4-5 同窓会の席で

 時間とは何だろうか。中学校を十五才で卒業してからの五か年間、時間は人間をどのように変えてしまったのだろうか。

 僕は変わってしまった友人に、今日、もう一度会う。それは楽しみだけれども、怖ろしさも同時に感じてしまう出来事だった。


「よぉ、久しぶり」

 僕らは同窓会の会場である「やまかわ家」の入口で、記帳をした。何人か同窓会の実行委員が椅子に座って名簿を見ていた。



「カナタ、背のびたな」

 青田君だった。彼は剣道部で、昔から上背があった。五年経ったいまでも、やはり体格が良く、太い声をしていた。

「青田君も。まだ、剣道をしているの?」

「高校も剣道部だったんだよ。今、調理の専門学校へ行っていて、剣道どころじゃなくてさ」

 青田君はそう言うと爽やかに笑った。そよ風のような雰囲気は昔からで、女子から人気があったことを思い出した。

「カナタは、今、何の勉強をしているだ?」

「文化人類学だよ。結構、面白い学問なんだ」


 僕は、テーブル席のクジを引いた。テーブル席に番号が振ってあり、そこへ案内してくれるのだ。


「えーと……。これ。十七番」

「それだと、左側の『椿』のテーブルだね」

 青田君が、案内してくれた。


 席に座ると、見知った顔があった。

「瞳ちゃん、だったよね」

 中川瞳。くるみと親友だった女の子。

「くるみとは、今も仲良くしているの?」


 僕は気軽な気持ちで尋ねた。

「そう。今も良く買い物に行くのよ。山河市内で遊ぶことが多いの」


 僕たちが、そんな話をしていると、くるみが近づいてきた。

「ねぇ、瞳。席を替わってくれない? カナタと話したいの」

「モチロンいいわよ」

「ありがとう。わたしの席は向こうの『楓』のテーブルよ」

「わかった」


「私、ずっと会うのを楽しみにしていたいのよ」くるみが恥ずかしそうに告げた。

「本当に綺麗になったね、くるみ。見違えたよ」

「ありがと」


 僕らはそれから小一時間、料理を食べながら話をした。その再会は夢のような時間だった。



 時間は人間を変えてしまう。それは良くも悪しくもそうだった。思い出の中で美化された人物が、目の前に再び現れた時に、僕らは時間の神さまの前で、無力になる。それが今起こっているのだ。

 くるみはかなり変わっていた。しかし、変わっていない所もあった。笑い方がそうだった。笑った顔が素敵なのだ。だから、少し面白い話しをして、笑わせたくなる。その点だけは、昔のままだったのである。


 それから僕らは連絡先を交換して、同窓会を終え会場を出たのだった。

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