小学生

第9話 押し掛けライバル登場

 日常生活に芸能活動が入って早数年。今では人気子役たまにキッズモデル。

 やっと小学5年生になった私の生活はとても忙しい。事務所に入ってなかったので、新戒しんがい監督が薦めた大手プロダクションであるキセキ芸能事務所に所属した。専属のマネージャも付いて荒稼ぎしている。

 両親が公立の小学校では芸能活動は難しいだろうと新戒しんがい監督と相談して私立の星箕ほしみ学園初等科に入学した。

 星箕ほしみ学園の偏差値は65ややと高めだが、単位を取得すれば出席日数は問われない。

 初等科の最高学年になると中学3年生の勉強が範囲になる。入試も難しいらしいが、私は人生二度目だし完全記憶のスキルを持っているので問題はない。

 「光、おはよー」

 隣の席の友達である光に挨拶をすれば

 「燈由ひよりおはよう。ドラマ見たよ!手毬てまりちゃん役が凄く良かったよ!」

月9ドラマの『あたしの家族』の手毬てまり役を褒めてくれた。

 「ありがとう。そうそうちゃんと宿題した?」

 光は宿題を忘れる傾向があるので聞いてみると

 「ちゃんとしたよ!でも分からないところがあって、燈由ひよりこの通り教えて!」

パンと顔の前に手を合わせてお願いしてきた。

 「良いよー先生も意地悪だよね。分からなかったのって最後の問題じゃない?あれ中三の問題だもの。」

 「習ってないじゃん!!」

 ブーブーと文句を言う光に

 「予習の範囲になるからねぇ。ほら、先生が来る前に仕上げちゃうよ。」

プリントを取り出して光に懇切丁寧に教えていく。

 「二次方程式のax2=bの解き方は~~~になるよ。分かった?」

 かみ砕いて説明すれば

 「あーなるほどねぇ。因数分解よりはマシだね。それにしても流石燈由ひより様!凄く分かりやすかった!」

理解したようだ。

 「今日はオフなの?」

 「んにゃ、オフだったけど急遽ミュンミュンmyun myunの雑誌モデルに引っ張りだされた。」

 「え?マジで?ミュンミュンmyun myunの雑誌モデルって凄いじゃん!!」

 良いなぁ、と連呼する光に

 「私は休みが欲しかったよ。まぁ、小学校卒業したら芸能界は引退するけどね。」

将来は公務員だと言えば

 「勿体ない!今超売れっ子のあんたが引退なんて!売れなくなってから引退しなよ!」

猛烈に反対された。

 「でもねぇ、芸能界って売れてなんぼじゃない?子役の寿命なんて短いわよ。本当なら愛華あいか先生にピアノを教わるはずだったのに、最近では忙しくてピアノ教室に通えてないんだから。日本舞踊ぶようの先生も会ってないなぁ。」

 休みが欲しいと呟くと光は何とも言えない表情かおをした。

 「お前等、席に就けー」

 担任の小田先生の声掛けにそんな時間かぁ、と私は光との会話を終わらせて教壇を見る。

 「今日はお前等に良いことがあるぞ!」

 小田先生の言葉に

 「えー何ですか!?」

ノリの良い同級生が声を上げる。

 「それはなー転入生がこのクラスに来るんだ!仲良くするんだぞー」

 ワハハハと笑う先生の言葉にクラスが沸き上がった。

 星箕ほしみ学園へ編入するには頭が良く芸能活動をしているのが条件になる。どちらか一つ欠けると編入は出来ない。

 友人の光だって事務所に入っており、子ども声優事務所KIDS VOICEに所属しているのだ。学校に在籍している子供は何かしら事務所に所属している。

 「宮園、入ってきて良いぞ。」

 小野先生の言葉に促され教室の扉が開いた。

 私と人気を二分する宮園春香が入って来た。

 「渡辺芸術大学付属小学校から来ました宮園春香です。中途半端な時期での転入ですが、皆と仲良くしたいです。夢は歌手で趣味はカラオケ、特技は料理です。宜しくお願いします。」

 綺麗な姿勢のお辞儀にクラスが沸き上がった。

 「綺麗!生の春香ちゃんだ!」

 「顔小さいねぇ!」

 「お人形みたい♡」

 様々な賞賛と拍手で宮園春香を歓迎する。

 とはいえ、何故か私は彼女に睨まれているみたいだ。しかし私と彼女は接点はない。

 宮園春香は監督である父の宮園雄三ゆうぞうと女優である母の宮園敦子あつことの子供タレントである。マルチに活躍し、歌って踊れる子役だ。

 「席は市橋の隣な。」

 後ろの市橋君が手を上げたのを確認して、宮園春香がこちらに向かって来た。

 私の横を通り過ぎた時に私にだけ聞こえる音量で

 「後で顔貸しなさいよ。」

ボソっと呟かれた。

 ああ、嫌な予感がする。



 宮園春香に群がるクラスメイト達に彼女は

 「私、秋月あきつき燈由ひよりに用事があるから。」

と話しをぶった切ってくれた。

 彼女の態度の悪さに私を含めて皆唖然としたのは言うまでもない。

 「私は宮園さんに用事はないけどなぁ。」

 遠回しにお断りだ!と言えば彼女は鬼の形相で

 「何よ!お高くしちゃって!私が裕翔ゆうと君とミュンミュンmyun myunのモデルをするはずだったのよ!?」

発狂した。

 「ミュンミュンmyun myunのモデルって今日の?」

 光の言葉にあちゃーと私は顔を手で覆う。

 このミュンミュンmyun myunのモデルは当初は私がする予定ではなかったのだ。他のモデルさんに決まっていたのだが、モデルにトラブルがあって急遽私の事務所に打診があったのだ。そこでオフだった私に話が回って来たというわけで、宮園さんが元のモデルだったとは…

 「本当は私がモデルをするはずだったのよ!なのにイメージに合わないから降ろされたの!」

 憤怒の表情かおをする宮園さんの言葉に光が

 「え?それって燈由ひよりと関係なくない?イメージに合わないから外されたなら恨むのはお門違いって言うか…」

ずばっとデリケートな部分を抉ってしまった。

 同級生達も光に同意してしまい宮園さんは孤立無援の状態である。

 「光、先生の所に用事があるから一緒に来て。」

 光の腕を引っ張って教室から逃げ出した。

 後ろであんたは私のライバルなんだから!と吠える宮園さんの声が聞こえるが、私は溜息しか出てこない。

 「宮園さんってテレビで見てたのとイメージ違うなぁ。何か意地悪な子だよね。」

 光の感想に

 「意地悪っていうか……ライバル扱いとかマジで勘弁して欲しい…」

幸先が思いやられると嘆けいた。

 こうして自称ライバルの宮園春香に付き纏われる日常の火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

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