第40話 ピアの凶行
少し気分が落ち込む内容の話もあったが、なんだかんだで風の魔石も手に入り、残るは火の魔石一つだ。
ただそれと同時にネコになってしまったリカルドを元に戻る方法を考えないといけない。
(また帰ったら機嫌が悪いんだろうなぁ)
ネコの姿から戻れなくなったリカルドは、ずっとイライラしており、家の中でテーブルの上や棚の上、イスの上をピョンピョンピョンピョン飛び回っては「ニャァー!」と声を出して暴れている。
人の不幸を喜んではいけないが、その様子は面白くてたまらなかった。
(でもリカルドも四六時中あの格好だとかわいそうだよな……真面目に方法を探してやらないと)
いつもイカついばかりの性悪なヤツが今はちっちゃくて可愛くてたまらない。理不尽にイライラしていても、なんだか許せてしまう。
(あの時はお前がわからないなんて怒鳴っちゃったけど……アイツはアイツなりに頑張っていたのかも。小さな竜だった俺を成長させてくれて……そういえば俺はなんでこの姿になったんだろう。これも魔法なのかな。この姿はリカルドが用意したのかな。今度聞いてみるか)
またお土産にココ屋のはちみつバタートーストを買ってきてやったし、これで少しは機嫌が良くなるだろう。
そんなことを考えつつ、リカルドと長年過ごしてきた家に向かうべく、森の中を進んでいた。
すると緑帽子の子ウサギがピョンと跳ねて隣に並んだ。
「そういえばルディと最初に出会ったのもこの森だったよね。あの時は木の上からルディが『ぎゃー』とか言いながら落っこちてきたんだよねぇ」
思い出したくもないことを言われてしまった。もちろんニータに悪気はない。
苦笑いしていると反対側に青帽子の子ウサギも並んだ。
「アンタと出会ってまだそんなに日が経ってないんだよな。なんだかすごく長く一緒にいる気がするけどな」
ルディも「だよなぁ」と、うなずく。
「そうなんだよ。ピア達と出会ってからすごく色々あったせいか、すごく長く一緒にいる気がするんだけど一ヶ月も経ってないんだよな……」
こんな短期間で実に色々なことがあった。自分の謎だった事情も知ることができた。今まで生きるのはなんでもないことだと思っていたけど事情がわかると優しいことではないとわかった。
生きるのは大変なんだ、みんな。
それでも時間は止まらないから。みんな自分の心を奮い立たせて目的のために頑張っているんだ。そして誰かに支えられながら、誰かを支えたりもしながら、生きているんだ。
「でもボクはルディと出会えてよかったなぁ」
ニータはニッコリと笑った。
「ヒトって怖い存在だと思っていたけど、ルディみたいに優しいヒトもいるってわかったからね!」
ニータは照れたのか「キャー」と言いながらピョンピョンと跳ねて先に行ってしまった。
その姿を見て、ディアもフンッと鼻で笑いながら「とても気に入ってるんだからな、アンタのことは。とんでもないヤツだけどな!」と言ってニータの後を追っていった。
「二人とも……」
思わず顔がほころんでしまう。かわいいヤツら、と思ってしまう。
……あれ? そういえば。
もう一人が会話に入ってこないけれど、どうしたのだろう。
そう思い、何気なく後ろを振り向いた時。ピョンと素早く移動してきた、小さな物体がいた。
赤い帽子、赤い法衣。ベージュ色の毛をしたモフモフ。
それはもちろん、ピアだ。
ピアはルディに向かってジャンプをしてきた。よくあることだ。
感極まった時とか、ピアはよく抱きついてくる。その仕草がとても愛らしくて、ついつい頭をなでてしまいたくなる。
また今度もそれかなぁと思った。
『ルディが大好きだよ!』と言ってくれたピア。その言葉に、どれほど救われたか。誰かに必要としてもらえることが、どれほど嬉しいか。
だが今回は違った。いつものように抱きとめたが――下腹部に違和感があった。
腹部に痛みを感じた。
何が起こったのか、すぐにわからなかった。ピアの足の爪で刺さったのかと思ったが、そんな生やさしいものじゃない。
もっと鋭い物、皮膚が突き抜かれたような。
「うぐっ……」
あまりの痛みにルディは地に膝をつけた。
再びピアはジャンプしてルディから離れると、彼らしくない無表情の中にある、うつろな赤い瞳をこちらに向けていた。
「ピ、ピア……?」
その手には血のついたナイフが握られていた。
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