第4話 旅立ちに向けて

 その日、俺たち見回り組は、六つの班でスライムや大ネズミ、アーマードキャタピラーなどを合計五十六匹退治した。一日の退治数としては多い方である。やはりスライムの大量発生があったからだ。その原因は、北側の山の斜面にできた「魔泉」だった。魔泉は地中をめぐる魔素の流れが何かの原因で分かれて、地上に吹き出したものらしい。


 魔泉から吹き出す魔素は、やがて周囲の鉱物や生物に吸収され続けて結晶を形成する。その結晶を体内に取り込んだり、体内に結晶が生成された生物は〈魔物〉へと変異する。スライムは魔石を体内に生成したアメーバが変異したものだ。


 魔泉は一応岩で塞いだが、一時的な処理に過ぎない。いずれ大きな街から、魔法使いを雇って来てもらい、結界石で封印してもらう必要があるとのことだ。そして、その魔泉はあと何十年後か、あるいは何百年後かにダンジョンになるらしい。魔泉が通り道の内部を迷宮化し、一番深い所に魔素が結晶化した魔石=コアが形成されたらダンジョンの完成だ。


 ダンジョンはうまく管理すれば、お金を生み出してくれる貴重な存在だ。まあ、あとの世代がうまくやってくれることを期待しよう。



「ほら、これは今日のトーマの取り分だ」

 獲物の魔石は班ごとの退治数に応じて分配される。四班は大ネズミとアーマードキャタピラーを二十二匹退治した。班の六人で分けると一人三個と余りが四個になる。

 ダンさんは、その余った分を全部俺に追加してくれた。


「え? こんなにもらっていいの?」

「ああ、今日は、いや今日もだな、トーマのお陰でたくさんの魔物を退治できた。そいつは正当な報酬だよ」

「ああ、遠慮すんな、トーマ。おかげで他の班の連中よりずいぶん儲けさせてもらっているからな」

「トーマ、また頼むぜ」


 班の他の人たちも、俺が余った分をもらうのを文句を言わずに認めてくれた。

「ありがとう。じゃあ、遠慮なくもらっておくよ。じゃあ、また明日」


 俺は班の人たちに手を振って、集会所を出て行った。



『魔石もずいぶんと貯まりましたね』

(うん……目標額まで、あと一週間もあれば貯まるな)

『いよいよですね』

(ああ、いよいよだ。予定通り、十歳で第二の人生のスタートだ)


 村から約三百メートルほど離れた小高い丘に小さな林あり、その先に、村の命綱とも言うべき湖がある。周囲の山々からの湧き水が溜まった湖で、その水は用水路を通って村の畑を潤し、家畜の飲み水にもなっている。

 俺の秘密の隠れ家あるのも、この湖の側にある林の中だ。大木の枝の間に板を組み合わせて作った小さな小屋。大風が吹けば吹き飛んでしまうような粗末な小屋だったが、幸い、作ってから三年、まだ壊れずにすんでいる。


 入口を含む三面は板壁で、もう一面は大木がそのまま壁になっている。その大木の壁には大きな洞(うろ)が口を開けている。俺はここに自分の宝物を隠していた。


 ロープで吊り下げた麻袋を引き上げ、中身を床に取り出して並べる。錆びて捨てられたナイフや美しい小石などのがらくたに混じって、大小さまざまな魔石が大量に積み重なっている。三年間こつこつと貯めてきた成果だ。

 魔石の価格は多少の変動はあるが、ここにある分を売れば三十万ベル近くにはなるはずだ。目標はほぼ達成した。


 俺は一週間後、この村を出て旅に出る。とりあえず近くの街まで行って、冒険者登録をし、装備を整える。ここまでが今の段階での計画だ。それから先は、たぶん冒険者の仕事をしながらなんとか食っていければいいと思っている。


(っ!)

 そんなことを考えていたら、索敵のスキルに反応があった。湖の近くだ。

『マスター、気づきましたか?』

(ああ、三匹、いや四匹か。大きいな)


 俺は、急いで魔石を麻袋に戻し、洞の中に吊り下げた。そして、音を立てないように小屋から出て大木の根元に身を潜めた。


「オークだな……何でこんな所に……」

 この湖は村の共有地であり、一応魔物避けの結界石が周囲四か所に置いてある。普通なら近づけないはずなのだ。


『結界が十分機能していないようです。魔力切れか、もしくは何者かが結界石を持ち去ったか、そんなところでしょうか。それで、どうしますか? 討伐しますか?』


(……ナビさんや、中身はともかく、俺はまだ十歳の子供だぞ。オーク四匹を相手にできると思うか?)


『はい、できると思います』


(は? 簡単に言ってくれるね)


『ご自分でオークたちを鑑定された方が早いと思いますが』


(……あ……うん、できるな……)

 ナビに言われて鑑定のスキルを使った俺は、納得した。

 ちなみに、一番強い個体のステータスがこれである。


***

【名前】 ・・・    Lv 18

【種族】オーク(亜人族)【体力】 135

【性別】 ♂      【物理力】113

【年齢】 25      【魔力】 20

【ギフト】 ・・・   【知力】 33

【称号】 ・・・    【敏捷性】86

            【器用さ】33

【スキル】       【運】  50

〈強化系〉憤怒Rnk4

〈攻撃系〉薙ぎ払いRnk2 強打Rnk3

〈防御系〉 ・・・

〈その他〉生殖Rnk2



 うん、アントとさほど変わらないな。アントはオークだったのか……。

 まあ、冗談はさておき、油断さえしなければ、一匹ずつ確実に仕留めるやり方で殲滅できそうだ。


「それにしても、あいつら俺よりレベルが高いのに、なんでステータスは俺より低いんだ?」


『マスター、そろそろご自分が特別であることを認識された方がよろしいかと……』


(ん、ああ、まあ、確かに俺のステータスの上がり具合はおかしいと思うが……理由が分からん)


『異世界からの転生ということで、補正が掛かっていると思われます』


(ああ、つまりラノベの異世界ものとかでよくある〈神の加護〉ってやつか?)


『はい。マスターの場合はむしろ〈神の謝罪〉と言った方が良いかもしれません』


(は? 謝罪?……)

 ナビの口からまた突拍子もない言葉が出てきたのであった。

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