4-2 同窓会の朝

 八月十四日。

 僕はベッドで目覚めた。時計を見ると、朝五時十五分だった。僕はベッドから起き上がると、朝のキッチンへと向かった。喉が乾いていたからだ。


 夏の朝が静かに過ぎてゆく。太陽が力をまし、外気温が少しずつ上がってゆく。まぶしい光が、朝のキッチンに差し込んでいた。僕は冷蔵庫から冷たい麦茶のガラス瓶を取り出して、グラスに麦茶を注いだ。一気に飲み干す。


「今日は同窓会か。あいつら、大人になったかな」


 僕は、数年間会っていない面々を思い起こしていた。懐かしい顔に、今日再会するのだ。期待に胸が膨らんだ。



「おはよう、カナタ。今日は早いんだな」

 父の宮島学みやじま まなぶだった。パジャマ姿のまま、キッチンに入ってきたのだ。父も喉が渇いていたらしく、水道の水をグラスで飲んだ。


「今日は成人式と、僕の小中学校の二十才はたちの同窓会なんだよ」

 父さんは、少し眠そうに僕の言葉に答えた。

「ハタチか。この機を待って、結婚する人も居たな。成人式が終われば、カナタも立派な大人だよ。お父さんもカナタのことを一人前の男性として、見なきゃならないな」

 父さんは、少し淋しそうに、けれども嬉し気にそう告げた。僕は一瞬言葉に詰まってしまった。


 

 父親を超える。それは余り考えたことが無かった。いつもガイドしてくれるのは、香子姉さんだった気がした。経済的にも、余り頼っていなかった。お小遣いをあげないで、バイトをさせる。それが父の教育方針だった。

 そのお陰だろうか。僕は年齢の割に社会経験が豊かで、実社会を良く知っていると、香子姉さんに言われたことがある。アルバイトはお金だけでなく、一人の人間として必要な何かを、僕に与えてくれたのだ。高校二年生の春休みから始めた、ハンバーガー店でのアルバイトは、大学二年生になった今も続けていて、黒木チーフのもとでずっと働いてきた。通算三年になる。お金も少しずつたまり、将来、自分の車を買う際の軍資金にしようと考えていた。


「父さんは、大人になって何か変わった? 大人になると、何が違うの?」

 僕の言葉に、父さんは少し考えを巡らせていた。そして、程なくつぶやいた。

「自動車を運転できるようになったことかな。今でも教習所で四苦八苦したことを覚えているよ」

 そう言って、父は少し笑った。

「カナタは大人になったら、何がしたい? 今してみたいことは何か有るかい?」

 父さんが優しく尋ねた。


「そうあなぁ。撮影旅行がしてみたいな。桜前線を追って、南から北へ移動しながら桜の写真を撮ってみたいんだ」

 僕はかねてよりの考えを、父さんに放ってみた。その考えは、僕が高校生の時から抱いていたもので、いつかキャンピングカーを借りて撮影旅行をしてみたいと思っていたのだ。


「いつか実現できるさ。カナタならきっと」

「ありがとう」


 僕はそれから部屋へと戻り、午後からの成人式とその後の同窓会に備えるために、少し眠った。

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