12話 少年は今を変えたい

ふらりとリーベルは立ち上がった。


先程まで動くことができなかった少年が突然立ち上がったことに、誘拐をした男は驚きを隠せないようだった。だが、すぐに近くにあったナイフを手に取り、リーベルに突きつける。

 

「座れ。」

 

恐れることは何もない。


男はニヤニヤと笑った。しかし、男の首はごとりと地面に落ちた。血液が地面に広がっていく。男は叫ぶことも出来ないまま、絶命した。


リーベルは自身の掌を見つめた。ただ願っただけなのにこうも簡単に殺せるとは思っても見なかった。だが、全く罪悪感はない。寧ろ多幸感さえ覚える。

 

「次は…。」

 

リーベルは公園へと向かった。ふらふらと身体を揺らしながら、公園へと向かった。そこにはセイボスがいた。セイボスの元に歩いていくと、ちょうど顔を上げたセイボスと目があった。


「な、なんでお前がここに…。」

 

リーベルは笑った。

危機感を募らせたセイボスは警備の人間がいる方へと走る。


あの茂みの中で隠れていると告げていた。

はやくはやく!


足を動かし、腕を動かした。足が縺れながらも必死に走った。そして、たどり着いた先には…、血だらけの人間が転がっていた。

 

「ひ、ひぃぃ! 」


一歩下がる。


し、死ぬ…。

このままでは死んでしまう。

どうしようどうしよう。





 ドンッ――


何かにぶつかった。後ろを振り向いたとき、異常なまでに無表情なリーベルが立っていた。








リーベルの父と母はセイボスの父と楽しそうに話していた。リーベルは唐突にその場に現れた。話をしていた三人は唐突に表れたリーベルに驚いた様子だった。しかし、その驚きの顔は徐々に青白く恐怖の色に染まっていく。

 

リーベルは片手で持っていたセイボスの生首を机の上に置いた。怒り狂うのはもちろんセイボスの父だ。しかしリーベルは片手で彼を殺した。一瞬にして、真っ二つにしてしまい、コロンとその死体は転がっていった。

 


父と母は、引き攣った笑みをリーベルに向ける。

 

「や、やぁリーベル。これはね、違うんだ。私たちは親子だろ? ほら、君に兄弟が出来たんだ。後で紹介するよ。養子ではあるけど、とても有能な子でね、ああ勿論、家を継ぐのは君だよ。なんたって、私の子…」

 

言葉が紡がれる前に、父の首は刎ねられた。残るは母一人だった。リーベルは一歩一歩と歩いていく。

 

「や、やめて! 殺さないで! 」

 

騒ぎ立てる母にリーベルは冷たい目で見つめる。

 

「な、なに? なによ! 私は何も悪くないわ。全部あの人のせいだもの。そうよ、あの人が悪いのよ。」

 

リーベルは母の腕を切り落とした。母の絶叫があたりに響き渡った。

 

「わたっ!私の、私の腕が!…ああ、ああ…。うえっ…、おえっ…。はぁはぁ…。ひっ…。はぁ…。わた、わたしが、私が…。そ、うよ!なんで私がこんな目に…、恩知らず! ここまで育ててあげたのは誰だと思っているの!やめなさいよ!やめなさい!私はあなたの母なのよ!」

 

母が怒鳴り声をあげる中、リーベルは今度は母の足を切り裂いた。


「あああああああああああああああああああああああ! 」


叫ぶ母。

徐々に目から光がなくなり、恐怖がともる。

 

「い、いやだ。いやだ、死ぬ、死にたくない。いやよ、いや、こんなところで死にたくない。死にたくない。」

 

リーベルは一度刃物を地面に捨てた。ホッとする母を他所に、リーベルは母の眼球をえぐり取った。

 


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 」





叫び声が響き渡った。

眼球を抉り取られた母親は地面にのたうち回る。残ったもう一つの左目からは大量の涙が溢れ出す。

 

「ば、化け物…。化け物、化け物、化け物! こないで、こないで…。あああああ、産まなければ良かった。貴方なんて産まなければ良かった。この出来損ない! 出来損ない! 死ね! 死ね! 死ねぇぇぇぇ…あっ…」

 

大量の血が地面にこびりついている。リーベルは無表情でそれを見つめた。息を引き取った母を見ても何も思わない。何も感じない。ただ、リーベルの瞳から薄っすらと涙が零れ落ちた。





魔界 シスル


目が覚めると、暗闇の中にいた。あの日と同じ。暗闇の中。息をすることすらできず、ただ無限に湧いてくる怒りを抑えるのに必死だった。だが、今は少し違う。怒りが弱まっている。人を殺して、ぐちゃぐちゃにして、跡形もなく破壊したいという感情が、消えている。自身の手をじっと眺める。

 

「リーベル」

 

背後から呼びかけられる。フォレストだ。

 

「フォレスト。なに? 」

 

「貴様はあの魔法少女の光を浴び続けたせいで、魔の力が弱まっている。貴様はもうすぐ消滅するだろう。」

 

「そう。僕に何をさせたいの? 」

 

「魔法少女は魔王様の敵だ。魔王様の目的を害する人間は殺さなければなるまい。分かるな、リーベル。貴様が一番得意とする力で魔法少女を欺け。」

 

「僕の力はあまり残っていないよ。誰が魔法少女を殺すの? 」

 

「ブルームを使う。あれは力があっても知能に問題がある。上手く動かせ。」

 

ブルームを前線に出すということは、魔法少女を本格的に始末するということだ。リーベルは目を瞑った。魔法少女を殺し、人間を滅ぼす。人間に復讐するために。

 

「必ず、成し遂げろ。」

 

「ああ。」


 この命尽きてでも…。

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