第19話 『復讐』

「ゲイルフォン!」


 屋上から、イブが部屋の中に飛び込んできて、ゲイルフォンに回復魔法をかけた。


「この豚女は私がぶっ殺すわ! その体じゃあ、コイツの相手は厳しいでしょ! あなたは、上の人間二人をお願い」

「イブ……わかった、頼むぞ」


 ゲイルフォンは頷いて、屋上に跳び上がって行った。

 なんだ、さっそく尻に敷かれちゃってるじゃん。しょーもない男。


「というか、誰が豚女だって? このクソザコビッチ女」

「はあ、ビッチはそっちでしょ? ゲイルフォンに捨てられたからって、早速別の男を引っかけて。節操ってもんがないわね」

「はあ!? 私がいつ誰をひっかけたってんだよ!」


 コイツの妄想癖はどうしようもないな。


「無自覚系クソビッチだったようね……お前みたいな女が、私は一番嫌いなんだよ!」


 勝手にブチギレたイブが、全身から紫色の炎を放って攻撃してきた。


「あっそ。なら良かった。私もあんたの事は大嫌いだから。ぶっ殺したいくらいにね!」


 炎を剣で切り払い、一気に距離を詰める。


「死ねええ、クソビッチ!」


 首を狙った一撃。

 が、イブの両腕に魔力を結晶化させた剣が現れ、私の攻撃はギリギリのところで防がれ、キィン、という金属音が響いた。


「死ぬのはお前だっ! 豚女!」


 イブが私の剣を払い、両手の剣で斬りかかってきた。けど。


「遅すぎよ!」


 私が剣を返し、二連撃でイブの両手を弾き、再び首を狙った刹那。

 突然、イブの全身から大量の紫の炎が噴き出し、私はとっさに回避して距離をとった。


 べりべりと音を立てて真紅のドレスが破れ、イブの体がそれまでの倍くらいの大きさに巨大化した。

 肌は硬いウロコに覆われ、全身が紫色の怪物のような姿。


「へえ、それがあんたの本当の姿ってわけ? そっちのほうが美人じゃん」


 私のその感想が気に入らなかったのか、イブはギロリと灰色の目を輝かせて睨んできた。


「その余裕ぶったヘラヘラ顔がいつまでもつか、楽しみね!」


 一瞬、イブの姿が消えたように見え、直後、背後にすさまじい殺気。

 私は振り向きざま、イブの剣を受け止めた。


「さっさと死ねえええ!」


 イブがすごい勢いで両手を振り回し、私もそれを全て受け止めていく。キンキン!

 間違いなくさっきよりもスピードアップしている。私と互角くらいかもしれない。


「へえ、インドア派のお嬢様かと思ってたけど、結構やるじゃない」


 剣戟の中、私が『ヘラヘラ顔』で挑発すると、不意にイブの目が光った。魔法か?

 私がとっさに距離をとると、イブの目から赤い光線が放たれ、私はそれを剣で受け止める。


 刹那。


 剣から青白い腕が飛び出して、イブの心臓を狙った。


 だが、イブは剣でその腕を薙ぎ払い、腕は空中で消滅した。ひょえー。


「あの腕を防御したのは、あんたが初めてだよ」

「ふん、あれがお前の奥の手ってわけ? 意外としょぼい技なのね」


 いや、奥の手というか……勝手に発動しちゃっただけなんだけど。この魔剣、いまだに謎過ぎるんだよな。


 イブが両手の剣を構え、剣から赤いオーラがもやもやと上がる。強化バフだ。


「そろそろ終わりにしましょう。本当ならもっとなぶり殺しにしたかったけど、そんな余裕はなさそうだから」

「ああ、同感。珍しく意見が一致したね」


 私も剣を構える。まあ、魔法が使えない私にはバフも何もないんだけど。


 再び、イブが一瞬で距離を詰める。さっきは油断してたから見えなかったが、今度はバッチリ!


「そこだっ!」


 渾身の斬撃を放つが、イブの剣に防がれる。まあ、ですよねー。


 再び、イブの連続攻撃が始まって、私はそれを受けるので手一杯に。


 だが――。


「うふふ、お前の限界はここまでみたいね! ならばっ」


 イブの体が赤く光り始める。バフ追加か!

 攻撃の一つ一つが、重く、速くなっていく。


 うわあああ、速い! コイツ、ここまでやる奴だったのか。

 仕方ない、私もちょっと本気を出すか――。


 チリン、と、私のベルトにつけた鈴が鳴った。


 その瞬間、私の体はイブの背後に回っていた。

 四連撃を放ち、イブの背中から赤い血が吹き出す。


 首も斬り落とすつもりだったが、さすがにウロコが硬くて一撃では刃が通らなかったか。


「おのれ、化け物がぁっ!!」


 イブが振り返りざま、剣を振る。


 瞬間、私の中に、魔剣の意思のようなものが流れ込んで来て、ある映像が脳裏に映った。


「そうか、わかった!」


 黒い魔剣が、青白い炎をまとって燃え始めた。


 その剣でイブの攻撃を受け止めた刹那、青い炎がイブの刃を伝い、彼女の右腕が一気に炎に包まれた。


「ぎゃああっ! なんだ、この炎はっ!」


 イブはのたうち回って炎を消そうとするが、消えるどこかどんどん燃え広がって、肩口あたりまで迫っていく。


「おのれ、妙な魔法を使いやがって!!」


 そう叫んだイブは、自ら右腕を切り落とし、胴体から離れた右腕は炎に包まれて一瞬で灰になった。


「へえ」


 私はちょっと感心した。躊躇なく自分の腕を切り落としたことに。彼女は、自分の命と引き換えにしても、私を殺そうとしている。その執念、悪くない。


 ならば、彼女が後悔しないように、華々しい死を与えてやろう。

 最低最悪のクソビッチだけど、その覚悟に全力で答えるのが騎士道ってやつでしょ? まあ、私は騎士じゃないけど。


「来いよ、イブ! あんたの命、私が受け止めてやる!」

「舐めるなよ……私は夢魔族の姫……半鬼半人のお前なんかに、負けるわけがないんだ!」


 だが、片腕になったイブの攻撃は、もはや圧倒的に私より遅い。


「終わりね」


 残った片腕を切り落とし、返す刃で四連撃を放ち、イブの首を斬り落とした。


「ぎゃあああああっ!」


 断末魔の悲鳴を上げ、イブの全身が青い炎に包まれる。


 その炎を、黒い剣が、まるで魂を吸い取るかのように吸収していく。

 この剣、敵を殺すたびに成長している――?


「スズ様! お見事! ついにやりましたね!!」

「すげえええっ! あのパンドラの妹のイブを倒すなんて!」

「やっぱりスズ様は最強だぜ!!」


 いつの間にか観戦していた鬼兵士たちが口々に歓声を上げる。いや、空気読めよ!


「うるせー! 静かにしなさい!」


 もはや胴体は燃え尽き、首だけになったイブは、ゲイルフォンの名前を呼び、涙を流しながら絶命した。


 その涙の意味も、価値も、私にはわからない。

 私にとって、あんたはただ最悪な奴でしかなかった。

 でも……殺して復讐を果たした以上、もう何も思う事はない。

 ただ、安らかに眠れ。


「……ってか、あの二人、大丈夫かな?」



毎日2回更新(朝8時・夜8時)がんばってますので、ぜひ明日も読んで頂ければ幸いです!!

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