第36話 『女王』
大量の不死者の群れを剣で切り裂き、ひたすら進む。
魔剣は生きている敵に対しては心臓を握りつぶし、その生命力をエサにして魔力を得るらしいけど、不死者はそもそもただの動く死体。生命がないから、あの青白い腕も出てこない。食べられませんってことかぁ。
それに厄介なことに、不死者は首を斬り落としても、心臓を突きさしても、上半身と下半身が分断されても、執拗に動き続ける。本当に厄介!
魔法が使えない私が、奴らを倒す方法はもはや一つしかない。
つまり、動けなくなるまで細切れに切り刻むこと。
両腕、両脚、胴体、頭の六等分、うん、これが一番、簡単で早い。私は全力で駆け抜けながら、立ちふさがる不死者を片っ端から六等分していく。
さらに、空から急降下してきたドラゴンゾンビの体当たりを回避して、うまく背中に乗っかることに成功した!
「よし、このまま魔王城に突撃ぃ~!」
ドラゴンゾンビの首の付け根、人間でいう延髄のあたりに剣を突き刺して一息ついた。といっても、ものすごい腐乱臭のせいで、深呼吸したら吐きそうだけど。
地上を見ると、シエルが魔法攻撃を放って大量のゾンビを焼き払っている。こういう時ってやっぱり魔法のほうが楽だよねぇ。
ゼクスも大剣から炎の衝撃波を放って戦っている。うーん、さすが勇者。
私の魔剣は何かもっとド派手な必殺技はないんだろうか? 魔法無力化は確かにかなりすごい能力だけど、なんか地味だよね~。
そんなことを考えていると、ドラゴンゾンビが魔王城の上空ちかくまで近づいたので、私は剣を抜いた。
「ご苦労様~!」
ドラゴンゾンビの場合は体が大きいから、前後の脚と胴体、しっぽ、首、頭と八等分にしてやった。これで大丈夫だろう、と思ったら、なんと頭だけになっても炎を吐いて来た。どういう仕組みなんだよ!
仕方ないから頭も半分に叩き割る。やれやれ、九等分はさすがにめんどい。ドラゴンゾンビは勇者パーティに倒させてあげよう。
魔王城の一階の大広間に入ると、そこもやっぱり不死者で溢れ返っていた。むしろ、魔王都で不死者が溢れ返っていない場所を探す方が大変かもしれない。
一の太刀で首を斬り、二の太刀で右の手足、三の太刀で左の手足を斬って一丁上がり。その三連斬りを超高速で繰り出し続け、あっという間に大広間は不死者の残骸だらけになっていく。
そこへ、ゼクスとシエル(と鬼兵士たち)が駆け込んで来た。あら、思ったより早いな。
「スズ、なにをチマチマとやってるんですか! やはり私がいなければダメみたいですね!」
シエルの杖から虹色の光が放たれて、それに触れた不死者は炎を上げて消滅していく。
「おお~! シエル、やるじゃん! 今度やり方教えて~」
「何を寝ぼけたことを言ってるんですか!? 大聖女の私だから使える魔法ですよ!」
冗談で言ったんだけど、なんかガチギレされちゃった。シエルってたまに短気なところあるよなぁ。
大広間の不死者があらかた片付いた時、外からまた大量の不死者が押し寄せて来たので、私はとっさのアイデアで入口の扉を破壊した。ガラガラと壁が崩れて、完全に入口が封鎖された。これでしばらくは入ってこないだろう。
「さすがスズ様! 豪快でかっこいいっす!」
鬼兵士たちが騒ぐのを無視して、私は上に向かう通路を進む。
魔王城の中は迷宮のようになっていて、初めて来る奴らは絶対に迷ってしまって魔王の間までたどり着けないだろうが、私はもともとここに住んでいたから道順は完璧だ。
と、石作りの回廊を進み始めた時だった。
異様な殺気を感じて、私は足を止めた。
「どうしたんだ、スズ!?」
ゼクスが叫びながら走ってついてくる。
なんだろう、すごい殺気が漂っているのに、姿が見えない。
いや――。
廊下の壁の足元の陰に隠れて、くろい霧のようなものが私の横を通り過ぎて……って、私をスルーするとはいい度胸ね!
「気を付けてください! ゼクス、何か……ヤバイのがすぐ近くにいます!」
「ああ、俺も今気づいた!」
ゼクスが剣を構えた直後、黒い霧がシエルの背後に漂って、その霧の中から女が現れた。いや、というより――霧が女になった。
紫の長髪に、血まみれのワンピース姿の、青白い肌の女。
「シエル!」
ゼクスが叫んだのと、私がシエルの服を掴んで投げ飛ばしたのと、女が手に持った針みたいに細長い剣で突きを放ったのは、ほぼ同時だった。
女の突きを叩き落として、私はそのまま女の首を狙って剣を振った。
たぶん魔王やゲイルフォンだったら、これで死んでいたはず。だけど、そいつは、奴らよりも強かった。
叩き落としたはずの剣が斬撃をいなして、そのまま私の心臓に向かって一直線に飛んでくる。速い――剣が間に合わない!
瞬間、チリン――と、私のベルトにつけた鈴が冷たく鳴った。
私はとっさに体を回転させ、女の剣を拳で殴り飛ばした。
でもその剣はびっくりするくらい軽くて、手ごたえが全然なかった。
「ほう、面白いのう、お主」
女がニヤリと笑う。
きっと私も笑っていた。
「あんたもねっ!」
私は、剣を握る腕に力をこめて、一瞬で7連攻撃を繰り出した。
その攻撃を、女は全て細い針のような剣で受け流し、受け流したと同時に突きも放ってくるのを、私は回避し、剣でさばき、お互いの剣技をぶつけ合うような激しい攻防。
私の全力の剣をまともに受けられるなんて。
こんなに強い敵は初めてかもしれない。
楽しいいいいいいい!!
だが、ほんのわずかだが、私のほうが速かった。
斬撃が女の手首を切り落とし、細い剣が宙に舞う。
残念だけど、これで終わり!
私の放った高速の三連攻撃で、ソイツの体はバラバラになった。
「見事じゃ……お主、名は何と言うのじゃ……?」
女の生首が笑いながら、私の顔を見上げる。首の切断面からはドクドクと赤い血が吹き出している。
楽しませてくれたお礼だ。冥途の土産に、名前くらいは教えてあげよう。
「スズだよ」
「スズか……いい名じゃな。我はお主のことが気に入ったぞ、スズ」
「ああ、私も楽しかったよ。あんたとの戦いは」
「それは良かった。では特別に、お主を我の眷属にしてやろう!」
「え?」
てっきりこのまま女は死ぬとばかり思っていたのだが、ニヤニヤとした笑みを浮かべる生首が宙に浮かび、散らばっていた体のパーツがいきなり動き出して合体して、元通りに再生してしまった。
ええええっ!
あ、そういえば、いつもだったら心臓を握りつぶす魔剣の腕も出てこなかったな。
「あんた……不死身なの?」
「うむ、不死身じゃ!」
女はドヤ顔で頷く。
「そして我の眷属になれば、お主も不死身になれるぞ。我の名はリオナ・ブラッド・アルカルド。すなわち、不死の女王、暗夜の支配者。真祖にして最強のヴァンパイアじゃからな!」
「ヴァンパイア……?」
マジか。私は思わず呆然としてしまった。だって――。
不死身だったら何回でも殺し放題じゃん!!
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