第53話 暢気

「……という訳で、予定を変更ししばらく札幌に滞在することになった。モンスターの強さも跳ね上がることが予測される。十分に注意し、周りと連携して討伐にあたってくれ」


 翌日、朝食を食べ終わって3階の事務所に集まった俺たちは、隊長からモンスター討伐についてそう告げられた。


 隊員達は建物の取り壊しに飽きていたようで、強いモンスターと戦えることに喜んでいた。


「魔法隊はいつから戦闘狂だらけになったんだ……?」


「まあ、戦いたくないって人を隊長がスカウトしてくることはもう無いだろうね。そういう拓也も最初はエンジニアとして入隊したのに、今じゃ部隊長じゃないか」


「あれは鈴石が喧嘩を売ってきたのが悪いんだよ」


 まあ、安い挑発に乗ってしまった俺も俺なんだけどな。


 その後、俺たち魔法隊は基地から少し離れた地点へと移動した。

 戦闘準備が整うと、俺はフランソワさんからもらったタブレットを空間魔法から取り出した。


「隊長、最初はどれくらいの数で行きます?」


「半分くらいから徐々に減らしていこう。何分データが全くないからな。試行錯誤していくしかないだろう」


 隊長の指示で、俺はタブレットのモンスター出現数を半分に減らし、一部を200メートルほど離れた地点に出現させるように指定した。


 それから10秒ほど経った頃だろうか。目の前に黒い煙のようなものが充満し始めた。

 モンスターが出現するまでには少しタイムラグがあるらしい。

 

「……来るぞ!」


 隊長がそう叫ぶのと同時に、全長5メートルはあろうかというトカゲのようなモンスターが黒い煙の中から出てきた。その見た目とは裏腹に、かなり速いスピードで接近しているのが確認できた。


「総員、撃て!」


 その合図とともに、俺たちは日光に照らされて輝いているライフルの引き金を引いた。




  ◇◇◇




 討伐開始から1時間が経った頃、隊長が一旦休憩を挟みたいと言ってきた。

 俺はモンスターの出現地をかなり離れた土地に設定し、目の前のモンスターの殲滅に当たった。


 15分もせずにもともと出現していたモンスターを倒したタイミングで、少し早すぎる休憩の真意を隊長に確かめることにした。


「悪いね多々良くん、ウォーミングアップはもう十分かと思ったんだ」


「……じゃあもっと強いモンスターを?」


「ああ。ただ、他の隊員には言わないでくれ。現段階で各隊員の対応力がどれほどなのか見ておきたい。気を抜いてる隊員は死ぬかもしれないけれどね」


 そう言って隊長はニヤリと何かを企むように笑っていた。


「そんなことを笑いながら言うのは隊長だけですよ……」


 さすがいくつもの死線を潜り抜けてきただけあって度胸が半端じゃない。

 

「まあ、他の部隊の隊長も何とかするだろ」


 特に魔法隊初期メンバーの対応力は心配していない。多分、他の隊員がいなくても何とかしてしまいそうな気もする。


 休憩を挟んだ後、俺は諦めてモンスターの出現数をかなり少なくした。

 そうすれば、出現するモンスターの強さは何倍にも跳ね上がる。

 どんなモンスターが現れるか分からないので、目の前に出現させるモンスターの量は極力少なくした。他のモンスターは遠くの地域に出現するように設定する。


 今から現れるモンスターが先ほどとは比べ物にならないほど強いと分かっている俺は、ごくりと生唾を吞んでいた。


 先ほどと同様、モンスターの出現地点に黒い煙が充満していくのを見て、隊員たちはライフルを構え始めた。

 しかし、その黒い煙はどんどん膨れ上がっていく。建物が周りにないので比べようがないが、10階建てのビルを簡単に飲み込んでしまうのではないかというくらいまで煙は上がっていた。


 隊員たちも様子がおかしいことに気が付いたのか少しざわめいていた。

 俺が横一線になっている他の部隊に目を向けると、第二部隊の隊長である鈴石と目が合った。

 しかし、その目はやりやがったな、とでも言いたげな怒りがこもっているようだった。


「文句があるなら隊長に言えよな……」


 俺はボソッと呟き、空間魔法からスナイパーライフル型の魔法具を取り出した。

 

 それと同時に黒い煙の中が一瞬明るくなった。まるで何かが燃えるようなものを視認した俺は、近くにいた麻里に指示を出した。


「麻里! 土魔法で壁を作れ!」


「え? 壁、ですか?」


 麻里はなぜこのタイミングで壁を作り出す必要があるのか、とでも言いたげな表情で聞き返してきた。


 しかし、戦場でのそのやり取りは時間を無駄に消費してしまうだけだ。そして、その一瞬の隙が命取りになる。


 直後、魔法隊全隊員を灼熱の炎が包み込んだ。


 


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