ブレイブ・エレメンター ～元素獣救出大作戦！～

05 赤い銅と黒い銅

　それから４人でもう一度、巨大タコの《銅（キュプラム）》の様子を見に行った。

　《銅（キュプラム）》はあいかわらず、洞窟（どうくつ）の奥でうねうねうごめいている。

「あれが銅（キュプラム）か？　姿がずいぶんちがうな」

「近付くと危ないよ。アタシもさっき、ブン殴られそうになったから」

　タングステンとネオンは、心配そうな表情で《銅（キュプラム）》を見つめる。

「……見たところ、ヤツはいま純粋ではないな。

　純粋な存在となれば、自我（じが）を取り戻すかもしれん」

　タングステンの言う純粋というのは、つまり『単体（たんたい）』ということだろう。

（いまいちイメージつかないけど、あのタコが《銅（Cu）》なんだとしたら……

　何かの『化合物（かごうぶつ）』になっちゃって、カード化できないってことか）

　それがわかったところで、どうしてやればいいのかはわからない。

「〖安定の世界（スタビリシア）〗ではおとなしくてやさしい子だったの。

　真っ赤な髪（かみ）が自慢で……」

「タコに髪の毛？！

　……って、ほんとだ。よく見ると上半身は人間なんだ」

　２人の言うとおり、《銅（キュプラム）》は半分タコで半分人間だった。

　ネオンは落ち込んだ様子で続ける。

「髪も、黒くなっちゃってる。

　あかがね色っていう銅（どう）の色の髪なんだって、言ってたのに」

「たしかに、銅って赤いイメージだよな。

　銅メダルとか10円玉も赤っぽい色だし」

　ネオンと円（まどか）の会話を聞きながら、理玖（りく）は腕（うで）組みして考える。

「赤い銅と、黒い銅……」

　なんだか、聞き覚えのある言葉だった。

　そこで理玖は、はっと気付く。

「もしかしてあいつ、酸化してるんじゃないか？」

「さんか？」

　理科の実験を思い出し、理玖はパラパラと教科書をめくった。

「性質的には《銅（Cu）》なら、酸素（O）と結合して酸化してもおかしくはない」

「つまり、純粋じゃないってコト？」

「そう、そう。

　それに《銅（Cu）》はもともと赤っぽい色だけど、酸化すると黒くなるんだ」

　理玖は、教科書の『還元（かんげん）』のページを開いた。

（『還元（かんげん）とは、酸化物（さんかぶつ）から酸素を切り離すこと』……

　……あった、『酸化銅（CuO）の還元の実験』！）

　酸化した《銅》から酸素を切り離す実験。

　①水素（H）を使った実験と、②炭素（C）を使った実験の、２パターンが載（の）っている。

「水素（H）か炭素（C）があれば、《銅》と酸素を切り離せそうだけど……」

　理玖はふたたび、周期表盤（ペリオディック・ボード）に目をやる。

　〚H（水素）〛と〚C（炭素）〛のバッジは、どちらもない。

「〚H（水素）〛バッジはさっき使っちゃったし、炭素（C）なんて空気中にはないし……」

　炭素（C）は黒鉛（こくえん）、いわゆる鉛筆の芯（しん）だ。

　日本でなら簡単に手に入るけど、そもそもここがどこかもわからないので、手に入るかは不明だ。

　水素（H）は、〔H₂O（水）〕を電気分解すればとりだすことはできるはず。

　だけどいまはなんの装置もなく、うまくやれる保証はない。

「どっちもすぐに手に入れるのは、難しいかも……」

　うなだれる理玖。

　黙って見守るネオンと、タングステン。

　そんな中、たったひとり円だけは教科書をパラパラとめくり、パァッと笑顔を向けた。

「理玖！！　あるぜ、炭素（C）！！」

　円は親指をグッとたて、自分に向けて。

「ダイヤモンドだ！！」

　理玖はポカンと口をあけた。