第21話 どうぐ袋だ!

「……ほ、ホントにそんなことしていいの? 中身、なんか貴重な薬とかかもしれないよ?」

「そんときゃそんときだよ。私たちは生き残るのが一番大事なんだから、探索して貴重なアイテムをゲットするのは、もっと普通の時のためにとっておこうね」

「で、でもぉ」

「でもじゃない! ほら、やるよ!」


 私とフィオナは、水竜部屋の下り階段前にいる。

 2人で宝箱を持ち上げ、階下に向かって構えている。


「じゃあ、いくよ! いーち、にーい、さん! そいッ!」

「もう! どうにでもなれー!」


 階下に向かって思い切り宝箱を放り投げ、私たちはすかさず扉を閉めた。

 このダンジョン扉はガソリン気化爆発をも防ぎきるほど強度の高いもの。

 宝箱の爆発くらいはものともしないだろう。


「箱が転がり落ちてく音しかしないね」

「爆発の罠じゃなかったんじゃないかな。それか、開かなかったか」

「見てみよう」


 私たちは扉を開けて、宝箱を確認しにいった。

 

「開いてるよ! やったね、大成功!」

「これ大成功なの?」


 大成功なんだよ! 安全に開けられりゃあなんだっていいだから。

 とはいえ、不用意には近付かない。毒ガスが出てるかもだし。


「どうやら大丈夫そうだね。罠、なんにもなかったんじゃない?」

「ん~、そうかも。箱になんにも入ってないし」

「罠って、物理的になんか入ってる感じなんだ」


 そこは魔法の力じゃないんかい。

 謎すぎる。爆発とか、可燃性ガスが密閉されてるのか? 開くと同時に着火されて爆発?

 誰が用意するんだ、そんなものを。迷宮に宝箱罠職人でも住み着いてるのか?


「そんで中身は? 瓶詰めの薬とかだったらごめんだけど……。なんだこりゃ。袋?」

「袋……というか、バッグだね」

「バッグかぁ。革製で悪くないけど、あんな水底からずいぶん地味なもんが出てくるんだねぇ」


 私はバッグを引っ張り出して、眺めた。

 フィオナが欲しそうにしているので、渡すと、しばらく中を開いたりまさぐったりしてから、キェエエエエ! と奇声を発した。

 どうした、どうした。ついにご禁制の副作用が出たか!?


「マホ! マホ! マホ! マホ! これ………………魔導具! 魔法のバッグって言われてるやつ!」

「なにそれ?」

「ダンジョンでもほんっっっっとうに稀にしか出てこなくて、特級の探索者とか、王族とかしか持ってなくて、売ったらお城が建つくらいの価値があるバッグだよ! たくさんいくらでも物が入って、重さも感じないって聞いた!」


 そりゃすごい。アイテム袋じゃん。

 え? 実在すんの、それ。


「それがあれば、ホームセンターのものもたくさん入れて運べるよ! ほら、私の剣だって、全部入っちゃうでしょ!」

「マジか。マジだ」


 剣みたいに長いものは普通はバッグになんて入らない。当たり前だ。

 でも、このバッグは普通にまるまる収まってしまう。

 魔法……魔法のアイテムか……!


「とにかく、一度戻って検証しよう。どれくらい入るのかわかんないし」

「そ、そうだね。なんか魔法のバッグも、ものによって入る量が違うって聞いたことあるよ。たくさん入るやつだといいね!」

「だねぇ。なにより重い物が入って重量感じないってのは大きいな。ポリタンクには苦労させられたからね」


 ◇◆◆◆◇


 というわけで、最下層まで戻ってきた。

 ん? 先に上の階層を確認してからでもよかったのでは……? まあ、いいか。


 戻りながらフィオナが興奮気味に話してくれたけど、この魔法のバッグというのは本当に貴重な宝物なのだそうだ。

 そもそも、迷宮には稀にしか宝箱は現れず、上層ではたいしたものは出ないらしいが、下層に行けば実用的な良いものが出るものらしい。

 炎を纏った剣とか、なにをしても壊れないのに軽い盾とか、どんな傷もたちどころに癒やす水薬とか。

 そんな中でも、特に貴重で実用的にも最高の逸品とされているのが、魔法のバッグなのだという。


「あとは、容量が大きかったら言うことないんだけどね」

「最下層近くで出たものだし、きっと大きいと……思う。大きいといいなぁ」

「ま、試してみよう」


 とりあえず、ペットボトルの水を入れてみる。

 1本、2本、3本……。1ケース入れても余裕だ。

 取り出すときも、なんとなくそれがあることがわかる。魔法だ。


「……あー、これまだ全然容量あるわ。触った感覚でわかるよ」

「そうなの?」

「うん。バッグが教えてくれてるというか。あと、ほら」

「わ! すごい……!」


 バッグの口よりも大きい20リットルのポリタンクを近づけると、シュポッとバッグの中に収まった。どうやら容量に余裕があるなら、大きいものも入るようだ。

 こりゃ歴史に残るレベルのお宝なのでは……?


「これを売ればもう働かなくても生きていけそうだねぇ」

「え!? 売っちゃうの? だって……」

「ん? いやまあ、2人で見つけたものだしさ。換金しなきゃだし」

「……どうしてそんなこと言うの? 2人で見つけたものなら、2人で使うんでもいいじゃない!」


 言われてみればそうかな? とも思うが、でも、フィオナだってお金はあったほうがいいだろう。

 魔法袋は棚ボタ的に手に入れたアイテムなわけで、別に売ったからどうということもないはず。


「だけど、お宝なんでしょう? 殺されて奪われたり、盗まれたりしそうだしさ。売っちゃったほうが良くない?」

「ダメ」

「なんで?」

「だって……このホームセンターにある物とか、運ぶのに、これがあるのとないのじゃ全然違うじゃん。ダメだよ……」

「そんなことはわかってるけどさぁ」


 どのみち、ホームセンターのものなんて、外の世界ではおいそれとは使えないわけだしなぁ。そりゃ、あったほうがいいに決まってるけど。


「フィオナ、魔石が出たら換金できるからって、すごく大事にしてるじゃん。それなのに、これは売りたくないなんて矛盾してない? ホームセンターのものは……売ろうと思えば売れるだろうけど、出所だって疑われるだろうし、お金にするのは難しいんだよ?」

「お金のことじゃないの!」


 大きな声を出したフィオナは、目に涙をいっぱいに溜めている。

 そりゃ私だって、これがすごく便利で貴重なものだってことくらいわかってるつもり。でも、こんなにフィオナが反対するなんて……。


「わ、悪かったよ。どっちにしろこれは2人で見つけたんだし、フィオナが売りたくないなら売らないよ。売るとか売らないってのはさ、なんていうかな……そう、提案。提案だから」

「じゃあ、マホが使って。マホにあげる」

「え、ええ……? あんなに貴重なものだって言ってたのに?」


 よくわからないが、フィオナはこれを私に使って欲しいらしい。

 まあ、そりゃまだ迷宮は攻略しなきゃだし、ホームセンターのものを運ぶのに便利ではあるけど、なんかそういうのとは違う感じだ。


「マホじゃなきゃ見つけらんなかったんだから、それはマホのものなんだよ。私だって誰だって、あんなにたくさんの水を全部抜くなんて、思いもよらないんだから」

「そ、そう……? じゃあ、私が使わせてもらうよ」


 私としては2人で攻略してるのだし、全部等分でいいと思うのだが、フィオナはこれに関しては譲るつもりがないらしい。

 まあ、いずれにせよ売る売らないなんて、外に出れた後の「たられば」だ。こんなところで言い争いをしても仕方がない。


「まあ、とりあえずバッグのすごさはだいたいわかったから、ごはんでも食べて、次の階層行ってみようか! そろそろ転送碑があるかもだし!」


 なんといっても、次で5階層目だ。

 ホームセンターを0として、ドラゴンが1、ヒュドラ草が2、ヤモリが3、水竜が4、次で5だ。

 なんとなく5階層ごとくらいにワープポイントがありそう……ってのはゲーム的な感覚だろうか。

 

 そうでなくても、想像通り、ドラゴンが一番高難易度で、少しずつ簡単になってきている感触もある。相性もあるから一概には言えないけど、次もなんとかなるはず。

 いや、ここまで来たらなんとかするんだ!

 待ってろ、お天道様!

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