第10話 進展
「ゴドフリーさん、一体何を……!?」
「……あれ、もしかして全然落ち着いてないか?」
「お、落ち着いてはいないです……いきなりでしたし、あまりこういう経験もないので……」
「そっか……それじゃあちょっと離すな」
「は、はい……」
返事をした後、ゴドフリーさんはそのまま私を離し、ドキドキする私の前で難しい顔をした。
「うーん……なんだか難しいもんだな」
「あ、あの……どうしていきなり抱き締めたりなんて……」
「ん? ああ、女神様から言われたんだよ。物とかで感謝を伝えるのも良いけれど、相手を抱き締める事で相手の気持ちを穏やかにした上で感謝を言葉で伝えるのも良いって」
「ティアさんが……」
「だから試してみたんだけど……もしかしてかなり嫌だったか? 出会ったばかりの男から抱き締められるのって」
「……たしかにハグが挨拶みたいな人もいますけど、人によっては本当に嫌だと思います。私も知らない人やあまり仲良くない人、特に異性からされたら怖いですし、突き放した上で誰かに助けを求めます」
「まあ、そうだよな……」
ゴドフリーさんは申し訳なさそうな顔をする。その表情から悪意なんかは全然なく、本当に善意だけでやっていたんだと感じながら私は言葉を続けた。
「でも、さっきのはそんなに嫌な気分にはならなかったです。ゴドフリーさんが悪意を持っていないのはなんとなくわかりましたし、お話を聞いてますますゴドフリーさんが律儀な人なんだなと思いましたから」
「ノドカ……へへ、ありがとうな」
「どういたしまして。でも、他の人にはむやみやたらにやらないでくださいよ? さっきも言ったように中には本当に嫌だと思う人もいますから。あと……もしも抱き締めて欲しいなと思ったら、その時は自分から言います。ゴドフリーさんからされるのは悪い気はしないですけど、やっぱりスゴくドキドキするので」
「ああ、わかった」
ゴドフリーさんはとても安心したように微笑み、その顔を見ていた時、私は不思議と安心していた。
ゴドフリーさんが言ったように私達はまだ出会って間もない関係で、少なくともいきなりハグをするような間柄でもない。
でも、このちょっとの時間で私にとってゴドフリーさんはただの知り合いから親しい異性くらいには関係値も上がった気がしており、自分の判定の甘さに苦笑いを浮かべると同時にこれまで親しい異性なんていなかった私にそういう関係性の人が出来た事は嬉しく思っていた。
そしてゴドフリーさんに話しかけようとしたその時、手に持っていたガーデンコントローラーの画面が再び光を放ち始めた。
「な、なに……?」
「なんかガーデンコントローラーが光ってるな……ノドカ、確認してみようぜ」
「は、はい……」
何事かと思いながら私達はそれぞれのガーデンコントローラーを確認した。すると、知り合いとなっていた私達の関係性が友人に変化しており、レベル1だった絆レベルも少し上がってレベル5になっていた。
「絆レベルが……」
「今の一件で上がったみたいだな。でも、なんだか嬉しいな」
「嬉しいって?」
「だってこれって、ノドカも俺の事を友達くらいには考えてくれてるって事だし、俺もノドカを友達だと思えてるって事だろ?
女神様の前では気にしてないとは言ったし、気持ちは切り替えたつもりだったんだけど、それでも一緒に旅してた奴らから裏切られたのはやっぱり悔しかったし寂しかったから、今後は恋人や親友どころかただの友達すら作れないんじゃないかって思ってたんだ」
「ゴドフリーさん……」
「俺は相手を友達だと思っても相手はたった一個の何かでその関係を終わらせようとする。その何かが約束破りみたいな自分から相手の信頼を損ねる物だったら、そいつの責任だから仕方ないさ。
でも、使ったら無くなる物とか相手が大切にしてたわけじゃない物でそうなるのはやっぱり辛い。一緒に色々な事をしてきた時間も思い出もすぐに無くなって、まるで初めから無かったかのようになるわけだしさ」
そう言うゴドフリーさんの表情は悲しそうであり、これまでゴドフリーさんは悲しみに耐えながら頑張ろうとしてきたんだとわかった。
「……ゴドフリーさんは本当に強い方なんですね。辛い中でもどうにか踏ん張ってきたわけですし」
「正直、女神様がいたからではあるけどな。でも、今はノドカもいてくれてる。変わった出会いにはなったけど、これからもよろしくな。ノドカ」
「こちらこそよろしくお願いします、ゴドフリーさ──」
「せっかくだし、さん付けとか敬語とかなしでも良いか? それがノドカの素なら仕方ないけど、出来ればそうしてほしくてさ」
「……うん、わかった。それじゃあこれからはゴドフリー君って呼ぶよ」
「ああ、ありがとうな」
ゴドフリー君は嬉しそうに微笑み、その姿を見ていた時、私も嬉しさが込み上げてきた。始まりこそ思わぬ出会いだったかもしれない。でも、こうして一緒に笑い合えるような関係の相手が出来たのは本当に嬉しいし、これからもゴドフリー君との関係は大切にしていこう。
ゴドフリー君と一緒に笑い合う中で私はそう思った。
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