レーザートラップ

第14話 レーザートラップ

『プレイヤーの皆様。ドラコの玩具箱第三ブロック。レーザートラップへとようこそ』


 新たなゲームルームは、これまでで一番特殊な構造をしていた。参加者達の集まる入口付近は開けているのだが、そこから先は左右を壁に挟まれた幅四メートル程の狭い道が百メートル続き、ゴール地点から先はまた開けた空間になっている。さながら施設と施設とを繋ぐ渡り廊下のようだ。


『ゲームのルールをご説明いたします。あちらをご覧ください』


 ドラコに指示され、全員の視線が渡り廊下へと向く。すると白一色だった壁から畳返しのように複数の黒いレーザポインターのような装置が出現し、そこから赤いレーザーが射出された。可動式の装置は上下左右に滑らかに動き、様々な方向へとレーザーを伸ばしている。


『挑戦者には、あの赤いレーザーの編を掻い潜って、反対側のゴールを目指して頂きます。レーザーそのものに攻撃力はなく、センサーとしての役割を持っています。触れたからといて即座にゲームオーバーとなるわけではありませんが、大きなペナルティが発生する点にはご注意ください』


 ドラコが指を鳴らしたのを合図に、廊下の先の床面が開き、中から巨大なガトリング砲がせり出してきた。射線は廊下と、その先の挑戦者たちを見据えている。


『センサーに触れると信号が送られ、三秒後には全自動でガトリング砲が掃射を開始いたします。生きてゴールにさえ到達すればゲームはクリアですが、あの限られた空間でガトリング砲の攻撃を回避するというのは現実的なプランではございませんので、レーザーの回避を強くお勧めいたします。なお、流れ弾で負傷しても当方は責任を負いかねますので、プレイヤー以外の皆様は、掃射が始まりましたら速やかに射線上から退避願います』


 ガトリング砲など目にするのは初めてだが、誰もがそれが本物であることは疑わなかった。大規模な設備や人間をドロドロに溶かす溶解液を用意しているような運営だ。実弾ぐらいじゃ驚かない程度には、誰もが感覚が麻痺してきている。


『それでは皆様お待ちかねの、ファーストペンギンルーレットのお時間です!』


 ゲームも第三ブロックを迎え、ファーストペンギンルーレットに当選する確率も六分の一にまで上昇している。参加者達の緊張感も自然と高まっていた。そういった感情の機微まで計算しているのなら、ドラコはエンターテイナーとしてすこぶる優秀だ。


『ルーレットの結果、レーザートラップでファーストペンギンを務める勇気あるプレイヤーは、綾取冴子様に決定いたしました』


 画面いっぱいに映し出された冴子に動揺は見られず、集中モードの凛として表情を浮かべている。いずれ自分の番は巡ってくるのだからそれを憂いても仕方がない。士郎との情報共有に基づけば、今回自分がファーストペンギンに選ばれたことには大きな意味がある。このゲームには必ず自身の名前から連想される綾取りの要素が含まれるはずだ。冷静に見極めなければ、先のゲームで犠牲となった二人の二の舞だ。


「積木くん。これを預かっていてもらえる」

「賢明な判断だと思います」


 冴子は着ていたレザーのライダースジャケットを士郎に手渡し、ピッチリとしたカットソー姿になった。レザーを着ていては動きにくいし、レーザーは凶器ではなくセンサーだ。ならば衣服の面積を減らして少しでも被弾のリスクを下げるべきだろう。髪形がショートなのも今回は優位に働きそうだ。


「頑張ってくださいね。綾取さんが失敗したら、最悪ここで全員詰むこともあり得ますから」

「挑戦前に余計なプレッシャーかけないでもらえる」


 士郎の発言は決して大袈裟ではない。レーザーを回避する今回のデスゲームは、体格の関係で女性の方が圧倒的に有利だ。しかも男性陣は平均よりも長身や体格の良い者が多く、それだけレーザーと接触するリスクが高い。女性なら冴子よりも小柄な輪花もいるが、冴子が失敗してしまうようなデスゲームを、輪花がクリアするようなビジョンは見えない。いずれにせよ、今回のデスゲームに冴子以上の適任はいないのだ。


「そのジャケットが形見にならように善処するわ」


 余裕たっぷりに皮肉を言うと、冴子はゲームが開始される廊下へと近づいていく。


「綾取さん。大丈夫でしょうか?」


 冴子が士郎の隣からいなくなったのをこれ幸いと、士郎のパーカーを羽織った輪花がそのポジションへと治まった。


「頭の良い人だし、デスゲームクリエーターとしての経験値もある。そう簡単にはやられないですよ」

「綾取さんのこと、高く評価してるんですね」


 士郎の興味を引く冴子への対抗意識なのか、輪花の声色はどことなくつまらなそうだ。


「デスゲームなんてものに入り浸っていると、誰が生き残りそうか何となく分かってくるものですよ」


 半分は本当で半分は嘘。確かにデスゲームに適性のある人間の見分けはある程度つくが、それとゲームをクリア出来るかどうかの有無はまた別問題。攻略法を思いついても身体能力が追いつかないこともままあるし、その逆もまたしかりだ。


「……私は生き残れますか?」


 不安気に声を震わせながら、輪花が士郎へ肩を寄せた。


「もちろん。蘆木さんは生き残るタイプのプレイヤーだと思います」


 その言葉を聞いた瞬間、勇気が湧いてきたのか輪花の表情が明るくなる。嘘も方便。今後のためにも、生き残れないタイプのプレイヤーにもモチベーションは維持してもらないといけない。

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