軍艦大和の生涯

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」で宜しく

第1話:軍神降臨

 2600年8月8日、紀元二千六百年特別観艦式が計画されている裏側で、後に世界最強と謳われる戦艦大和、その1番艦が進水した。大和型のネームシップである彼女は、本来ならばその観艦式の大目玉艦であろうに、キラキラした舞台は戦後になるまで国際情勢上、許されはしなかった。とはいえ、それは彼女にとって不運とも言い難かった。なぜならば……。


  ……よし、どうにか降臨には成功したか。本来ならば別次元に過ぎないのだが、それでも救える世界は救っておかねば。


 ……軍艦大和進水式は、概ね滞りなく修了した。ただ一つ、不具合が指摘される部分があった。尤も、戦場ではよくあるオカルト話に過ぎないと一蹴されたその「不具合」とは……。


「……結局、幽霊騒動とは一体なんだったんだ?」

「さてね、よくある怪談話だろ。とはいえ、あながち不具合とは言えないかもしれんぞ」

「どういうことだ?」

「……かの軍艦三笠にも同じ「不具合」があったらしい。見かけた幽霊がシャン美女だったってのも同じだ」

「ほー、そんなことがあったのか」

「……なんでも、そのシャンまで酒盛りに興じていたらしい。で、その後謎の爆発が起きたんだと」

「なんだそれ。まるで三笠での酒盛りの際に三笠まで酒を飲んだみたいじゃないか」

「……まあ、そういうわけだ。決して「不具合」とも言い切れず、むしろ幸運艦の予兆かもしれん。まあ、いにしえの国号まで背負ってるわけだ、なんとしてでも活躍して貰わないとな」

「ああ」


 ……いわゆる、軍隊には憑き物の怪談話であるが、軍艦三笠にはなぜか、美女の幽霊がたびたび目撃されたらしい。そして、軍艦大和にもそのような報告が上がっていた。軍部は、軍艦大和の喧伝が出来ない代わりにこの怪談話を瑞気と捉え語り草としたという。だが、「彼女」は瑞気どころではない名声を大日本帝国にもたらすこととなる……。


 運命の開戦まで、およそ1年4ヶ月であった。

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