第42話 『本能』

「うれしいぞ、スズ! 我とこれほどまでに互角に戦えた者は、お主が初めてじゃ!」


 リオナの握った巨大な剣が赤い光を放ち、残像を残しながらすさまじい速度で連続攻撃を放つ。


「互角?」


 いや、まだ遅い。あんたの本気はそんなものじゃないだろ!


 私は彼女の攻撃を全て受け流し、反撃する。左腕を狙った一撃は、ギリギリで赤い糸の束で防がれた。


 が、わずかに届いた斬撃が彼女の左肩をかすり、赤い血が滴った。


「クッ、やはり化け物か! さっきよりもさらに速くなりおった!」


 バックステップして距離をとったリオナは、すぐに異変に気付いたようだ。自分の左肩の傷を見て、青ざめた。


「再生しない……!?」

「わかったかな、リオナ。あんたはもっと本気を出さないといけないって。じゃないと……死ぬよ?」

「我が……死ぬ、じゃと?」


 もともと青白い顔をさらに真っ青にして、リオナはギリギリと歯を噛んだ。真っ赤な瞳が炎のように燃え上がる。


「よかろう……真祖にして最強である我の真の力、今こそ見せてやろうではないか!」


 そう言った瞬間、リオナの全身から炎が噴き出し、周囲の不死者たちを焼き払った。


「うわーっ!!」


 背後でシエルが悲鳴を上げ、魔法障壁を張ってゼクスを守っていた。


「二人とも、死にたくなかったら離れてなよ!」


 そう叫んで、私はリオナに向かって踏み込んだ。魔法の炎は、私には無意味だ。


「チッ、やはりお主に魔法攻撃は効かんのか! ならばっ! これはどうじゃ!」


 リオナがこちらに手をかざすと、吹き荒れる炎が空中で凝縮され、無数の刃となって私に向かって飛んで来た。魔法攻撃そのものは無効化されても、魔法によって実体化された物理攻撃はそうはいかない。リオナもそれに気づいたみたいだ。


「いいね、リオナ! そうこなくっちゃ面白くない!」


 私は四方から同時に飛んでくる無数の刃を、体を回転させながら叩き落としていく。

 刃の雨が降り注ぐ中、リオナ自身も巨大な剣を持って突撃してきた。


「死ねえっ!」

「まだまだっ!」


 私は赤い魔剣で彼女の攻撃を受け止め、左手で黒い魔剣を抜いて飛んでくる刃を弾き返した。


「こんのぉーっ、化け物があっ!!」


 リオナの体から赤い糸が無数に放たれて、鞭のようにしなりながら飛んできた。血液を魔力で圧縮して飛ばしているのか。

 てか、あんたも十分、化け物だからね!


「おりゃああ!!」


 飛んでくる刃と赤い糸、それにリオナの剣の連続攻撃を回避し、受け止め、受け流し、一瞬のスキを突いて、冥府の魔剣で横一文字に斬撃を放つ。


 確かにその一撃は彼女の体を貫いた。が、手ごたえがまったくない。

 なんと、私の攻撃に合わせて、彼女の胴体の一部だけが黒い霧になって攻撃をかわしていた。こんなこともできるのか~!


「くっくっく! 見たかスズ! 再生できない攻撃なら、最初からくらわなければ何も問題なしなのじゃ! つまり、お主に勝ち目はない! 我の不死身の最強伝説は、こんなところでは終わらないのじゃあっ!!」


 リオナの手に握られた巨大な剣が、ひと際まばゆい光に包まれた。


「能力超強化ペタマックス! この一撃でチェックメイトじゃ!」


 その時、チリン、と私のベルトに括りつけた鈴が鳴った。


 そうだ、この感覚だ。

 私が大好きな、死の気配。


 戦いの中で、死が目前まで迫って来た時に感じる、何とも言えない恐怖感。心臓が爆発しそうなほどの高揚感。いつしかそれが、私にとって最高の快感になっていたんだ。


 これを感じたくて、私は戦いを求め続ける。

 戦闘狂かぁ。確かにそうかも。ある意味、変態だもんね。


 死を確信した瞬間、鬼の本能が目覚める気がするんだ。その時だけは、角を持たない半鬼半人の私が、鬼の血をはっきり実感する。


 リオナの本気、ちゃんと感じたよ。おかげで今、最高の気分だ。


 でも、ごめん。

 本当に死んじゃったら、もうこの感覚は味わえないから――。


「うおおおおお!!」


 私は二本の剣でリオナの大剣を受け止め、弾き返した。

 彼女の剣がバラバラに砕け散る。


 直後、私が握っている二本の剣から無数の青白い腕が飛び出し、空中の刃と赤い糸をすべて破壊して、そのまま一直線にリオナに襲いかかった。


「ええええええ! 何それっ!?」


 目を見開いたリオナに向かって踏み込んで、私は剣を構えた。


「楽しかったわ。さよなら、リオナ」


 無防備になったリオナに、私の渾身の一撃が炸裂した。

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