迷い飛ぶ夜の蝶

●感想
ある娼婦の懊悩を描いた掌編で、夜に一人、ああでもないこうでもないと思い詰めてしまうような、主観的には苦しく、客観的には滑稽でさえある懊悩の羅列が、共感と興味をひく内容になっていると感じました。

娼婦の設定には物語性もあり、簡素なエピソードをまじえた、自身の肯定と否定、諦めては思い直しを繰り返していく様は、羅列されたどこかのポイントで共感を得られるだろうと感じました。

最後にロールケーキを通して比喩的に心情を描写し、前向きに終われた点も良いと思いました。


●気になった点(自主企画のため記載)
以下は私個人の感想ですので、流す程度で見て頂ければありがたく思います。

全体を通して、具体性と物語性が非常に薄い点が気にかかりました。

例として、
『もらったお金は今日もあなたに消えるのだ。』
この箇所でホストか何かだろうと分かりますが、この『あなた』に関するエピソードがない点が気にかかりました。

他に『私は誰も拒まず、キスをしてハグをして、手も繋ぐ。声を出してって言われれば出すし、感じてるフリもする。』や『子育てをして、やがて孫ができて、看取られる』なども同様に具体性に欠けているように感じました。

例として、高級娼婦だったネリー・アルカンの『ピュタン』では、自伝のようにエピソードをまじえてつづっています。赤裸々な内容なため抜粋は控えますが、部屋の間取りやシーツのゆるみ、そこでの会話、なにを想像しているのか、自分の家庭はどうだった、それが自分のどういう思考にどう影響を与えたか、と、思考の根拠をエピソードで補強して物語性を高めるとともに、正しい正しくないを越えて『実体験としてそうなる』という説得力を持たせていました。

本人が悩みながらも、具体的な実体験ではなく漠然とした一般論が続いてしまっているのが、最も気になりました。

ほか、文頭の一字空けがまばらな点。
『毎日を生きていくために行う行為。』が『行う』と『行為』で重複している点。
『狭いワンルームの家は滞っていて、音が響く。』の何が滞っているのか疑問を感じた点などは、ケアレスミスの範囲だと思いますので、さほど気にしなくても良いと思います。

上記はあくまで私個人の感想です。

題材としては共感しやすく、現実的でわかりやすいため良かったと感じました。
疑問点、不明点等ありましたら、私の同企画用の近況ノートへお願いいたします。