魔法か、科学か、

ミンイチ

第1話

「なぜわからん。

 魔法は科学の発展を阻害し、この世界を停滞に導くものだと」


 そこかしこに穴ができている荒野で、一人の老人がため息まじりにそう問いかける。


 視線の先には一目見ただけで疲れ切っているのがわかる青年がいる。


 青年の着ている上等そうな鎧は淡く光っていて、その光のおかげで今でも倒れずにいることができるようだ。


「先生はそればっかりですね。

 教師として魔法の有用性を教えつつ、魔法の代替となる科学を教えることによって魔法廃絶を目指すテロリストを生み出してきたのに」


「だから言っておるだろう。

 あのはわしらではなく、邪教徒どもが魔神降臨の儀式を行ったから起きたのだと。

 逆にあの程度まで被害を抑えたのだから感謝して欲しいものだ」


 実際、王都では魔神を封じ込めていた壺を開けるための儀式が行われていた。


「けれど先生、僕たち魔法師団があの場所に突入していれば魔神の再封印を行右ことができた上に、あれほどの被害が出ることはなかった!

 なぜあんなことをしたんですか先生!」


 そう言いながら、青年は4種の上級攻撃魔法を老人に向けて放つ。


 魔法はまっすぐに、あるいは独特の動きをしながら老人に向かって飛んでいき、確実に当たると思われた。


 しかし、それらの魔法は見えない壁にぶつかって消えていく。


 消えた後には小さく放電が起こっており、電気系の障壁があるのだと考えられる。


「お前は変わっていないな。

 私としてはもう少しお前を叱らなければいけないとは思うが……」


 どこからか懐中時計に似たものを取り出し、中を確認する。


「そろそろ終わりにしよう。

 まだお前がわしの生徒だった時に教えたのを覚えているか?

 『魔法による事象からもエネルギーを取り出すことはできる』ということを。

 今までお前がわしに放ってきた魔法から得たエネルギーはわしが作った、ある機械を動かすのに十分すぎるほどだ。

 見せてあげよう、私の最高傑作を」


 言い終わると同時に、地面が大きく揺れ出した。


 老人の後ろの地面が割れ、その中からとても大きな機械が姿を表す。


 「これこそが科学氷河期サイエンスアイスエイジを終わらせるために作ったものだ。

 これを空に打ち上げることで魔法による念話なしで遠いところと連絡を取ることができる。

 これにより、さらに科学の可能性を広げることができるのだ」


 機械は金属製のカバーで覆われ、下からはさらなる轟音が聞こえてきた。


「空に送るなんて、そんなの神の意思に反している!

 ここではこれを使いたく無かったのですが、神敵にならないためにもあなたを止める!」


 青年は首にかけていた紐を引っ張り、その先についていた笛を鎧の中から取り出す。


 笛は純白で、流れ星の装飾が施されている。


 青年は大きく息を吸ってから笛を咥え、思いっきり吹き鳴らした。


 思いっきり吹き鳴らしたにも関わらずとても綺麗で済んだ音が聞こえる。


「まさか、『彗星呼びの神笛コメット・ホイッスル』を使ったのか!」


「そのまさかですよ、先生」


 笛の使用の代償だろうか。


 青年の体は少し黒く変わり始めており、完全に黒くなったところから崩壊が始まっていた。


 さらには、空には大きな隕石がここに向かって落ちてきているのが見える。


「ここはすぐに更地になります。

 先生はそれで個々の痕跡を消してこれまで通りの生活を送ってください」


 そう言い残すと青年の体は完全に崩壊した。


「なぜだ!

 私のの一つを消すためだけにお前の命を使うことも無かったのに!」


 老人は悲嘆に暮れているが、隕石はどんどん近づいてくる。


 もちろん魔法をエネルギーに変換する装置は起動してあるが、この大質量では意味をなさないだろう。


 隕石は最初に機械を押し潰し、次に打ち上げ装置にぶつかってそれすらも潰していく。


 中にはたくさんのエネルギーが入っており、そこが潰されたことによってとても大きな爆発が発生する。


 その爆発と隕石の衝撃によってあたりは一瞬で吹き飛んだ。


 衝撃で生まれた砂嵐は1週間は消えなかった。


 そして砂嵐が消えた後に調査団が設置され、爆心地に赴いた。


 そこには、大きな穴と金属製の人形のようなもののみが残っていた。

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