2-4 春休みのアルバイト
僕は春休みの間、およそ二週間だけバイトしようと思っていた。バイトは週一回休みがある予定だった。
バイトを始めて、幾つか解ったことがある。それは、ポテトのシーズニングの加減と、働くことの辛さだった。
最初の三日間がキツかった。仕事が終わってまっすぐ家に帰り、ベッドへと倒れ込む。そんな日が一週間ほど続いた。
髪にフライをする場所の油煙が付き、何回もシャンプーしなければならなかった。疲れているので、お風呂に入りたくないのだが、ようやく湯船に浸かると、ホッとして体が喜ぶようだった。今までは、入ってすぐ上がるカラスの行水だったお風呂が、バイトを始めてからは、ゆっくりと手足の疲れを取る長風呂に変わった。シャンプーやボディソープの匂いが、心をリラックスさせた。お金を得るのは、こんなにも大変なのか。何度もそう思った。
「宮島君、パティの焼き方が少し長いんじゃないかな?」
僕が、ハンバーガーに
「タイマーの時間通りに、焼いて下さいね」
「すいません、すぐにひっくり返せなくて」
「タイマーをよく見てね。それから、前のパティを焼いた時に出たカスは、まめに削り落として下さい」
「分かりました」
僕を指導してくれている、黒木チーフには頭の下がる思いだった。
黒木チーフは、向陽大学経済学部の三年生。昨年から店のアルバイトの中で一番偉いチーフに昇格し、新人の研修を中心に仕事をしていた。黒木政伸さん、というのが本名なのだが、みんなからは「クロちゃん」と呼ばれていた。
「クロちゃん、来週の日曜日に休みをもらいたいの。シフト表だと午後からの出勤になっていたんだけど、変更してもらえないですか?」
そう黒木チーフに聞いたのは、中川茜という高校生だった。
中川茜は僕と同じ西峰高校に通う一年生で、今年の春休みから僕と一緒に働きはじめた一人だった。実家の生活が大変で、高校入学と同時に入店したのだという。
「大丈夫だけど、一応確認してみるよ。できればもう少し早めに言ってね」
「はい。ありがとう、クロちゃん」
僕がバイトを一時的に休むことになったのは、春休みが終わってしまうからだった。
「せっかく慣れてきた所だけど、しょうがないね。次の夏休みにも、またバイトに来てほしいよ」
クロちゃんはそう言って、少し涙目になった。僕はその言葉に感情を動かされた。
「僕も、もう少し働きたいです。夏休みには必ず、もう一度働きに来ます」
そして僕とクロちゃんは、固い握手を交わして別れたのだった。
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