第5話

『装甲蟻に突きはするな。まず刺さらん』

『目狙って、そのまま脳を刺すって方法もあるにはあるけどな、失敗したら死亡確認だぜ?』

『……はい、すみません』

『ま、初めての戦闘で臆せず、モンスターに突っ込む気概は買うぜ。冒険者に向いてるよ』

『お前は筋がいい、しっかり学んでいくことだ』

『はい!』


倒した『装甲蟻』の死骸を運搬し、ルガが待つキャンプにまで戻る。

ルガは工具を取り出すと、早速『装甲蟻』の解体作業に入った。

モンスターの身体は、資材になる。

『装甲蟻』の外骨格は、冒険者の機体の武具や建材にも用いられる。

だが死骸をそのまま持って帰るには大きすぎるため、必要部位を見分けて適切に剥ぎ取る必要がある。

ルガは、そういった能力に長けているのだ。


『ルガが解体している間に、ベリたちが見つけたコンピュータを回収しよう』

『おう!』


ベリが頷いて先導し、ロッグとネクが続く。

すぐに目的の場所に到着したのだが、しかし件の部屋の中からは物音がしていた。

冒険者の乗っている機体特有の駆動音だ。


『あーっちゃー……』

『やられたか』


溜息を洩らすベリは、通信チャンネルを全域に拡大して声を上げる。


『おーい空き巣野郎、今からその部屋入るからな』


そう言いながらベリはメイスを担ぎ、部屋の中に入っていく。

その後を銃を構えたロッグが続く。ネクは一番最後だ。

部屋の中に入ると、コンピュータを漁っている機体の姿があった。

白く塗装された、細い印象を受ける機体だ。

装甲を抑えることで機体重量を軽くし、機動力を高めた『軽量級(フェザータイプ)』だろう。

背には、まるで剣のように長い銃身の銃を背負っている。



『いきなり、人を空き巣とは随分なご挨拶ね』

『……女かよ』


その白い機体の主から、同じく全域通信で返答される。

若い女性……少女の声だ。


『失礼なことばかり言うのね、育ちが知れるわ』

『そりゃあどうも、ところで、こんな所でゴミ漁りに勤しむお嬢様はどこのご名家さんで?親の顔が見たいね』

『!関係ないでしょう!!』


少女の白い機体が背負った銃に手をかける、それに対しベリはメイスを構えた。


『やめろ。

 この部屋は俺たちが先に見つけていた。ドアを破壊した跡は見ただろう?

 モンスターの討伐で外していたが、戻ってきたところでお前が居たのでな。

 つい腹が立ったんだ、悪かった。

 ……冒険者同士の戦闘は、重罪だぞ』


ロッグが場をおさめる。

ベリは、構えていたメイスをそのまま背に収納し、少女もまた銃から手を離す。

暫くの間、沈黙が訪れた。

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