第13話 イケメン

 家には誰もいないから、簡単に家を抜け出すことが出来る。


 えへへ、今日はなんの話しをしようかなぁ。


「っ、え」


 道を照らす街灯に人影、だれ? 


 っ、私に気づいた? え、なんでこっち来るの!? 


 暗闇だから顔を見る事が出来ないし、名前も呼ばれない。確実に知り合いではないだろう。もしかして、不審者?


「こ、来ないでっ────きゃっ!!」


 逃げ出そうとしたら石に躓いてしまった……。


「……あっ」


 後ろから気配、見下ろされている視線。どうしようどうしようどうしよう。逃げたいのに、立ち上がれない。というか、今更もう、逃げられない。


『…………貴方が、異鏡さんが言っていた高瀬美波たかせみなさんですか?』

「っ、え?」


 なんで、私の名前を知っているの? しかも、今、異鏡君の名前が聞こえたような気がしたんだけど。


 ゆっくりと振り向くと、そこに居たのは成人男性。袴を着て、片目を黒い髪で隠している美形。


『あの、間違いですか?』

「え、い、いえ。私は高瀬美波で間違いないですが……」

『それなら、よかったです。我は百目。今は人間に擬態をしておりますが、実態はありません。貴方の事を知る為、出迎えさせていただきました。以後、お見知りおきを』


 ん? 色々気になる単語が飛び出して頭が追い付かない。


 百目? 私を知る為? どういう事? というか、なんで異鏡君の名前を? 


『異鏡さんは貴方を知りたいと言っており、我が派遣されました。申し訳ありませんが、貴方の近くに居させていただきます』

「え?」

『失礼します』



 ――――――しゅっ



「……………………え?」


 消え………た?


 ※


「あの、異鏡君」

『やぁ!! どうしたの?』

「今日、誰かを派遣しました? 例えば、超絶イケメン……とか」


 今日も今日とて、鏡の前で満面な笑みを浮かべ出てきた異鏡君。その笑顔は本当に可愛いけど、今は他に聞きたい事があるのだ。


『あ、もしかして、さっそく行ってくれた? 百目』

「来ましたが…………なんで?」

『というか、さっき美波ちゃん、超絶イケメンとか言わなかった?』

「え? 言いましたが、それが何か?」


 無表情になった異鏡君。その顔を浮かべたいのは私なんだけど、どうしたの?


 って、うおい!? いきなり両肩を掴まれた? え、何。怖い怖い怖い。


『美波ちゃん』

「……はい」

『もしかして、イケメンが好きなの?』

「へ?」


 隣に立っている静稀を見るけど、言っている意味が私と同じくわからないようで首を傾げている。


 えぇっと、なんて答えよう。


『百目』

『はい』

「「うおい!?!?」」


 静稀と同じ、変な声が口から飛び出した。

 心臓がまだバクバクしているよ、いきなり背後に現れないでください、百目さん。


『何か御用でしょうか、異鏡さん』

『……………………』


 じぃっと百目を見ている異鏡君。百目さんもなんで見られているのかわからないみたいで、彼の瞳を見つめ返していた。


 何だろう、この時間。


『…………もしかして、黒髪がいいの? でもそれだと私も黒髪だし。袴? 袴がいいのかな、それか無口なところ? いや、高身長がいいのかな』


 異鏡君かなにやら、ブツブツと呟き始めた。

 どのような意図で、そんなブツブツ言っているのだろう、分からない。


『あの、異鏡さん。さすがにぶつぶつ呟くだけでは意図がわかりません。あと、美波さん達が困惑しております。ご説明頂けると嬉しいのですが……』

『…………美波ちゃん』

「え、はい」


 百目を見ていた異鏡君が私の方を見てきた。ギギギという効果音出てそうな振り向きかただなぁ、ホラーだよ、普通に。


『美波ちゃんは、百目みたいな美形青年が好きなの?』

「ん? まぁ、嫌いではないよ。女の子なら結構好きな人多いと思うんだけど」

『なんで!?!? 私は!? 私だって見た目は悪くないと思うんだけど!? 何で百目なの!?』


 え、ちょ、肩をガクンガクンしないで、首が、首が取れる。目が回るよぉぉぉお。


「待て待て異鏡、美波の首が取れる!!」


 おえぇぇぇぇええ。


 うっぷ、静稀が異鏡君をなだめてくれたおかげで、なんとか解放された。

 頭がまだぐわんぐわんする。何が起きたんだよぉ。


『私だって、私だって見た目は悪くないもん…………』

「はいはい、異鏡もかっこいいよ。だから、落ち着け」

『うぅ』


 え、もしかして、かっこいいって言われたいの? でも、異鏡君はかっこいいと言うより可愛いと思ってしまうんだけど。


 ………言った方が、いいの、かな……?


「えっと、異鏡君もかっこいいよ?」

『なんか、無理やり言っているような気がするんだけど…………』

「き、気のせい気のせい」


 うわぁ、めっちゃ怪しまれてるぅ。目を逸らしても視線を感じるよ、見ないで見ないで。


「つーか、なんで百目というあやかしがここに? しかも、さっき美波が気になる事を言っていたような気がするんだが」

「あ、そうだそうだ。異鏡君、なんで私に百目を派遣させたの?」


 それを今日聞きたかったんだった。


『え、だって。お姫様を助けないと』

「え?」

『ん?』

「え??」


 いや、どういう事? 助けるって、何?


『だって、美波ちゃん。時折、泣いているんだもん、助けないと』

「え、泣いてないよ?」

『泣いてる』

「い、いや」

『泣いてるよね?』

「えぇ…………」


 私、泣いていないんだけど。どうすればいいのかなぁ。


「確かに、心が泣いているよな」


 え、静稀にも言われた!? なんで??

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