生徒である。


「で? 受け入れたの?」

「まさか、するわけないでしょう? ……身の程を弁えろって感じだしぃ」


「今の発言、録音してるけど…………公開してもいい?」


「いいけど、捏造したきなこちゃんが攻撃を受けるだけだと思うよ? 白を黒に変えることを、あたしはできるし、あたしが手を出さなくとも、狂信者ファンが勝手に白を黒に変えてくれるはずだから――、きなこちゃんの自殺は、あたし、あんまり見たくないなー」


「あんまり、ね。『見たくない』で止めないところがアンタだわ」


 あんまり、なら、見る機会があれば、それはそれで楽しむらしい。


 宮本みるくの発言と片山きなこの発言、どちらを信用するか、と言えば、やはり宮本みるくだろう……、決定的な証拠も意味がない。

 録音でも動画でも画像でも、どれも加工できてしまう。

 そして、片山きなこはそういった『加工』、『編集』においては、スペシャリストである。

 専門家だからこそ、彼女が持つ証拠は、本来の効力を持ってはくれないのだ。


 まあ、人付き合いの少なさも原因だろうけど。

 片山きなこの友人以下、他人以上は、宮本みるく、『のみ』である。


「で、相手の名前は?」

「確か――」


 告白を受けたばかりにもかかわらず、覚えていなかったので、片山きなこが彼女の証言を元に特定した。……今日の昼休みに、噂が回っていたので、調べるまでもなかったけれど。

 多少の裏付けは、きなこの中でも必要だった。ほぼ確定の根拠があったので、一覧から名前を探し出し、チェックを入れる――これで残りは、『一人』となった。

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