第32話 マルチ眼鏡の仕様について

 俺が右手に持っている手投げ爆弾を例に問題点の説明を開始した。


「はい、簡単に説明しますと、例えばこの『エクスプロージョン』を保存したタンクですが、これは僕の考える『手榴弾』と『ダイナマイト』という二つの爆発物の性質が混ざっています」

「二つの性質が混ざっている?」

「はい、手榴弾が投げてから三秒後に爆発して約十五メートル前後に破片をまき散らし人や建物を攻撃する武器の性質、もう一つのダイナマイトが鉱石などの採掘や岩盤の破壊に使われる岩を破壊するために作られた爆薬の性質です」


 まぁ、ダイナマイトは戦争時などは人を爆破するためにも使われたけどね。

 後にグレネードに代わってからも、人や兵器を壊すためのものだし、あまり戦時利用のイメージは渡したくないから伏せておく。


「つまり、その二つのイメージが混ざり合って、『投げて三秒後』に『鉱石を破壊する』爆薬に変化したという事か」

「その通りです。先日実験がてら、森で魔獣相手に投げてみたのですが、周囲の木々や地面は壊れました。

しかし、魔獣は爆発したのに即逃げられたので、肉体的なダメージはほぼなかったと推測されます」

「それだと任務では使いにくいんじゃないかな。

基本的には建物を壊さないで人を倒すことを主眼に置きたいはずだ」

「それは状況次第ですね。

しかし、今手元にあるのはボクが可能な限り他人を傷つけたくないと思って作った、人を傷つけない爆弾だけです。

これを露天掘りやトンネル採掘などに提供したらとても効率的な作業ができると思いますよ」


 事実、俺はまだ人を切るのに躊躇している。

 だからか、ポルフを切るべきシーンだったのに、拘束して仲間にした。

 それに、神様に掛け合ってカードを発行してもらい、あまつさえ仲間に引き入れている。


「逆にうまくダイナマイトに寄せれば、近寄ったり投げたりせずに、外部から刺激を与えることで遠隔地から連鎖爆破もできると思いますよ。

魔術式の解析さえ進めば、建物を壊さずに人を倒すだけの兵器も作れますし、うまくやれば自分たちは傷つけずに相手だけ制圧できるし、逆に人を傷つけない採掘道具にもできますし」

「なぁ、俺は詳しくないんだが、今のままで問題があるのか?

爆破するという用途が満たせるならそれでもいいんじゃねぇか?

例えば床に穴をあけて落とし穴にして倒せば、それでも敵を倒すって用途は満たすだろう?」


 お、良い質問だな。

 じゃあ問題を考えてもらうとしようか。


「それだと、いくつか問題が発生ます。なんだと思いますか?」

「あ?床を壊して問題になること?歩きにくくなるとかか?」

「はい、それもですが、床が抜けたら倒した後に床下から敵を引き上げたり、建物が崩落してしまったり、敵が埋まったりして掘り起こすのが大変だったりします。

これ以外にも色々問題も出てしまうかもしれないんだ。

だから、実際の戦場と使い道をはっきりさせてそれに合わせた製品を作る必要があるのさ」


 ポルフはこのあたりの情報にあまり触れていないおかげで、難解になりやすい説明を噛み砕いて素人にわかりやすくするために割と重宝されていた。

 上層部あての報告書を書いても、詳しすぎて何がすごいかわからんって突き返されたりするんだよね。


「あと、イメージを実物にするのもすげー技術なのに、それで満足しちゃダメなのか?」

「そうですね、イメージを実物に反映することについて、良いことと悪いことそれぞれありますよ」


 これは考える材料がないから素直に答えることにする。


「へぇ、じゃあ悪い方から聞こうか」

「はい、悪い方は『書きこむ個人のイメージに左右される』つまり、同一の製品が安定して生まれないということです」

「なるほどなぁ、爆弾で言うと作る奴によって威力も影響範囲も効果対象もバラバラなのに、見た目で見分けが付かない物じゃ実践で使えねぇわな。

じゃあ、いい方はなんだ?」

「はい、良い方は『書きこむ個人のイメージに左右される』ことと……」

「なんだそりゃ、同じじゃねぇか」

「いいえ、イメージに左右されたうえで、『書きこまれた式がきちんとした魔法式として完成している』ことですね」

「なんだそりゃ?」


 ククク……こういう知識マウントには少し楽しさを覚えてしまうが、それは抑えておこう。

 あくまでわかりやすさを重視して説明する。


「複数人で別のイメージをして書きこんだ製品でも、それぞれ別な魔法式ができるんだ。

そして、それはきちんと動作する正しい式として保存され、マルチ眼鏡で読み取ることができる。

出来上がった魔法式を書き出して見比べることで、詳細に『どこをどう変えたら、実際に使った際の結果が変わるか』を知ることができるんだ」

「そうすることで安定して同じ製品を生み出せるんだね。

これは研究のし甲斐があるなぁ」

「だから、既存のラボメンバーじゃないクロウやノインさんを召喚して、可能な限りいろんな人のイメージを書きこんで比較条件を整えるのも目的の一つってわけだ」


 そんな話をしていると、トクサがノインさんを連れて戻ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る