第3話 国王とLevel

俺は気がつくと冷たい地面に横にたわっていた。


目を開け上体を起こして周りの様子を確認する。そこにいたのは俺を囲むように全身に鎧を纏った洋風の騎士。


ここは...?


平らな岩が隙間なく積まれており、表面は平滑に仕上げられるが装飾はない。現代の日本ではあまり見ない作り。


そして物語で見た鎧を着た騎士。今どきそんな格好をした人はコスプレ以外に存在しない。


そこから推測するのは簡単だ。


あの光、異世界召喚は本物。

ここは日本じゃなく異世界。


そして、2年前のあれも異世界召喚。


そう理解した瞬間、涙が溢れそうになる。

千夏に会えるかもしれない。


「やっと来れたんだ」


そう小さく呟く。


少しだけ考えを整理し俺は立ち上がり、一度深呼吸をして一旦冷静になる。


安心するのはまだ早い。


ここがもしかしたら異世界ではない可能性と異世界であっても俺の求めていた異世界ではない可能性。そして考えたくはないが千夏がもうすでにこの世界にはいない可能性。


最悪の可能性まで頭で考慮し、気を引き締めて今、手に入っている情報を整理する。


この世界は俺の知る世界ではなく騎士のいる世界。飛ばされたのは俺だけか? いや、小春がいた筈だ!


そう考えて小春のことを思い出す。得られた情報を整理するのに思考をさいたことで小春のことまで頭が回らなかった。


「小春は!」


俺は首を回して小春を探し、近くで倒れているのを発見する。丁度、後ろにいた為、最初来た時点で周りを見た時に視界に入っていなかったらしい。


小春を探すついでに騎士達の姿も確認したが騎士の俺たちを見ているだけで動くことはなく今のところは無害そうだ。


今も一歩動いたが全く動くことはなかった。なので気にせず俺は小春のすぐそばに移動する。


俺はその場でしゃがんで小春の安否を確認する。


倒れている小春を見て、俺のせいで魔法陣に変化が起きて異世界転移に失敗していないか心配になったが、顔を近づけ見るとちゃんと息はあったので一安心する。


俺と同様、意識が飛んでいるだけなのですぐに目を覚ますだろう。


「大丈夫みたいだな」


俺がそう呟くとそれを聞いてか、意識を取り戻した小春が目を覚ます。


「ん」


徐々に目が開かれる。


「えっ」


目を覚ました小春は俺の顔を見て一瞬止まってから、顔を赤く染めて咄嗟に上体を起こす。


息を確認するのに顔を近づけ過ぎた。俺は小春の顔を間近で見ていたので、もろに小春の顔とぶつかる。


「うわ」

「きゃ」


しゃがんでいた俺は驚きと痛みと衝撃で後ろに倒れて尻餅をつく。


「いった」


俺はぶつかった鼻を押さえる。小春も顔を抑えていたが俺の顔を見ると咄嗟に俺と距離をとる。


「せ、せ、先輩。寝ている私に何しようとしてたんですか!」


興奮して周りが見えていないようで大分動揺している。


「小春が倒れてたから死んでないか確認しただけだよ」

「ほ、本当ですか!?」


あれ、俺ってそんなに信用なかったか?


「本当だって。疑ってるならまず周りを見てみろ。今の俺たちがどんな状況なのか少しはわかるから」


小春はその場で今いる部屋をぐるっと一周見渡す。そして、背後にいる騎士を確認すると


「なんなんですか!?この人たち」


と俺の近くまで走って戻ってきて俺の後ろに隠れる。


「ここは何処なんですか?」


見たことない部屋、周りを囲む騎士。それを見て自分たち小春はすぐにここが自分たちがいた街ではないことを察する。


「俺たちがいた世界とは全く違う異世界。詳しくはわからないけど、それだけは確かだ」


俺はそう言いながら立ち、騎士達の真ん中にどっしりと座っている髭をはやし王冠を被った男を見上げる。


多分、あいつが国王だ。


「詳しくはあいつが教えてくれるさ」


俺が国王(仮)の方を見ると小春もそれに釣られて国王(仮)を見る。


あいつと言った瞬間に今まで微塵も動くことはなかった騎士達が一斉に構える。


あいつが立場が偉いことは何となくわかっている。だがそんなの関係ない。目の前の人物が国王だったとしても俺にとっては誘拐犯だ。敬意など払うわけがない。


あいつを敬ってはこちらが下であると自分で言っていることになり、一方的に従うことになる。だから、本当に国王だとしてもあくまでも対等であるとそう思わせなければいけない。


国王(仮)は攻撃態勢に入った右の騎士の前に手を伸ばして警戒を解くように仕向ける。


そして、俺たち二人が国王(仮)の方に目線がいったことで国王(仮)が口を開く。


「ユクシルへようこそ。勇者様」


と。


何がようこそだ。強制的に連れてきたくせに。


と心の中で文句を言うが、そんなことは今はどうでもいい。


今必要なのは情報。そして今でた単語。ユクシル。それがこの世界の名前なのか国の名前なのかわからない。だが、どちらにせよ聞いたことのない地名であることに変わりはない。


「ユクシル?」


小春も勿論、聞いたことのない名前に困惑していた。それを見て国王(仮)は説明を入れる。


「ユクシルはこの国の名前だ。覚えて置いてくれるとありがたい」


国の名前の方か。国王ならば自分の国の名を先に教えるのは当然か。


「ユクシルか。国の名前は覚えた。次は、お前の名前だ。教えろ」


話している相手の名前、存在くらいはちゃんと確定したい。というか、そろそろ(仮)を外したい。


「私はノージェス・ユクシル。この国の王だ。貴様らの名はなんだ?」


国王であっていたらしい。これで(仮)が取れる。(仮)を頭の中で取っ払った俺は名前を聞かれたので、


「俺の名は伊崎和佐だ」


と偽名を使わずに本名を名乗る。


「私は木南小春です」


と俺に続いて小春が名乗る。俺たちの名を聞いた国王は俺たちの名前を一度呟いて覚えようとする。俺はそんな国王にそのまま質問を始める。


俺の必要な情報は全て手に入れておきたいので話をこちらから振って話の主導権を握る。


「なんで俺たちを呼んだんだ?」


異世界召喚させられた理由、まずはそれを確かめる。


「それは魔王を倒して魔族から人間の世界を取り戻すためだ。そして魔族に対抗する戦力として勇者である貴方達を呼んだ」


異世界召喚といえば、魔法討伐。異世界召喚のテンプレだ。


「そうか。だが、俺たちは戦いのない世界にいた。だから、戦えと言われてもそんなことできないし、戦い方もわからない」


だからと言って今すぐに元いた世界に返せ。とは言わない。


小春には悪いけど千夏を探したい。


もし帰れるとしたら小春を先に返して俺は千夏を見つけてから帰る。これは譲れない。


俺がそう返すとそれを予想していたのか国王は


「それに関しては心配ない。この世界にはスキルというものがあり、それによって戦えない人でも戦うことができるようになる」


と答える。


スキル。この世界に来る魔法陣の説明に書かれていた向こうの世界でこの世界を知る数少ないの手がかり。


「スキルはどうすればわかるんだ?」


今、俺は自分のスキルすら把握していない。どんなスキルであるか確かめたい。


「それは簡単だ。ステイタスと言えば、自身の能力すべてが表示される。その中にスキルは存在する」


「ステイタス」


そう呟くと脳内に文字が浮かび上がる。魔法陣で体感したものと同じ感覚。


─────────────────────


伊崎和佐  Lv.1

固有スキル ???

スキル なし


身体能力 D

魔力 E


魔法熟練度

使用できる魔法なし


─────────────────────


頭の中の文字を読み取る。異世界召喚が起きた瞬間の文字と同じような感じだが、今回は頭痛がなくはっきりと読める。


これが俺のステイタスか。書いてある情報は身体能力と魔力。多分これはLv.UPによって上がっていく仕組み。


魔法に関しては使える魔法がないのでまだ何ができるかわからないが魔力によって威力が上がったり、精度が上がったりするのだろう。魔法の取得方法は早めに知っておきたいな。


あとは、固有スキルの???。スキルが見れないようになっている。これは仕様か?


スキルを確認しようとしていると


「自分のスキル確認できましたか?」


と隣にいる小春が聞いてくる。小春のステイタスは見えないので俺と同じかどうか少し気になる。


「ああ。確認できたよ。小春はどんな感じだった?」


「えっとですね、


──────────────────────


木南 小春   Lv.1

固有スキル 勇者

スキル なし


身体能力 E

魔力 D


Levelスキル

なし


魔法熟練度

使用できる魔法なし


スキル説明

 勇者

レギオルクスの生物を倒した時に貰える経験値を大幅に増やす。武器を装備した際に身体能力、魔力を一段階上げる。Lv.上昇時に普通よりも少しだけ増えるステイタスが高くなる。


──────────────────────


って書いてあります。先輩はどうでしたか?」


小春のステイタスは俺のと違いかなりの情報量が多い。俺にないスキル、勇者。そこから得られる情報はこの世界のLv.システムをある程度詳しく示している。


まず、経験値があること。それは大体わかっていたがその経験値を貰えるものがレギオルクスの(今はまだ予想だがこの世界の名前だと思う)生物を殺すことで貰えるという点についてはかなり有用な情報だ。


戦うこと戦いの経験そのものではなく、殺すことで経験値を貰うタイプ。この場合どれだけの生物を殺せるかが大事になってくる。


それにステイタス、Lv.上昇時にステイタスが少し上昇することから、身体能力と魔力はDの中にも詳細な数値があるということがわかる。


それに身体能力と魔量はLv.1の場合固定だと思ったがそうでもないらしい。個体差が存在する。


俺たちの世界には魔法がないため、俺がEであることに納得できるが、小春がDだということはよくわからない。ただ使えないだけで潜在能力として魔力は向こうの世界でもあったのかもしれない。


「俺も同じ感じ、違うとしたら、俺は身体能力がDで魔力がEだったってところだけかな」


俺が勇者のスキルを持たないってことはやっぱり俺は小春のおまけでこの世界に飛ばされたってことだ。


俺が勇者のスキルを持っていないことは、周りの人間にバレると面倒くさそうなので隠しておく。勇者のスキル持ちを呼んだはずなのに持っていないとなるとどんな風に扱われるかわからない。


「先輩は私よりも運動神経いいのでそれでDなんですかね?」


俺は向こうの世界で普通より少しいいくらいの身体能力だった。走りに関しては体育祭のリレーの選手にはなれるくらい。普通より上だとDになるの可能性が高い。


「そうかもな」


俺たちはお互いにステイタスを確認し終えて、前を向く。


そんな俺たちを見て国王は


「確認できたようだな。君たちにはそのスキルを使い、レベルを上げ、魔王を倒してもらう」


そう命じた。

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