第23話 使命
「あの人たち、まさか断られると思っていなかったんじゃないですか?」
「ハハハ、だろうな。私が断った時の顔を見たか? 豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしていたぞ」
神宮司財閥のタワーマンションを後にした俺たちは、移送車で基地に戻る中そんな話をしていた。
「さすがに多々良くんの魔法具をおいそれと受け渡すわけにもいかんだろう? スポンサーの話も結局のところは私たちの装備が目的だろうしね」
「ええ、まあ。信頼できる人には使わせてあげたいとは思いますけどね。金儲けのことしか考えていない財閥に魔法具を渡すのは不安ですし」
「魔法具に頼ってまた無理な攻略に挑む馬鹿が出てこないとも限らない。そのあたりは慎重に判断していこう」
確かに、最近馬鹿みたいな威力に改良してしまったからなあ。作った俺が言うのもなんだが、あれが市場に出回ると考えると恐ろしい。
「意外とあんたも評価されてるのね?」
「うっせえ。お前だってショットガン使ってるじゃん」
「別に悪いって言ってるわけじゃないでしょ!」
そういうと鈴石はプイッとそっぽを向いてしまった。
お前が意外となんて言うから悪いんだぞ。
「ねえ、たくや。わたしも何か新しいのほしい」
「はあ? 別にいいけど……お前、ライフルあるじゃん」
魔法具について話していたからだろうか。沙織が急にそんなことを言い始めた。無論、沙織にもライフル型の魔法具は渡してあるし、普段の戦いで不便に思うことがあったんだろうか……?
「もっと可愛いのがいい」
「可愛いのって……性能に違いは出ないぞ?」
想像の斜め上の回答をされて、俺は苦笑いを浮かべた。他の隊員はより良い性能を、と要望を出してくれるんだが、沙織はそんなこと求めていないようだ。
沙織らしいと言えば沙織らしいんだが……それってどうなの?
「色はピンクにしてほしいなぁ」
「はいはい、帰ったらやるよ……」
「それじゃあ僕も頼もうかな!ね、良いでしょ拓也?」
そんな俺と沙織の会話を聞いていた王子が、俺の肩に手を回してそう言った。
「分かったって! てか、いつも近いんだって!」
「ええー? 拓也と僕の仲じゃないか?」
「どんな仲だよ! いいから離れろ!」
俺はそう言って王子を強引に引き剥がした。
◇◇◇
「おーい、出来たぞー」
基地の事務所に戻った俺は、すぐに作業に取り掛かり30分ほどで魔法具を完成させていた。
「おおー。さすがー」
「一応性能の微調整もやっておいたぞ?」
「ありがとー」
沙織は出来上がった淡いピンク色のライフルを掲げるように持って礼を言ってきた。
正直趣味が悪いような気もするが、沙織が満足そうなので俺は何も言わないことにした。
「ねえ拓也、僕のは?」
「ほらよ。初めて作ったし、ちょっと試しに行こうか?」
「そうだね。でも大丈夫? この辺で試して危なくない?」
「ちゃんと練習場まで行くから大丈夫だよ」
そうして、俺は王子と共に練習場へと足を向けた。
「早速やるか」
「でもこれ、どうやって使うの?」
「このピンを抜けば、中にある魔石式の起爆装置が起動する仕組みだ。5秒くらいで起爆するから、扱いには十分注意しろ」
そう言って俺は魔法具を王子に渡した。
今回作ったのは、投擲型の爆弾式魔法具だった。王子曰く、土魔法で壁を作って身を隠せるから、高威力の爆発を起こせるような魔法具がいいとの要望があったのだ。
王子は先に土魔法を発動した。金属のような硬い壁が目の前に競り上がったところで、王子は爆弾式魔法具のピンを抜いて、練習場の奥に投擲した。
『ドオオオォォォォォォオオオンン!!』
5秒後、魔法具はしっかりと爆発した。
しかし、周辺が昼間のように眩しくなるほど、想定していた以上の爆発を引き起こしてしまった。周囲にはかなりの勢いで爆風が吹き荒れる。
「熱っつ!!」
「ちょっと拓也! やりすぎだって!!」
壁もかなりの熱を持ち、爆発から身を隠すように壁に張りついていた俺たちは大慌てだった。
爆発が止んでも、周囲にはところどころ小さな炎が上っていた。
あまりにも大きな爆発だったからか、隊長を含めた魔法隊のみんなが駆けつけてくる。
「多々良くん、何事だ!?」
「新作の魔法具の実験だったんですが……ちょっとだけやりすぎてしまって……」
「この規模でちょっとだと……? 練習場が無くなっているんだぞ!」
それから俺と王子は隊長にこっぴどく怒られてしまった。
自分の力で身を滅ぼすようなことがないようにと口酸っぱく怒られ、俺と王子は肩を落として正座していた。
「はあ……それで? この魔法具のコストパフォーマンスはどうなんだ? 魔石、結構使うんだろう?」
「いえ、湯水の如く使うわけではないですが……」
「そうか……起きてしまったことは仕方がない。扱いに細心の注意を払って新たな攻撃手段として活用していこう。威力は申し分ないようだからな」
こうして、魔法隊の装備に新たな魔法具が加わることになった。
後日、連帯責任として王子は練習場の再建を任されることになったが、俺は知らないふりをしておいた。
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