第46話 勇美の悩み

「ふう……今日も色々あったなぁ」



 夜、私は自室で独り言ちていた。今日も配信は自粛しているためとても静かな夜であり、始めてからずっと続けてきていた事をやらないというのは不思議な感覚であり、どこか寂しい感じもした。



「でも、仕方ないよね。配信もしたいところだけど、今は神野和わたしを救うために頑張る時間だから」



 そう言いながら私は机の上に視線を向ける。机の上には日中に調べた弁護士さんの名前や電話番号が並んでおり、その内の一つには赤い丸がついていた。



「これで弁護士さんは確保出来た。後は話を進めながら証拠を集めて、程よいタイミングでもしかしたら最後になるかもしれない配信をするだけ。それで良いはずなんだけど……」



 一人呟く中、私の中に小さな穴がぽっかりと空いているかのような喪失感を味わっていた。



「……やっぱり辞めた方がいいのかな、VTuber」



 そう思ったのは、呼ばれて行った学校での出来事がきっかけだった。お父さんが帰ってきた後、私達はその足で学校へと向かい、教室で担任の先生と話をした。


 話した内容は神野和についての事実確認であり、先生が言うにはまだ校内では話題にはなっていないものの、私のクラスでは色々な憶測が飛び交っているようで、最近私と話をしている岩永さんや大和さん、そして秋緋も先生に呼ばれて話を聞かれたようだった。


 岩永さんや大和さんはただの一視聴者としての意見を述べたようだったけれど、秋緋はどうやらさも友達として心配するふりをしながら私にとって不利になりそうな嘘ばかりを並べたようで、それを聞いた私は驚くと同時に悲しさと怒りで涙を流しそうだった。


 幸いにも学校では授業態度なども悪くなかった上におとなしく過ごしていた事で先生は秋緋の言う事は真に受けていなかったらしく、何かあった時には力になるとは言ってくれた。


 けれど、トラブルの原因になるなら一度辞めてみるのもありなんじゃないかとも言っており、その言葉が私の中で燻っていたのだった。



「……私の本音としては辞めたくない。まだ私の求めるようなVTuberとしての姿にはなれていないし、まだまだ続けたいと思うから。でも、続ける以上は今回みたいなトラブルが出てくる事だって当然ある。それでもしも今度こそお母さん達が被害を受けたら……」



 それが私にとって一番怖い事だ。もちろん、新神のみんなやファンクラブのみんな、そしてゴドフリー君やティアさんだって大切だ。でも、やっぱりお母さん達が私の行いのせいで被害を受ける事が本当に怖いのだ。



「お母さんもそうだったけど、お父さんも続けて欲しいとは思っても最終的な判断は私に任せると言ってくれた。だから、私が続けると言えば続ける事は出来る。でも、こんな迷ってる中で続けるなんてとても……」



 目頭が熱くなり、机の上の紙に涙が一粒落ちてシミを作る。迷ってる中で続けるなんて新神のみんなにも失礼だと思うし、私だってこんな気持ちのままで続けられる自信はない。だから、答えとしては続けないで決まっているような物だった。



「でも、こんな形で辞めたくない。せっかくやりたいと思って始めて、色々苦労しながらも続けてきた事なのに秋緋のつまらない考えなんかがきっかけで辞めるなんてバカバカしいし、そんなの私自身が望んでない。こんな終わり方なんて……!」



 続けない方が良いとは思っていても続けたいという気持ちが私を急き立てる。そんな二つの思いが私の中で戦い、それが私の事を苦しめるのだ。



「一体どうしたら……」



 呟いていたその時、机の上に置いていたガーデンコントローラーが目に入ってきた。



「ガーデンコントローラー……このまま一人で迷ってても仕方ないし、ちょっとゴドフリー君に相談してみようかな」



 ゴドフリー君もゴドフリー君で忙しいし、時間的にも疲れて眠っている可能性はあったけれど、たまらなくゴドフリー君に相談がしたくなったのだ。


 私はガーデンコントローラーを操作し、ゴドフリー君に連絡を取った。今から行く旨を伝え、神庭に出発しようとしたその時、見慣れないボタンが画面内にある事に気づいた。



「なんだろ、これ……そのままで出発って書いてるけど……」



 その見た事がないボタンに私は急に興味が湧き、そのボタンを押した。そしていつものように画面は白い光を放ち、私はそのまま神庭に向けて出発した。

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