Lemurial Historia《レムリアル・ヒストリア》――時渡りの英雄と古の神獣

秀田ごんぞう

序章 ――まどろみのなかで ~ drowse to dream ~――

プロローグ ―― 朧にたゆたう ――

 ……。


 ……ねぇ……聞こえてる?


 もし聞こえていたら、返事はしなくていい。少しだけ私の話に付き合ってほしい。


 これが最後になるかもしれないんだ。あの光を通り過ぎたら、私はもう二度と君に会えない……かもしれないんだ。

 偶然とはいえ、君を巻き込んでしまったことについては、本当にすまないと思っている。

 それだけでなく、君は私の提案をこころよく引き受けてくれた。本当に感謝している。


 だが、君はそれでいいのか?


 君にだって何か望みがあったはずだ。それらを全て捨て去ることになる。私には君があまりに不憫ふびんに思えてならない。私で叶えられるものなら、後生ごしょうだ。君の望みを叶えるだけ叶えてやりたいと思う。だから望みがあれば言いなさい。


 ……なんだと?

 特にない? 君はそれでよくとも私の気が……本当なのか?


 …………はぁ。わかったよ。君がそう言うなら無理強むりじいはしないさ。


 向こうで私が君にしてやれることは限られている。

 心苦しいが、君に頑張ってもらうほかない。


 ふっ……何も心配していないさ。

 遥か悠久の昔から変わらない私の心を変化させた君になら、きっと成し遂げられる。

 そう信じている。


 ……そろそろ時間らしい。


 見えるかい、あの光の渦が。

 あの渦の先で、これから君は素晴らしい冒険譚ぼうけんたんを紡ぐことになるんだろうな。


 期待しているよ。さぁ、行きたまえ!

 新しい世界への扉はもうすぐそこにある。

 必ず成し遂げてくるんだ。




 ……ふぅ、行ってしまったか。


 私を助けてくれた君なら、きっとお兄ちゃんを助けてくれるはず。


 きっと……。

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