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それからの僕は多忙を極めた。
「明人、記録が遅い。もっと早く丁寧にやって」
「は、はい!」
由紀さんの書記の手伝いでは膨大な量の資料を読み取ってまとめていく。僕が覚えるのではなく、他の人、具体的に言うと、これから先の後輩たちが僕らの記録を読むのだ。
そうなった時に、後輩たちが読めなかったとなったら永遠に情けない生徒会として記録されてしまうのだ。ある意味では永続的に生徒会としての力量を察せられるので余計なプレッシャーがかかる。
「由紀さん、これならどうですか?」
僕は作り直した資料を由紀さんに見せる。一瞬険しい表情を浮かべた気がした。しかし、それは杞憂だったようだ。
「ん、これなら大丈夫。優秀優秀」
「ありがとうございます///」
僕は由紀さんに頭を撫でられた。由紀さんは身長が高い方ではない。だから、背伸びをしながら、僕の頭を撫でてくれる。
ちょっと、照れくささを感じたが、認められた感じがして嬉しさが僕の心を満たしていた。すると、頭に花蓮さんとの約束が思い浮かんだ。
「すいません、由紀さん。花蓮さんのところに行ってきます!」
「ん、ガンバ」
「はい!」
僕は廊下を走って花蓮さんのいる生徒会室に戻った。
「す、すいません。遅れました」
「お、よかったぁ。あまり遅くなるようなら一人で行くところだったよ」
「すいません」
「気にしない気にしない。遅れた分は仕事で取り返せばよしだよ」
「は、はい!」」
「それじゃあ行こう!」
「ちょっ、引っ張らないでください!一人で歩けますって!」
そうして僕と花蓮さんは生徒会室を出た。
「放課後デート・・・」
「やめなさいって・・・後デートじゃなくて外回りよ・・・」
羨ましそうに扉を見つめる沙紀とその姿を見て呆れる凜さんの姿があった。
僕は花蓮さんに導かれるままに学校から出た。僕は何をするのかも全く聞いていないまま教室から出たので、戸惑ったままだった。
「花蓮さん、僕は何をすればいいんですか?」
「ああ~言ってなかったっけ?」
「はい・・・」
すると、校門のところで止まって、鞄から紙の束を取り出した。そして、それを半分に割って僕に渡してきた。
「え~と、これは?」
「これは松学祭のチラシだよ。この地図の北をアッキーにやってほしいんだ」
そう言われて僕は地図を見直す。
(100件くらいあるんだけど・・・)
普通に顔が引きつる。
「あっ!ポストに入れるだけでいいからね?実際に家の人と話したりしたら全然時間が足りないからね」
(それなら楽だとはならないよ・・・)
「とりあえず時間が惜しいから、私は先に行くね」
花蓮さんは僕が途方に暮れている中で、さっさと自分の持ち場に行ってしまった。
「はい!分かりました」
考えていても仕方がないので、僕もガンガン行くことにした。
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時刻は18時過ぎ
「お、終わったぁ」
100件やってみたが滅茶苦茶疲れた。ポストを探したりするので手間取ったりすると本当に時間がかかる。
「お疲れ~アッキーのおかげでだいぶ楽になったよ」
「それなら良かったです」
校門の前で待ち合せをしていたのだが花蓮さんはケロリとしていた。やっぱり生徒会には超人しかいないのかなぁと思った。
「よし、生徒会室に戻ろうか」
「はい」
僕と花蓮さんが生徒会室に戻ると、未だに仕事を続けている生徒会メンバーがいた。
「お疲れ~みんなぁ」
「お疲れ様です」
僕と花蓮さんは労いの言葉をかける。すると、彩華さんが笑顔でこっちを見てきた。
「明人君に、花蓮ちゃんもお疲れ様~」
凄く癒される。疲れが取れていくようだった。すると、反対側から肩をちょんちょんと叩かれた。そっち側を見る。
「どうかしら?」
沙紀が佇んでいた。それだけではない。滅茶苦茶笑顔だった。
「どうって?」
突然そんなことを言われても困る。
「言わなくても彼氏なら察しなさいよ。私の方が癒やされるでしょ?」
沙紀は彩華さんの方をちらっとみた。その仕草からこれは対抗心だろうなあと思った。
「う、うん、癒されるよ」
「そう、ならよかったわ。上書きできたようで・・・」
「ははは・・・」
僕は乾いた笑みを浮かべる。
「そういえば、貴方たち二人が付き合っているのは噂になっているから知っていたけど、噂とは全く逆ね」
凜さんが思い出したかのように呟いた。
「あ~ね。アッキーがサキサキのことが好きでたまらなくてテストで学年一位を取ったとか聞いた気がするぅ~」
考えるポーズをしながら花蓮さんが言う。どうなのっていう視線が僕に突き刺さるがどう返せばいいのだろうか。沙紀の目を見ると、コクリと頷いた。
「噂通りですよ。明人が私のことを好きで好きでたまらなくて、仕方な~~~く付き合ってあげているんですよ」
「ん?でも、明人にべったりしてるのは何で?」
由紀さんが率直に思ったことを聞く。
「それは明人に頼まれたからですよ。恋人っぽいことがしたいって熱烈に頼まれたらいくら私でも断れませんよ」
やれやれとする沙紀。
(よくもまぁこんなにすらすらと嘘がつけるもんだ・・・)
「「「へぇ~」」」
そして、三人は僕の方を興味深げに見てきた。珍獣を見つけたような顔をされると僕も困る。が、沙紀はもう一人の存在を忘れていた。
「くっくっぷぷぷ」
抑えた笑い声が聞こえる。振り返ってみると、彩華さんが机で突っ伏していた。
「どしたの?」
花蓮さんが彩華さんの奇行にツッコミをいれる。この局面でいきなり笑いだしたら疑問符が浮かぶ。僕もなんだろうと思っていると、
「ちょっと、こっちに来て」
僕と沙紀以外の三人を自分の方に呼び寄せる彩華さん。そして、スマホを取り出して三人に見せる。すると、生暖かい視線を向けられた。沙紀に。
「どうかしたんですか・・・?」
当然当事者としてはも気になるところだろう。すると、無言で彩華さんは沙紀にスマホを渡す。
「///!」
何が写っていたのか沙紀は顔を真っ赤にした。
(なんだなんだ?)
僕だけ仲間ハズレなのは嫌だなぁと思っていると、由紀さんが戻ってきた。そして、
「お疲れ様」
物凄く優しい表情で労われた。
「どういう意味ですか・・・?」
すると、由紀さんが僕にスマホを見せてくれた。そこに写っていたのは・・・
僕と沙紀が屋上でご飯を食べているところだった。しかも一部始終。
「沙紀ちゃんったら、この動画は何なのかなぁ~?」
「え~とその。これも明人に命令されて仕方なく」
「でも、明人君は箸を出そうとしているよぉ?」
「そ、それも命令で・・・」
「いくらなんでもそれはないでしょう・・・」
彩華さんの尋問に嘘を吐き続ける沙紀に凜さんがとどめを刺した。そして、花蓮さんがまとめた。
「この動画を見る限りだと、サキサキの方がアッキーに恋してるって感じだね」
「っ///」
核心を突かれて悶える沙紀。
「でも、なんでこんな嘘を?」
「そ、それは」
「追いかけるよりも追われたい、だよね?」
「ちょ///」
彩華さんが沙紀のことをニヤニヤしながら見ていた。当たりすぎてて会長に恐怖を感じる。
「沙紀、可愛い」
「乙女だね~」
「もうやめてください///」
ニヤニヤと他の先輩方にも見られる沙紀。沙紀は先輩方の視線に耐えきれなくなって机に突っ伏してしまった。
僕は噂の本当の部分が知ってもらえて気分がちょっと良かった。後はやり返せた気分にもなれた。
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