第59話 帰還
王子だった物との決着がついた後、俺はみんなの体調について確認をした。王子だった物の傀儡になった事で体に何か変化が起きていないかと考えたけれど、これといった変化はなく、あの光の雨が色々浄化してくれたようだった。
「……さて、やる事は全部済んだし、そろそろ帰るか。じゃあな、お前た──」
「待って!」
ガーデンコントローラーを使うために取りに向かおうとした俺をミラベルが制止する。
「……なんだよ。助けはしたけど、俺はお前達と話す事なんてないぞ」
「……わかってる。理由があったとはいえ、ゴドフリーを裏切ってあんな場所まで追いやったわけだから、ゴドフリーだって私達をいつまでも許せないと思う」
「……そうだな。あの時のゴドフリーの顔、今でも鮮明に思い出せるよ。怒っても良いのに声を荒げずにただ哀しそうにしてたあの顔は本当に忘れられない」
カルヴィンの言葉にスティーブ達も頷いた。
「……同意」
「お前は俺達の事を本当に大切に思ってくれていたからな。お前がいなきゃ、俺やスティーブはいつまでも山賊や盗賊を続けて、いつかは取っ捕まるだけの人生になってたからな」
「私だってそうです。ゴドフリーさん達が助けてくださったから、我が国に平和が訪れたというのに……」
「ゴドフリーさん、許してくださいとは言いません。けれど、自己満足だったとしても言わせてください。本当に申し訳ありませんでした」
そのモーリーンの言葉に続くようにカルヴィンやミラベルもそれぞれの言葉で俺に謝罪をし、それを聞いて俺は小さくため息をついた。
「……謝られたってもう遅いんだよ」
「そう、よね……」
「とりあえず、俺はこの世界においての勇者は辞めたから、もう魔王討伐の件からは降りる。討伐したければ、お前達で勝手にやってくれ」
「……わかった」
「お前にはもう勇者として支えたい相手がいるんだからな」
「ああ。ソイツ、ノドカのおかげで俺はこの破邪の刀を手に入れたし、あの王子だって倒せた。それに、あの僻地も村一つが出来るくらいに開拓も出来て、ここまで生きてくる事も出来たんだ。ノドカには感謝してもしきれないし、恋人として一生を懸けて守っていくつもりだ」
その言葉を聞いて、ミラベルが辛そうな顔をした。その姿からミラベルがさっきショックを受けた理由を何となく悟ったが、俺はそれを口には出さず、そのまま話を続けた。
「だから、俺はノドカやマオークのみんなの勇者として生きていく。お前達が勇者の力を必要としても俺は手を貸さないし、今度は助けない」
「…………」
「……ただ、魔王がノドカやマオークのみんなに手を出そうとしたらその限りじゃない。その時は、仕方ないからお前達とまた協力して戦う事も考えなくはない」
「え……」
「お前達が謝ってくれたからな。謝らなかったら、俺が勝手に魔王を倒すだけだったけど、その時だけは勇者としてお前達とまた戦わなくはない。ノドカだってそれを望んでるだろうからな」
「ゴドフリー……お前にとってそのノドカっていう女性はとても大切な存在なんだな」
カルヴィンの言葉に俺は頷く。
「もちろんだ。色々手助けをしてくれたし、俺が知らない事も教えてくれた恩がある。それに、ノドカだって色々悩みや辛い事はあるようだし、俺はそんなノドカの事を助けたい。勇者として恋人として、そして一人の男として」
「そうか……それじゃあそのノドカっていう女性に一つだけ伝えてくれるか?」
「……なんだ?」
俺が聞くと、カルヴィンは静かに口を開いた。
「顔も知らない俺達の事も助けてくれて本当にありがとうって」
「その人からすれば、私達は最愛の人であるゴドフリーを裏切った悪人なのにそれでもあの王子から助けてくれたり色々考えたりしてくれたみたいだからね」
「ゴドフリーさんから見ても女神様からもしれませんが、私達にとっても女神様のような存在だと思ってます」
「本当は面と向かって礼を言いたいが……俺達には合わせる顔もねぇしな」
「……そうだな」
「なので、代わりに伝えて頂きたいのです。私達を助けてくださった事への感謝とゴドフリーさんを裏切ってしまった事への謝罪を」
そう言うカルヴィン達の目に迷いはなく、心からそう思っている事がハッキリとわかり、俺は小さくため息をついた。
「……わかった。仕方ないから伝えとく」
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ今度こそ俺は行くぞ」
「ああ。ゴドフリー、改めて言うけど、裏切って本当にすまなかった。そして助けてくれて本当にありがとう」
その言葉に続くようにミラベル達も言う中、俺は近くに置かれていたガーデンコントローラーを手に取り、神庭に出発するを選択した。
そして神庭に戻ってきてみると、そこには女神様の他にイサミとしての姿になっているノドカが立っており、結界を張ってくれていたタケハヤスサノオノミコト達の姿もあった。
「みんな……」
「ゴドフリーさん、おかえりなさいです」
「ゴドフリー君、おかえりなさい」
「……ああ、ただいま」
ようやく帰ってこられた達成感、そして帰りを待っていてくれる人がいる嬉しさを感じながら俺は微笑んで答えた。
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