第15話 食堂長の挨拶

「お食事中のところ、失礼いたします。食堂長の宇都宮です」


 蝶ネクタイの食堂長が、やって来られて御挨拶いただきましてな。

 何ですか、川中さんと知合いとのことで。本社におられた頃食堂関連の業務で接点がおありだったとおっしゃるではないですか。

「川中さんもそうですが、御同席の先生方も皆さんお酒を飲まれるようですので、当食堂のコックのほうがいささか気を利かせまして、腕によりをかけて味付いたしました。お口に合われましたでしょうか?」

 なんで私や山藤君が先生なのか、なんだか素性がばれてしまったような、ちょっとばつが悪い気もしましたが、そんなことを述べてもしょうがないので、宇都宮さんにお答えしましたよ。


「いやあ、今日のステーキもカツレツも、さすがにうまいですな。飯も進むことでしょうが、これなら、ビールも進もうものですよ」

 とまあ、山藤君がおっしゃってね。

 とりあえず先生方なんて言われてしまったら、しょうがない。

 私ら、川中さんのご紹介を受けてご挨拶しました。


 真鍋先生、ありがとうございます。何と申しましょうか、特急の食堂車もいいですが、この食堂車、石炭レンジで調理しておりまして、この急行列車の食堂車を目当てに来られるお客様もおりまして。

 石炭レンジは石炭をくべて火を一定に保っていくのも職人技でしてね、今時の電子レンジですか、ああいうもの寄り手がかかるだけに、通のお客様にはごひいきいただいておるところであります。

 ですが、どうしても安全のことを考えたら、痛しかゆしですね。

 これが攻めて、地上の居酒屋かステーキハウスでしたら、もっとのびのびと料理できておいしいお料理をお召し上がりいただけるところですが、いかんせん狭い列車内ですから、そこは致し方ございませんで・・・。


「宇都宮さん、それは仕方ないわな。制約多々ある中での営業じゃからね」

「ええ、山藤先生、いえいえ山藤さんのおっしゃる通りです」


 そんな感じでね、宇都宮さんからお話しいただいたの。


「それでは川中さんに先生方、もしよろしければ、いいワインが入っておりますので、お代は結構ですから、お持ちいたします。いかがいたしましょうか?」


 宇都宮さんがおっしゃるので、それでは遠慮なくということでいただくことにいたしました。おおむね腹も膨れておりましたので、デザート代りに、あとでアイスクリームも注文させて頂こうとしましたら、そちらもお題は結構ですと。

 それで、ワインとアイスクリームをいただきながら、しばらく話し込んでおりました。それほど忙しくなくなったということで、接客はウエイトレスに任せて、宇都宮さんも席に来られて、いろいろ、食堂車のお話をしていただきましたよ。

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