第21話エルフの存在続き



「うぐっうぐっ・・・・・・」



 ぐずっている母さんは、叩かれた犬のようにしゃがみこんで地面に何かを描いてる。


 リアルにのの字を描く所を見るとは思わなかったなんて思っていると。



「ホー、なかなか見事じゃが、そこは違うぞ」


 イネスも一緒にしゃがんで何かを指摘している。


「ぐすっ、どこぉ?」


 どうやら二人の間に会話が成立したようだ。



「ほらっ、ここじゃ」


「あっ! ホントだ」


 何を描いてるのだろうか? 気になるが心を鬼にしなければならない。


 かまえばそれを好機と見てくるのは分りきっていたからだ。



 僕は怒ってるんですからね。



「良いか、殲滅はここが「うわぁああっ!」」


 思わず飛び出して足でかき消したよ。なんて魔法を教えるんだ。



「あああ、せっかく魔法陣描いてたのに」


「魔法陣じゃありません!」


 少しは反省を期待した僕が甘かったのかもしれない。




        ※※



 広場の人口密度が妙に高い。




「初めまして、オルネ皇国ランディ・シャルルと申します」


 これ以上は無い優雅な仕草で挨拶した。そういえば正式な名乗りを受けた事が無かったよなと思って見てたら。



「ぷいっ」


 いやいやいや! いま口で言ったでしょ、口で。


 何が気に入らないのか、まったく目を合わせようとしない。



「ちょっと、母さん。相手は皇子なんだからもう少し」


「母さんじゃ無い。カーラ!」


 えっ? この人何言ってるの。



「いや、母さんは母さんだろ」


「違うもん。昔はカーラって呼んでた」


 何を可愛く言ってるんだ。


 少しは年を考えて欲しいよ。



「それは、子供のときはそう呼んでたかもしれないけど」


 四歳のときは確かにカーラって呼んでいた気がする。


 そのまえは一応ママだったかな。でもね、五歳で前世の記憶を思い出したから恥かしいのよ。ホント。



「カーラって呼んで。もしくはママンでも良い」


 いや絶対にママンは無いから。



「じゃ、か、かかかかか」


「カーラって呼んで」


「うぬぬ、か、カーラ?」


 くそう、にまっと笑って。うぐぐぐ、何か悔しい。



「はぁ、良いわ。・・・・・・で、なんで皇子に挨拶しないの」


「オルネ皇国は嫌いよ」


 しかめっ面に頬をふくらませて、出来るだけ不快さを表現しようと頑張ってる。子供がわがままを言ってる様な感じだ。



「ほう、それは聞き捨てなりませんな」


 ヤーレン子爵が口を挟む。さっきから顔が引きつってるけど、どんどんとややこしくなる気がするのは気のせいと思いたい。


デモ気持ちは分る。面と向かって自国を嫌いと言われれば良い気はしないだろう。



「だって子供が出来たのに、私を捨てたのよ!」



 あれ?



「ん? ちょっと待って! 捨てたって僕の父親の事?」


「そうよ、アイツったら子供が出来たって言うのに無しのつぶてで」



「お待ち下さい。その何ですか、アレスくんの父親がオルネ皇国の人間だと?」



 どうもそうらしい。驚愕の事実でした。



 なんでも昔、一緒に冒険をしていたとかで、いわゆる出来ちゃった状態だったらしい。責任を取れないのなら避妊ぐらいしておけよと声を大にして言いたい。まあ、その場合は僕が生まれていないんだが。



「戻ってから妊娠に気が付いて、慌てて手紙を書いたけど無視よ! 無視!」


 うーん、それは酷い。まるでヤリ捨てじゃないか。



「それが本当だとすると、けしからん話だ」


 皇子も不快な表情を隠しきれない。


 そうだよね自国の人間がヤリ捨てしてたと聞いて、皇族としてはそう思うだろう。



「それでその人物はどういった者なのですか? 差し支えなければ事情などをお聞かせください。なにオルネ皇国は仁義に篤い国です。不義理は許されません。同国人として、いや同じ男として許せませんから、調べてしかるべき処置を取らせましょう」


 ふーん、オルネ皇国ってそういう国なのか。皇子がそこまで言うということは責任を取らせるって事か? まーヤリ捨てて逃げ回ってる相手だからどこまで出来るか。



「忘れもしないわ。名前はグレアム・バランよ!」


 苦々しい顔というのは、こういう顔かと思える見本だった。



 でも・・・・・・。



「へっ・・・・・・?」


 ん? 皇子たちの様子が変だぞ。



「失礼、良く聞こえなかったんですが、もう一度お聞きしても?」


「良いわよ、グレアム・バラン、背が高くて頼りがいがあるから良いかもって思ったけど、大間違いだったわ!」



 けっと吐き捨てるように言うと、皇子たちに向かって「だからオルネ皇国は嫌いなのよ! 分かった?」と言い放った。


 びしっと指をさしてだ。



「申し訳ないがそれはありえない」


 首を振る皇子。


「何でよ! ワタシが嘘を言ってると言うの」


「いえ、オルネ皇国において伯爵家のグレアム・バランと言えば」



 皇王グレアムだからだ。


 御年七十六歳。老齢にも関わらず元気だそうだが、僕が生まれた時で六十一歳のおじいちゃんだったからありえない。



「ですから、ありえないのです」


「だって! 言ってたもん!」


「いやはや、酷い話ですな。よりにもよって皇王の名を騙るとは」



 オルネ皇国でバラン伯爵家と言えば唯一つ皇家だけ許される。即位前のいわば称号みたいなもの、イギリスのプリンス・オブ・ウェールズみたいなものらしい。


 もしも本当に僕の父親だとしたら、即位十年の頃でとても浮気──エルフと旅にでて恋を──するなど考えられないのだ。



「十五のアレスくんを身ごもった頃は六十になる頃、とてもお話にあるような美丈夫とは、まあ若い頃は宮殿を騒がせた事もお有りのご様子ですがな」


 がははと豪快に笑うヤーレン子爵と苦笑いの皇子。



「・・・・・・誰が十六年前って言ったのよ」


「えっ!?」


「子供が出来たのは五十年前よ!!!!」



 そうカーラがエルフの国を飛び出して放蕩していたのは五十年前。旅に出て若き冒険者に恋をして、速攻身ごもったのもその頃であると言う。



「あのぅ・・・・・・みなさん勘違いしてませんか」


 手を挙げて、ヘリアが恐る恐るといった様子で口を挟む。


「そうね。前提が間違ってるわね」


 黙っていたローザも口を出した。



「何がです?」



「ハイエルフの妊娠期間は三十年以上なんですが」



 驚愕の事実が明かされた。


 エルフ種の妊娠期間は人族より長かったのだ。僕も知らなかった。


 その中でもハイエルフは平均三十年。カーラ(ママン)の場合は三十五年の長きに渡っていたのだ。



 あっ! ヤーレン子爵が逃げ出した。


 いや飛び出して行った。きっと確認に行くんだろうな。五十年前に接点があったかどうかを。



 やれやれ、ファンタジー世界に転生して、結構驚く事が多いけど特大のやつが自分の出生にまつわる事とは・・・・・・とほほ。どうなるのかね。

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