第6話 モンスター

剣を手に入れた俺は次やることをすぐに決めた。それは勿論、モンスターの討伐。

だから、そのためにまず街の外に向かった。


「さてと、ここが街の外か」


街の外には草原が広がっていた。葉っぱが風に吹かれて揺れている。見渡す限りの草原に数体のモンスターとそれを囲む数人の人がいる。


ここは初心者の狩場。


高レベルのモンスターはすぐに増援を呼ばれないように街から遠くを住処とする。だから、ここには強いモンスターは現れず、初心者に優しい狩場となっている。とさっき門番のおじさんがそう教えてくれた。


「この世界に来て初めてのモンスターとの戦闘。どうすればいいかわからないんだよな」


弱いモンスターしかいないとは言っても戦い方を知らないので勝てるかどうかわからない。モンスターに俺の身体能力で勝てるのか。


「取り敢えず、近くのモンスターと戦って無理そうだったら街に逃げるか」


物は試しだと俺は近くにいた角の大きな鹿のところまで行く。鹿は足元に生えた草を食べているだけで、攻撃してくることはなかった。


「こいつは本当にモンスターなのか?」


正直、動物にしか見えない。攻撃もしてこないので、モンスターと言えるのかわからない。モンスターではなく動物だったら殺してはいけなさそうだし。


悩んだ俺は辺りを見渡す。50mくらい先に街の方に向けて歩いている人達がいる。


「あの人達に聞くか」


俺はその人達の元に駆け寄る。男3人、女1人の武器を持った人達。4人とも年齢は20代後半くらいだろう。


「あの、すみません」

「なんだ?」


俺が話しかけると真ん中にいた一番体付きが良い大きな男は俺を服装、装備を見て、


「初心者か?」


と聞いてくる。俺の装備は剣一本。鎧などの防具一切なし。見てわかる初心者装備。


「はい。今から狩りを始めようかなと思っているのですが、そこら辺にいる動物は倒しても問題ないのですか?」


鹿を指差しそう聞く。


「ああ、大丈夫だ。《ラージホーン》は普段は大人しいが、馬車など大きな物を前にするとあの角で突進してくることもあるから、討伐対象になってる。だから、倒しても問題ない」

「そうですか」


ラージホーンか。それ以外、特徴的な部分はないからその名になったのかな。それにしても、あれもモンスターか。どの生物が動物かモンスターか分かりづらい。


「お前、その装備であれを倒すのか?」

「はい。駄目ですかね?」


大人しいモンスターなので剣で一撃だと思ったのだが、やはり防具なしは危険か。しかし、防具を買う金はないし、できるならば今、モンスターを倒しておきたい。


「いや、駄目ではないけどもう少し防具を装備しといた方がいいと思うんだが」

「俺、お金ないんですよね」


ポケットに入っているのはスマホだけ。財布などは全部鞄の中なので、こちらの世界には持って来れてない。売れるものなど今持ち合わせてない。


「そうか。金を稼いでからと言いたいけど、それをする為にここに来たんだよな」


と男は悩む。少し考えていたがすぐに俺の肩に手を置いて、


「よし、なら、初めの数体は俺が見てやる」


と言った。俺は驚いて


「えっ、いいんですか?」


と聞き返す。


隣で見守ってもらえるだけでもかなりありがたい。一人だと命の危険があってもどうすることもできないし、万が一に備えられない。だが、現役の剣士がいてくれればその心配は殆どなくなり、安心できる。


「時間はあるし、こうやって話したお前に何かあったら気分がよくないからな」


優しい人だな。感謝しかない。


「ありがとうございます」


俺はその場で頭を下げる。


「というわけだ。お前らは先に帰ってギルドに依頼達成の報告をしといてくれ」


と男は仲間にそう言うと、


「ちゃんと教えろよ」


と男の仲間は念を押しながら男の元から去っていった。仲間と別れた男はついてこいと、俺の前を歩き出す。モンスターの元に辿り着くまでに僅かながら時間があったのでそこで男が名を名乗った。


「俺はドゼル・ガントレットだ。お前は?」

「俺は伊崎和佐です」

「イザキ・カズサか。あまり聞かない名前だな。服装も見ない服装だが遠くから来たのか?」


やはりこの世界だと俺の服は目立つようだ。そんなに気にすることじゃないけど。


「はい。かなり遠くから」


どうせこの制服のまま、出歩くのは服を買うまでだ。明日にはこの世界の服を身に纏っているだろう。


変に気を使われるのは嫌なので勇者であることは黙っておくか。


俺はドゼルに連れられてさっき、倒してもいいか悩んでいた草を食べているラージホーンの側に立つ。ドゼルの歩くスピードは速すぎて走らないとついて行けなかった。そのせいで鹿の前に立った時にはもう息が少し上がっていた。


これがレベルの差か。

レベルの差を感じてしまう。


疲れて軽く息を整えている俺に構わず、ドゼルは指導を始める。


「よし、じゃあ、剣を構えろ」


一回深呼吸した俺は腰の鞘から剣を取り出すと片手で持って構える。構え方は漫画のキャラクターのものを真似ただけだ。片手で持った剣はものすごくしっくりきて、重さも丁度良く、初めて剣を握ったのにも関わらずなんの違和感もなかった。


「さまになっているな。剣を握ったのは今日が初めてじゃないのか?」

「いえ、今日が初めてですよ」

「その割には様になっているが。ってか、剣の使い方もわからないのに、モンスターと戦おうとしているのか。ちょっと待っとけ」


ドゼルはそう言いながら、ラージホーンの前に立つ。俺は言われた通り、剣を構えたままその場で突っ立っていた。


「何も知らないなら、まずは俺の動きを見ておけ」


ドゼルは背中に装備していた重そうな大剣を振りかざし、両手で持って構える。


ラージホーンはドゼルが剣を向けてきたことでドゼルが敵だと認識する。そして、突進してくる。そんなラージホーンに臆することなく、大剣を構えたドゼルも走り出す。ドゼルは避けて攻撃するかと思われたがそんなことはせずにラージホーンの大きな角を、構えていた大剣を横にして押さえつける。


「えっ?」


困惑している。あれを止めるの? 俺にもできることを教えてくれてるんじゃなかったのか?


ラージホーンの突進はドゼルを押し負け、それ以上進むことはなかった。逆にドゼルはそのまま、少しずつラージホーンを押し返していく。そして、


「ウォォォォォォォォ。」


と叫びながらラージホーンを吹き飛ばした。


俺は何を見せられているのかわからずそこで考えるのをやめた。


吹き飛ばされたラージホーンは倒れ込む。起きあがろうとするがつかさず、近寄って、ラージホーンの横腹に大剣を突き刺した。その近づく速さも到底、俺が真似できるようなものではなかった。


ドゼルはしゃがんで何かを抉り取ると、ふぅっと、汗を拭くような素振りを見せながらこちらに戻ってくる。


「見てたか?今のが剣でのモンスターとの戦い方だ。あれをやればここら辺のモンスターは倒せる」

「あ、はい」


困惑しながら適当に返事をする。


今のは絶対に剣を使った正攻法の戦い方じゃない。ただのゴリ押し。力を使っただけ。今のを見て何かを学んだっていう奴がいたなら、そいつはたぶん脳筋だよ。


「じゃあ、次はイザキがやってみてくれ」


ドゼルは剣をしまい笑顔でそう言ってくる。


今のをやれと言っているのか、それもと普通にモンスターと戦えばいいのか。前者は間違いなくできない。なら、後者をやるしかない。


「やってきます」


俺は他のラージホーンを見つけると剣を鞘から抜いたまま走り出す。


制服なのでかなり動きづらいが、そこは気にしない。


ラージホーンは俺が剣を持ち近づいていることに気づくと、さっき見たように突進する体勢をとる。ラージホーンの目の前で止まってから落ち着いて戦おうと思ったが、このスピードに乗っていた方が良さそうだと判断して、そのまま走り続ける。


ラージホーンが突進してきて俺の目の前に迫る。


さて、どうするか。あれを受け止めるか?

いやいや、無理。押さえされなかったら吹き飛ばされて怪我するのは確定。


危ないから避けよ。


そう決心して俺は避けるために後ろ足を前に出さずに前足の後ろにして、身体を捻り、そのまま一回転して、ラージホーンを避ける。俺はその回転の力を利用して、横を通り過ぎていくラージホーンに、剣を両手で持って斬り込む。剣はラージホーンに吸い込まれるようにラージホーンを突き刺し、斬りさいた。

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