デセール:続外国語と料理

 甘いものが好きだ。


 たまたま寄った外国の街、華やかなところの宿は値段が高いが、はじっこのほうのあまり治安がよろしくないとされる地域は私のようなものでも滞在できる値段だった。

 お金がないから、食べ物はケバブのような肉がはさまれたサンドイッチ――サンドイッチの容器の隙間いっぱいに詰められたポテトフライと缶ジュース一本ついたセットが夕食の基本。

 飽きたときは、そこら中にあるケーキ屋あるいはパン屋で甘いものを買った。

 どこのケーキ屋もびっくりするくらいに美味しかったし、パン屋で売っている素朴なタルトの一種も外れなしであった。


 ある日、移民の多い地区でケーキ屋の看板を見つけた。

 看板だけで何の気無しに入った私はそこが自分の想像するケーキ屋でないことにすぐ気が付いた。

 店内に入ったら冷やかしではない意思を示したことになることというのをどこかで聞き及んでいた私はそのまま出ることもできず、色鮮やかな菓子を大量に買い込むことになった。

 

 外国語というのは難しい。

 この街に和菓子屋があれば、それもまた私がケーキ屋と訳していた言葉になるのだろう。

 私は薄暗いホテルの部屋で強烈な甘さのトルコ菓子を食べながら思った。

 

 今でもたまに食べたくなる。

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