高層エレベーター殺人事件

第２話

「七名が招かれた嵐の洋館の中で、全てが密室での八（・）つ（・）の連続殺人が起きる。幕開けの犠牲者は主催者の館主で、翌朝に自室で殺されているんじゃ」

権造がミステリーを語り出すと、いつも長くなる。その間は、お互いのゲームキャラは、可哀そうだが小休止となる。

「一つ目の密室となる館主の部屋は、ドアや窓には頑丈な鍵が掛かっていて、合鍵は無い。ドアを蹴破って、招待客の七人が部屋に駆け込んで死体を発見すんじゃが、その時に、客の一人がポケットの中から、こ（・）の（・）部（・）屋（・）の（・）鍵（・）を（・）絨（・）毯（・）の（・）上（・）に（・）落（・）す（・）と言う、密室トリックで………」

「ゴンゾー。ストップ！」

僕は話の途中で割り込んだ。〇時四〇分、……権造の残り時間が少ない。

「七人の来客者に八つの死体っていうのも気にはなるけど、今読んでいるのは、高層ビルのエレベーターに十一階から一人で乗った人が、一階に着いたら殺されていたと言うもので、そのエレベーターは十一階から一階までは直通で、途中の階には止まらない。だから、エレベーターの室内の密室と、それ自体が動く事で外部からの侵入を阻止する、そんな二重構造の密室と言うか、………そんなのってある？」

僕の説明が、少しだけ早口になってしまった。

「自体が動く事で、他者の出入りを阻害する密室じゃな。……あるぞ、あるぞ！」

と、考えている様子も無く、権造の楽しげな応えが、瞬時に返って来た。

「それはな、海に潜った潜水艇の中で殺人が起こる『動いていては殺せない』だ。暴露系の動画配信で巨額の富を得た男が、過去の暴露ネタが原因で、殺害予告が送られて来るところから、本編がはじまるんじゃ………」

「推理小説に潜水艇ですか？」

「そうじゃ、………二週間後の十一月五日の午後〇時（正午丁度）に殺害予告を受けた男が、タイのプーケットへ逃げて、………」

「二週間後って、随分先ですね。普通は、翌日とかですよね」

「ああ、男に時間の余裕を与えたのにも理由があるんだが、ここでは割愛する。あと、プーケットの時差は日本より二時間早いから、予告時刻は現地時間で午前一〇時になるんじゃ」

「時差は関係あるの？」

「無い。男は午前一〇時の殺害予告を完全に不可能なものとするために、一〇分前の九時五〇分に三人乗りの小型潜水艇に一人で乗り込んで、プーケットの碧い海へ潜った。潜水艇は遠隔操作が可能で、海上のクルーザーに乗っているスタッフが潜水艇の中の男と無線で話をしながら、操縦をしていた。すると、一〇時頃に突然潜水艇との連絡が途絶える。潜水艇を一〇時十五分に引き上げてクルーザーに横付けをして、スタッフの一人が中へ入ると、殺人鬼の予告通りに潜水艇の中で、男が死んでいたんじゃ」

「え、うそ、……潜水艇に一人で乗り込んで海に潜った男が、引き上げてみたら、中で死んでいたって言う事」

「そうじゃ。究極で完璧。他に類の無い、唯一無二の密室設定。そして、潜水艇はクルーザーから遠隔操作をしているので、途中で海面へ浮上をさせて、別の者が乗り込む事も出来ない。九時五〇分から一〇時十五分に引き上げるまで、潜水艇はずっと海の中に沈んでいた。どう考えても不可能に思える殺人。最高じゃろ」

「ええ、と言うか、スゴイ！」

「何がじゃ？」

「ゴンゾーが、物語をそこまで覚えている事もスゴイけど、昔読んだ本の中の、日付とか、時刻とか、全部記憶をしているところが……」

「ガッハハハ、わしはプロじゃよ」

僕は、何のプロなのかを聞いてみたかったが、モニターの向こう側で、リアルに『ガッハハハ』と笑っている顔も見てみたかった。