第10話 もう一人の隊長・セレーネ

 隊舎はコンクリート造だった。

 と言っても鉄筋コンクリートではなく、ローマンコンクリートのようだった。

 基本的な部屋割りは、下級の騎士が八人部屋、隊長レベルが二人部屋、それ以上の幹部は個室だそうだ。

 休日と長期任務後に自宅に帰る人もいるらしい。


 アイビー隊長の部屋──要するに二人部屋──に通される。

「この部屋は私とセレーネ隊長の二人で使っている。夜間はこの二人で監視させていただく。

貴様が信用に値すると判断されれば、一般隊士部屋に部屋を用意しよう」

 左右にベッドと机がある。

 それらが各隊長のもの、真ん中に敷かれたマットレスが俺の寝床で間違いないだろう。


「セレーネ殿は怪我をした部下の治療で遅れているようだな」

「治療とかもちゃんとあるんですね。復活できる世界って医療とか回復が弱いって聞いてましたが」

「全くないわけではないが、軽傷から中傷の治療が主になっているな。

重体以上の場合は、安楽死薬を飲ませて苦しませずに一度死体にしてから、復活を待つようになった。

しかし、回復薬やレリックの回復魔法で治しやすい傷で、いちいち死ぬのも面倒だろう?

だから、医師やセレーネ隊長のようなヒーラーがトリアージを行って、治療できるなら治療を行うのが一般的だ」

 そんな話を聞きながら、寝床を整えていた。


「あとは精神科か……。最大一ヶ月俗世にいないということが、意外と心への負荷が大きいと分かってから精神医療が発達した」

 それを聞いてすこし安堵した。

 基本的に自分達と似た精神構造をした人間の世界ではあるのだな。


 そういえば、今日は風呂に入ってないが、その辺の自由とか確保されるんだろうか?


「お疲れ様でーす」

 紺色の髪をティアラのように編み込んだ女性が部屋に入ってきた。

 話しの流れからして、このホクロのセクシーな女性がセレーネさんだろう。


「アイビーさん。こちらの方が例の?」

「あぁ、保護観察対象だ」

「ふ~ん。いい男って感じじゃないけど、悪い顔はしてませんね」


 間近でじろじろと見られた後、そのように付け加えられた。

 気になったのはセレーネの瞳が藍色に輝いていたことだろうか?

 昨日、自分が魔法を使ったときに眼鏡が光ったのと酷似しているが、もしかして彼女も何かのアーティファクトを持っているのだろうか。


「セレーネ隊長の鑑定眼でも危険性は感知出来なかったか」

「そうですね。取り敢えず悪意や殺意の表出はありません。ただ、おっぱいより太ももに欲が流れていたのでアイビーさんも気を付けてくださいね」

 そんなことがバレるのか……自重せねば……。


「寝るときは拘束するか?」

「そんな度胸はないので不要だと思いますよ。童貞みたいですし」

 ど、童貞ちゃうわ。


「焦りと畏怖の感情……図星でしたか。

ミスター・フトモモスキー」

「グラスキーです。訂正を願います」

「イヤです」


 俺はマルチ眼鏡を取り出す。

 アイビー隊長が剣の柄に手を当てるのを無視して、セレーネに眼鏡を渡す。

「これは目につける神器です。お貸ししますので、これをかけてみてください。付け方は俺みたいに開いて耳と鼻に当てる感じで」


 再度鑑定眼が光る。

「いいでしょう。こうですか?気持ち悪っ……」

 度付きのレンズに慣れていないセレーネは、1度かけたあとフレームをずらし、レンズ上部から俺を睨み付けてくる。

 必然的に上目遣いの清楚系巨乳が誕生した。


「可愛い……」

「すごい偏愛ですね……友達のノロケでもここまでの欲は見ませんでしたよ……。そういえば、この装備は?」


「眼鏡……僕の神器です」

「アイグラス好きでグラスキー……名は体を表すと言うが、表れすぎだろう?」

「アイビーさんもかけてみてください」


 眼鏡を掛けたアイビーを見た瞬間、俺は気を失ったらしい。

 高身長スレンダー美女のずらし眼鏡とか最高すぎる。


「……分かりました訂正を受け入れますグラスキー……。いえ、変態さん」

 あだ名が変態さんになった。

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