第十三話 夢の通い路



 松明揺らめく洞窟の中をクロを肩にのっけて走る。

 行き先は同じ空間に閉じこめられたであろう他の仲間たちのところだ。


「こっちで合ってるのか?」

 

「うん、多分ね。僕たちマジカルビーストは大体の位置関係はお互い分かるようになったから」


 クロに導かれるまま右に曲がったり左に曲がったり。

 迷路のような道を進んで暫くした後、見えてきたのは険しい表情で向かい合う二人の少女の姿。

 

「……あはは、そういう意味じゃあわたしにもあるよ。

 魔女のお人形っていう役割がっ」


 奥に佇む風音に似た少女が、手前にいる風音に向けて風の刃を放つ。

 高速で飛翔する三日月形のそれが、風音の顔を捕らえてーー


「あっぶねえ、間に合った」

 

 ーー寸前で魔法の火弾マジカルファイアバレットで防ぐ。

 爆発音とともに霧散する両者。風音を守るように二人の間に体を滑り込ませると、風音はぎゅっと俺の服の袖を掴んできた。


「蓮花っ……来て、くれたんだ」


「まあな。俺の方はすげーあっさりだったから」


 深く暗い風音の表情に、わずかな歓喜が浮かぶ。

 

 この様子だとこっちは随分と酷い目に遭ったようだ。

 俺があいつを倒せたのは間違いなく風音たちのおかげ。だったら今度は俺が助ける番だ、と風音そっくりの少女を睨む。


「それが、新しい居場所?

 服なんか握っちゃってさ……いつまた捨てられるかも分からないのに、馬鹿なんじゃないの?」


「あいにく、俺は友達は大事にする人間なんだ。

 風音が離れようとしない限り、その手を放してやらねえよ」


「……知ってる。

 だからわたしも信じられた」


 はにかむように笑う風音の手が下の方までやってきて、俺の手を握る。


 あの一連の騒動にも一応の意味はあったらしい。

 そう思うと莉々のために全力で頑張っていたあの日々も報われる気がするな、いや二人の前で泣いた事実は消えないんだけどさ。


「なに、それ。

 そんなの……いつまでもずっとママママいってるわたしがばかみたいじゃん」


 少女の手から緑色のステッキが零れ落ち、からころと地面に転がる。

 やがて少女の体が薄くなっていった。俺の時と同じ、か。


「どこに、いくの?」


「どこにも行かないよ、ただ消えるだけ。

 ……蓮花って言ったっけ? もしわたしを泣かせたらほんとに許さないからね?」


「分かってる。風音は俺を救ってくれた恩人なんだ、一生大事にするさ」


「あはっ、告白かよ」


 安心したように、あるいは心底楽しそうに笑う少女。


 少女の姿が完全に消えると同時、世界が崩壊していく。

 どこからともなく現れた無数の白い球が視界いっぱいに広がってーー









「だ、大丈夫、みんな?

 一体何があったの?」


 ーー気が付けば、俺たちは見慣れた道に立っていた。


 周囲に広がるのは白い霧。

 目の前にはもえさんが焦燥した様子で立っていて、傍らには風音だけじゃなくて蛍の姿もある。 

 どうやら俺たちは無事にもとに戻ってこれたみたいだ。

 

 分からないことだらけな今回の事象をもえさんに証明しようとしてーー真剣な光を瞳に宿したクロに遮られる。


「……全部思い出したよ、れんか。

 魔女のことも、魔法少女のことも」


「え?」


 呆然とした思考の中、クロは告げる。

 俺らの旅の終わりを告げる言葉を。


「少し話をしようか。

 魔女ーー一人ぼっちの少女の物語を」






 ――――――――――――――――――

 【☆あとがき☆】

 少し短いですが、これにて二章完結となります。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

 いかがでしたでしょうか?

 作者としては想定通りなことも予想外なこともありつつ、何とか予定していた結末までたどり着けたという印象です。

 書き貯めをしていなかったので、色々と設定が甘かったり、展開が雑だったりしたかもしれません。ごめんなさいです。


 さて、次からは最終章。本作も終盤となります。

 今回はほとんどプロットが出来ておりますので、近いうちに再開できるはずです。


 最後に。ここまで読んでいただいたことに再度の感謝を。

 少しでも「面白そう!」「期待できる!」と思っていただけましたら評価や感想いただけると作者が泣いて喜びます。「○○な展開希望」とか伝えていただけると反映されるかもしれません。「○○は微妙だった」という意見にも真摯に耳を傾けたいと思っています。

 それでは、また。今度は本作の結末でお会いできると嬉しいです。


 水品 奏多

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